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2003年8月25日 発行


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<モバイルソリューション戦略>――クアルコム
BREWで広がる3Gサービス
1xEV-DOを生かす高機能アプリも
この秋からKDDIが本格展開を開始するCDMA携帯電話のアプリケーションサービスの世界標準BREW。ワイヤレスジャパンのBREWデモンストレーションコーナーでは、KDDIの3GサービスのCDMA2000進化を先取りした先進アプリケーションが数多く出展された。



クアルコムブースでのBREWアプリケーションのデモンストレーションコーナー。開発者セミナー参加者の試作アプリも数多く出展された
 今年2月、KDDIが開始した新しいアプリケーション配信サービス「BREW」は、もともと、携帯電話の組み込みソフト(ネイティブアプリケーション)開発の効率化を目的に策定された統一プラットフォームをアプリケーション配信サービスに応用したものである。そのため、(1)ハイエンド機種だけでなく普及機へも実装が容易となる、(2)開発自由度が高く高度なアプリケーションを実現しやすいなど、現在の携帯電話のアプリケーション配信サービスの主力技術である携帯電話用Javaに比べて多くのメリットを持つとされている。
 とはいうものの、現在のKDDIのBREW対応機種のラインナップは、A5304T(東芝製)とA5306ST(三洋マルチメディア鳥取製)、A1304T(東芝製)の3機種のみ。アプリケーションもまだ限られており、その本来の力は十分に発揮されているとはいい難い。
 だが、今年秋には対応端末の投入が本格化、来年の早い時期にKDDIの大半の機種がBREWに対応すると予想されている。それを見越してすでに水面下ではコンテンツプロバイダーやデベロッパーによるBREWソフトの開発の動きが活発化している。その一端が7月に東京ビッグサイトで開催された移動体通信の専門展示会「WIRELESS JAPAN 2003」で公開された。
 BREWを開発した携帯電話向け半導体メーカー、クアルコムが今年の展示の目玉としてBREW試作ソフトのデモンストレーションを行った。このデモには、海外で商用化されているアプリケーションから国内アプリケーションデベロッパーが現在開発中のもの、さらにはクアルコム、KDDI、デジタルコンテンツの人材育成で知られるデジタルハリウッドの3社が5月から共同で開催した開発者養成セミナーの受講者による試作ソフト等、約20種のアプリケーションが出展された。これらのアプリケーションを通してBREWの可能性を探ってみた。



米国のBREWアプリが無加工で稼働


米国Mforma社がベライゾンのBREWサービス向けに提供しているknuckle Upというゲームソフト。日本のBREW端末上でもそのまま動作する
 コンテンツプロバイダーにとってのBREWの最大の魅力といえるのが、その仕様が世界中で統一されており、同一のアプリケーションが異なったメーカーやキャリアの端末で共通に利用できること。これによりソフトの海外流通が容易になると見られている。では実際にどこまでアプリケーションの互換性が確保されているのだろうか。
 今回のデモでは、こうした疑問に答える実験がクアルコムによって行われた。これは米国ベライゾンワイヤレスのBREWサービス向けの3つのソフトを日本のBREW端末に一切調整を行わずにインストールして動作させるというものだ。
 ソフト自体が携帯電話の液晶のサイズの差を、ある程度自動的に吸収する機能を持っていることもあったようだが、映画に題材をとったMforma社のシューティングゲーム「Top Gun Air Combat game」などのアプリケーションが米国仕様のCDMA端末CDM9500(オーディオボックス社)と日本のA5304T、A5306ST上で変わりなく動作していた。
 ベライゾンワイヤレスのサービスはBREW V1.1仕様、KDDIの場合は2002年にリリースされたV2.0とBREWのバージョンも異なっていることから、確実に上位互換が確保されていることがわかる。
 会場でこの実験を担当したクアルコムの久保雄介氏は「Javaでは、一度書いたソフトがどんなデバイスの上でも稼働するという理念を掲げられているが、携帯電話向けでは仕様がキャリア間はもちろん、端末メーカーによっても異なっており、コンテンツプロバイダーは、アプリケーションをキャリア・端末ごとに対応させている。

