リックテレコムWeb雑誌書籍展示会・セミナー 会社案内個人情報保護方針採用情報

テレコミュニケーションコンピューターテレフォニーCOMPASS

テレコミュニケーション

テレコミのご案内
TOPへ戻る
編集コンセプト
2012年発売号一覧
2011年発売号一覧
2010年発売号一覧
2009年発売号一覧
2008年発売号一覧
2007年発売号一覧
2006年発売号一覧
2005年発売号一覧
2004年発売号一覧
2003年発売号一覧
2002年発売号一覧
2001年発売号一覧
インタビュー集2012
インタビュー集2011
インタビュー集2010
インタビュー集2009
インタビュー集2008
インタビュー集2007
インタビュー集2006
インタビュー集2005
インタビュー集2004
インタビュー集2003
インタビュー集2002
インタビュー集2001
お問い合わせ先



広告掲載料金
広告掲載企業
2011・2012年記事広告一覧
連載記事広告一覧
2010年記事広告一覧
2009年記事広告一覧
2008年記事広告一覧
2007年記事広告一覧
2006年記事広告一覧
2005年記事広告一覧
2004年記事広告一覧
2003年記事広告一覧
2002年記事広告一覧
お問い合わせ先


セミナーのご案内
セミナースケジュール
お問い合わせ先



テレコミTOP編集コンセプト購読のご案内広告のご案内
 


2001年6月号

早稲田大学:安田靖彦 理工学部教授
周波数は国民全体の共有財産
事業者枠に捕われない効率的運用こそ
無線ブロードバンドサービスを加速する

NTTドコモの第3世代移動通信サービス「FOMA(フォーマ)」開始で、いよいよ無線通信世界のブロードバンド時代が幕を明ける。電気通信技術審議会会長代理として日本の通信政策をリードしてきた早稲田大学理工学部の安田靖彦教授に、移動体通信サービスの可能性と今後の在り方について聞いた。安田教授は、有限資産である無線の周波数帯域は営利に捕われず公共のもとに管理するほうが、無駄のない運用を可能としブロードバンドサービスをより活発なものにすると指摘した。

Profile

安田靖彦(やすだ・やすひこ)
1963年3月東京大学大学院数物系研究科電子工学専攻博士課程修了、工学博士。1977年4月東京大学生産技術研究所教授。1992年9月早稲田大学理工学部電子通信学科教授(現在、電子情報通信学科)。1996年5月東京大学名誉教授。 電子情報通信学会会長、郵政省電気通信技術審議会委員・会長代理、総務省情報通信審議会委員・同情報通信技術分科会会長、MCPC会長等も務める。1935年東京都生まれ。

――日本の移動体通信市場の現状をどのようにご覧になりますか。

安田 2000年3月に移動体通信(携帯電話・PHS)の加入者数と固定電話の加入者数が逆転してから、すでに1年以上が経過しました。携帯電話・PHSの総利用者数は4月末現在で約6800万加入と、日本の人口の半数以上を占めるまでに普及しています。移動体通信が、日本の通信市場の主役の座に踊り出たことは間違いないでしょうね。

――次のステップとして、いよいよIMT-2000によるブロードバンド化が始まろうとしています。しかし、J-フォンそしてNTTドコモと正式サービス開始の変更がアナウンスされました。これは市場にどのように影響をもたらしますか。

安田 期待が大きかっただけに、出鼻を挫かれたと残念に思う端末メーカーやコンテンツプロバイダーも多いでしょうね。
 しかし試験サービスとはいえ、iモードが9.6kbpsという低速のデータ通信速度で大ヒットしたことを考えれば、静止状態で最大2Mbpsのデータ通信サービスを提供するIMT-2000の登場に、日本のみならず世界中が注目していることに変わりはないでしょう。メガビット単位の伝送能力を持つIMT-2000なら、ビデオなど動画像のストリーミングメディアはもちろん、静止画1枚でもこれまでにない高品質のものを瞬時に受信できるわけですから。
 ただ、無線によるブロードバンドサービスには課題も多く残されています。とりわけ携帯電話・PHS事業の展望ということになれば、これは現在マスコミが伝えているほど楽観視できるものではありません。