BREWのダウンロードシステムと課金システムをPalmのアプリ流通に応用する試みも行われた。左は米国で販売されているPalm一体型CDMA携帯電話
BREWでは1つソフトを書けば、大きな調整をしなくても、海外キャリアの異なる端末メーカーの端末にも簡単に移植できる。コンテンツプロバイダーに対する負荷が小さいはずだ」という。
 もう1つ、BREWによるソフト流通の新しい試みとして注目を集めたのが、クアルコムが行ったPalm用アプリケーション配信のデモだ。



これはBREWのアプリケーションダウンロードと課金の仕組みを使って、Palm端末へ対するプログラムのダウンロードを実現しようというもので、米国のオールテルという通信事業者が今年からPalm一体型携帯電話を対象にサービスを計画しているもの。今回のデモでは、一体型端末ではなくケーブルで携帯電話とPalm対応のPDAをつないでアプリケーションをダウンロードする形で実施された。

DBなどのビジネス向けソフトも

 KDDIは、BREWを法人向けのソリューションとして強力に展開する意向を明らかにしているが、今回のデモでも法人利用を意識したアプリケーションがいくつか出展された。その1つがクアルコムが出展した「Go-Live」だ。これはBREWクライアントから、VPNを用いてインターネットを介して社内システムにアクセスできるようにしたもの。デモではサンディゴのクアルコム本社にアクセスしてサーバー、スケジューラー、さらには従業員の写真入りのプロフィールを検索できる「PH(Photo)」と呼ばれるシステムが利用できるようになった。これらは、実際にクアルコム社内で利用されているシステムで、デモに用いられたクライアントソフトも米国で使われているものを無調整で日本の端末にインストールしたものだという。
 もう1つ、ビジネスソリューション分野での試作ソフトとして注目されるのが、すでに1000社近くの企業に導入されているPDA向けデータベース「ル・クローンMobile Agent」のBREW版である。 このアプリケーションを使うことで、携帯電話の電波の届き難いビルの高層階や地下でもオフラインでの作業が継続でき、電波の通じるところに移動してサーバーにアクセスするという使い方ができるようになる。
 開発を担当するソア・システムズ市場統括部の田口正課長は「最近金融機関の外交業務などの分野でル・クローンが使われることが多くなっている。BREW対応により用途はさらに広がることになるはずだ」と見る。

クアルコムがサンディエゴ本社で利用しているBREWによる社内システムのスケジューラー(左・中)。右はモバイルデータベース「ル・クローンMobile Agent」のBREWの画面。車の販売が想定されている



Javaアプリより高度な機能を実現

 今回のデモには、試作段階のものだけでなく、近く商用サービスを開始する予定のアプリケーションも出展されている。
 Webメールの仕組みを用いて、携帯電話からインターネットメールサーバーにアクセスできる「リモートメール」というサービスを提供するネットビレッジの「アプリメール」もその1つだ。
 リモートメールは携帯3社のモバイルインターネットサービスの公式サイトとして運用されているが、秋ごろからau向けのサイトで「アプリメール」をダウンロードできるようにする。このソフトを利用すると操作性が向上するだけでなく、データを半分以下に圧縮し通信料金も削減できるという。
 このソフトは「待ち受け画面」として常駐させて利用することを想定したものだが、Windowsのデスクトップと似たユーザーインターフェースを持つことも可能で、ショートカットキーで別のアプリケーションを起動させることもできる。オリジナルのブラウザーも内蔵されており、天気予報の自動配信などのサービスも利用できるようになるという。
 ネットビレッジの佐藤充取締役は「BREW版では携帯電話アドレス帳データの読み込みが可能になるなど、Java版より、使い勝手がよくなる」という。
 もう1つ、この秋から登場するのが、ネット通販のイマージュによるBREW初のカタログアプリ「イマージュスタイル」だ。
 これはサイト上からアプリケーションをダウンロードすることで、サムネイル画面をスクロールさせて商品を選択し、高品質の画像で商品を確認するなど、ネットショッピングの使い勝手を大幅に向上させることができるもの。

auの公式サイトでこの秋から提供予定のメールアクセスサービス用ソフトの「アプリメール」(左)とショッピングカタログの「イマージュスタイル」(中)。将棋対局ソフトの「金沢将棋」(右)も近く登場するものと見られる