――といいますと。

安田 無線による通信サービスには、光ファイバーのような有線ケーブルの通信サービスにはない周波数という物理的な制約がつきまとうからです。
 IMT-2000や第4世代の移動通信システムは、光ファイバーを用いた有線系の通信サービスと相互補完的な役割を担うことになるだろうというのが私の推測です。ユーザーにとって本当の意味で魅力的で本格的なブロードバンドサービスは光ファイバー網上によって提供されることになり、無線はあくまで機動性や簡便性を重視したサービスとして利用されることになると思います。

帯域あたりの収容数は減少へ通信料金維持なら売り上げ減も

――周波数による制約とは具体的にどのようなものなのですか。

安田 そもそも、NTTドコモがIMT-2000を積極的に推進する背景には、現在PDCの925〜940MHzにおける周波数帯域で収容できるユーザー数が限界に近づきつつあることを知っておく必要があります。  全国すべての地域でというわけではありませんが、東京都心部など一部の人口密集地帯でつながりにくくなる通信障害がそうです。
 NTTドコモとしては、いち早くFOMAを商業ベースにのせて、窮屈になった現行PDCの周波数帯域から1945〜1960MHz、2135〜2150MHz帯のIMT-2000にユーザーを移したい、あるいはそこで新規顧客を開拓したいという狙いがあるわけです。

――では、FOMAの本格展開で収容数問題は一応の決着がつくわけですね。

安田 ところがFOMAでは、PDCと同程度のユーザー数を収容できるとは限りません。
 FOMAに限らずIMT-2000サービス最大の売りは、大容量のデータをより短時間でダウンロードできる高速通信性にあります。現行PDCと同程度のデータ容量なら接続時間が短縮され、その分だけ収容数も増えるだろうと考えがちですが、使用する帯域が広くなるので一概にそうとはいえません。
 また、テレビ電話を想像してみてください。FOMAが仮に現行PDCの9.6kbpsの約200倍の通信速度を持ったからといって、3分間の会話が1秒間に短縮されるというものでもありません。
 iモードサービスにしても同様です。たくさんの情報量を高速に配信できるインフラが整えば、自然とPDCサービスでは実現できなかったリッチコンテンツが登場するでしょう。ユーザーが回線を占有する通信時間は、伝送容量の多寡に関わらずこれまでとあまり変わらないかもしれません。

――その分がIMT-2000の帯域の割り当て幅で考慮されることはないのですか。

安田 残念ながら、IMT-2000の通信速度がPDCの何十倍に増えたからといっても、周波数帯域はこれに比例して割り当てられてはいません。それに、FOMAが商業的成功をおさめて人気を呼べば、結局のところ周波数不足の問題は避けて通れないでしょう。
 また、収益性についても不安が残ります。データ通信速度の増加に応じてユーザーが負担する費用も比例して増えればよいのですが、今の事業者間競争から考えても、単位帯域あたりの料金設定は今より安く設定せざるを得ないでしょう。そうなると、IMT-2000では基地局など新しい設備投資の負担が増す一方、単位帯域あたりのユーザー数と売上高は減少していくことになります。

事業者枠が最大の壁周波数の自動選択が切り札

――NTTドコモの抱える周波数不足問題が、人気ゆえの寡占状態に起因するというのも皮肉ですね。

安田 NTTドコモは一営利企業として他の事業者と競争せざるを得ませんからね。しかし、電話という公共性の強いサービスである以上、長期的な視野に立ってみて、ユーザーの利便性を削ぐ恐れのある現在の制度は問題です。
 周波数という有限の資産は、本来効率よく使われて国民全体の利益に還元されなければならないものです。
 事業者は周波数が一度割り当てられると、これを既得権として持ち続けることができるということ自体、見直さなければならないのかもしれませんね。

――解決策はあるのでしょうか。

安田 アイデアレベルですが、事業者枠の垣根を超えて、周波数を余らせることなく利用できるような施策を政府主導のもとで進める必要があるのではないでしょうか。例えば、家庭にいる間はPHSで実現されている固定電話の子機として、外出時は携帯電話として自動的に機能するような仕組みを端末の標準装備として義務付けるのです。
 さらに、PHS方式と携帯電話方式間の自動制御にとどまらず、他の事業者が持つ周波数帯域でも空きがあればこれを利用するのです。
 携帯電話利用のピークが深夜2時という調査報告もあり、家にいる時も携帯電話を固定電話の子機のような感覚で使用しているケースが多いのでしょう。ベッドの上で寝そべりながら携帯電話の周波数帯域を占有することは賢明ではありません。音質の良いPHSとして機能するほうが使い勝手はよいはずなんです。

――しかし、それぞれの利害関係を考えると、事業者枠を取り払うことは非常に困難に思われますが。

安田 もちろん、IMT-2000や第4世代の移動体通信システム(4G)で導入できるほど単純とは思っていませんよ。しかし、このままでは移動体通信のブロードバンド化がいずれ行き詰まることになるでしょう。
 テレビ放送に近いイメージですが、インフラ設備の構築や運用、保守は共同管理下に置き、事業者は番組制作能力、すなわちコンテンツ企画力やサービス内容で競争できるプラットホームの構築が理想的だと思います。
 肝心の管理者は、道路のように税収を原資に政府系第3者機関に一括して任せるとか、あるいはコンテンツプロバイダーやユーザーから得る手数料体系を事業者間で一元化して共同管理するといった道もあるでしょう。
 NTTドコモを例にみても、iモードのコンテンツプロバイダーから得られる数パーセントの課金徴収代行手数料とユーザーの月額基本使用料、通信料を元手に1兆円のFOMA設備投資額を賄っていくだけの体力があるわけですからね。

――インフラ設備の共有といっても、基地局間の幹線系通信網はNTTグループやNCCが保有していますが。

安田 インフラ部分を共有するということは、何も移動体通信事業者にとってのメリットだけではありません。将来的には固定系事業者もこの恩恵を受けるはずです。
 今日のインターネット網は脆弱なため、つながりやすさや接続料金が安いということが差別化競争に結びついていますが、これが公道のように接続できて当たり前、無料で当たり前ということになれば、固定電話に使用料を支払うユーザーなど皆無となるでしょう。ユーザーは、インターネットを介しIP電話を無料で使えるようになるでしょうからね。  通信市場に競争原理を導入するために行ったNTT民営化の主旨に逆行するようですが、携帯・固定を問わずインフラ設備の共有化を推し進める法的な整備も一考の余地はあるかと思います。

4Gとの融合を視野に高速の屋外無線LAN接続を開発

――冒頭に光ファイバーケーブルを用いた有線系サービスと無線系サービスを比較されましたが、日本ではMMAC(Multimedia Mobile Access Communication systems)といった高速の無線通信網構想がありますね。

安田 ええ。MMACは1996年12月に通信事業者や関連メーカー、それに標準化団体である電信電話技術委員会(TTC)や電波産業会(ARIB)が協力して提唱した次世代の無線通信規格です。
 MMACには、屋外での移動体通信利用時に最大30Mbpsを実現する「高速無線アクセス」や、屋内利用で最大100Mbpsを実現する「無線ホームリンク」、静止状態で156Mbps通信が可能な「超高速無線LAN」等があり、10〜30GHzの準ミリ波帯を用いるシステムの検討が総務省情報通信技術分科会で諮問されています。
 いずれも、静止状態で最大2MbpsのIMT-2000よりずっと高速の移動体通信を実現しますが、商用の通信サービスとしては未開拓の高周波数帯を使用するシステムのため、これらに準拠した製品の登場は早くても2002年以降になりそうです。

――MMACと4Gの関係はどうなるのでしょう。

安田 ITU(国際電気通信連合)の無線通信部門であるITU-Rが4Gの基本コンセプトを打ち出していないので詳細は未定です。
 ただ、IMT-2000の標準化の時もそうでしたが、MMACのように各国が次世代規格として開発を進めているシステムをベースに、それらを統合したものになるのではないでしょうか。  おそらく、無線LANのシステムが街中のあちこちに建てられるといった形になるでしょうね。移動中の高速データ通信を実現するというよりはむしろ、屋外でも固定網に近い無線通信手段を提供するということが主題に掲げられるはずです。

衛星携帯はエリアカバーの広域化で差別化を図る

――高速移動時における次世代移動体通信という点では、通信衛星を用いた衛星携帯電話にも可能性がありそうですね。

安田 衛星携帯電話は、周回衛星を用いたグローバルサービスと、静止衛星を用いた地域サービスがあります。一般に商業的には成功していないように報じられますが、これはむしろ、予測をはるかに超えるスピードで急成長した地上の携帯電話サービスを褒めるべきでしょうね。
 周回衛星を使ったサービスとしては、高度780kmの低周回軌道に打ち上げられた66機の衛星を用いたイリジウムがありましたが、約5万人の加入者しか集まらず2000年3月にいったんサービス中止に追い込まれたのは周知の通りです。
 また、高度3万6000kmに打ち上げられた静止衛星を使ったサービスとしては、NTTドコモが2機の静止衛星「N-STAR」を利用して「ワイドスター」を提供していますが、こちらも約3万人のユーザーを獲得するにとどまっています。
 次世代サービスということになると、実は衛星携帯電話は大容量のデータを双方向でやり取りするケースには不向きだということが分かっています。
 理由は単純で、数百機にもおよぶ世界中の通信衛星の伝送能力を束にしても、髪の毛1本程度の太さしかない光ファイバーの10分の1にも満たないキャパシティしか持ち得ないからです。ブロードバンド時代のユーザーニーズに応えるだけのサービス提供は見通しがたっていないのが現状です。

――では衛星携帯電話の必要性は今後薄れていくのでしょうか。

安田 次期N-STARでは、現行のPCサイズの携帯電話機をPDCサイズにまで小型化する方向で検討が進んでいますので、見た目の持ち運びやすさなどでは改善されるでしょう。とはいえ、人口カバー率99%を達成し、6200万加入に到達した現行サービスの端末と比較すれば勝負になりません。
 しかし、衛星携帯電話の利点はそもそもサービス対象地域の広さにあります。地上のサービスでは手に負えない人口カバー率の残り1%をカバーできるわけです。これは一般ユーザーに対する訴求力としては弱いでしょうが、山岳地帯や海洋上での通信、災害時における緊急通信手段といった特殊用途での活用にはおおいに期待が持てる分野であることは間違いありません。

――他に今後注目される移動体通信の技術はありますか。

安田 高度約20kmの成層圏に飛行船を浮かべて、これを中継基地局にした「成層圏飛行体通信」という構想があります。
 静止衛星よりもずっと地上に近いので、電波も強く国内通信網の整備には有望なプラットホームとして注目を集めています。飛行船を静止状態に保てるかとか、太陽電池だけで電源供給を賄えるのかといった課題も残されていますが、産学官の共同研究開発拠点であるYRP(横須賀リサーチパーク)を中心に精力的な研究開発を進めているところです。

――最後に次世代移動体通信への期待をお聞かせください。

安田 私個人としては、ブロードバンドサービス市場の立ち上がりにも期待は寄せるのですが、むしろ携帯電話の新たな使われ方に興味があります。
 ナノテクノロジー等の急速な進歩は、より高密度のICを生み出し、これまでの携帯電話端末の形状をさらに小型なものへと進化させるでしょう。そうなると、切手サイズの携帯電話機なども登場し、これを荷物に取りつけ位置情報サービスと組合わせて常時所在を把握するといったビジネスも可能となるはずです。
 必要な時だけ情報を発信する発想――大量の情報を湯水のように配信するブロードバンドサービスとは逆行するようですが、これなら周波数帯域を占有することなくユーザーの利便性を増やし、さらに事業者のサービスとしても無限の広がりを見せるに違いないと考えています。

(聞き手・大谷聖治)
 

リックテレコムメール配信サービス


 
Copyright 2003-2008 RIC TELECOM,All Rights Reserved