テロップや声でユーザーへメッセージを伝えることや、セールや新しいカタログの発行などを自動通知する機能も持つ。開発を担当したイノベイトの池田裕子氏は「このアプリの提供は当面BREWだけになる」という。「高画質の画像で多彩な商品の中から買い物ができるものは、現在のところBREWでしか実現できない」というのだ。

将棋対局ソフトの名作も登場

 アプリケーション開発者にとってBREWの最大の利点としてあげられることが多いのが、開発言語にPCのアプリケーション開発にも使われるC/C++が採用されている点だ。BREWではプログラムサイズの制約が小さいことも相まって開発が容易になるというのだ。
 実はJavaを用いて組み込みソフトを開発できる技術者は実際には少ないため、これまで携帯用のアプリケーションの開発には新たに技術の習得が必要になるケースが多かった。これに対し、C/C++はPDAやゲーム機などのプログラムの開発に広く使われている。BREWの潜在的な技術者の裾野は携帯電話Javaに比べ比較にならない程広いのである。
 またC/C++の採用はPCやPDA用アプリケーションのBREWへの移植が容易であるというメリットももたらしている。もちろん、巨大な最新のPC用のソフトをそのまま移植できるわけではないが、PDC用あるいはPC用でも10年程前のソフトであれば、容易にコンバートが可能になるという。
 今回出展されたものでその典型といえるのが、アンバランスが開発している将棋対局ソフトの名作「金沢将棋」のBREW版だ。携帯電話での対局アプリはすでにいくつか提供されているが、ほとんどはコンピューターがランダムに打つ初心者向けのものや、思考エンジンをサーバー側に置いているものだという。これに対してBREW版「金沢将棋」ではエンジンを端末側に収容したにもかかわらず、「初段程度の能力があり、次の一手の計算も10秒程度で済む」(開発にあたったアンバランスの本多智弥チーフディレクター)という。
 特筆すべきなのは、この製品の開発期間の短さだ。WIRELESS JAPANへの出展を打診されて、3週間で開発が完了したのだという。実はこのソフトのオリジナルはPC9800シリーズ向けに開発されたもので、アプリケーションサイズは400KB程度、開発言語にはCが使われている。機能を取捨選択してサイズを規定の200KB以下に抑えることは、さほど困難な作業ではなかったというのだ。


 今回のデモには5月から開催された技術者養成セミナーの修了者から募集された試作アプリケーションも展示され、6社がネットワーク対戦ゲーム、携帯電話のパフォーマンスを図るベンチマークソフトや携帯電話のインターフェースなどさまざまなソフトを出展した。実質的な開発期間が1カ月程度だったことを考えると、BREWのアプリケーション開発はかなり容易だといえそうだ。

進化する1x端末機能はPDAに相当

 日本の携帯電話の進化は非常に早いペースで進んでいるが、今回出展された試作アプリには、今後の端末・サービスの進化を見込んだ先進的な試みも少なくなかった。
 ビーマップが出展したBREW向けのコンテンツ配信システムもその1つだ。

一括ダウンロードによる情報配信を行うビーマップのアプリケーション。現在、公衆無線LANで提供されているサービスをBREWで実用化する計画
同社は、無線LANサービスを利用したPDA向けコンテンツ配信サービスを提供しているが、今回出展したのは、その携帯電話版だ。
 ユーザーは朝、新聞や単行本などのデータを丸ごとダウンロードし、それを通勤途中の電車の中で再生して利用する。実は、こうした利用形態は、現在の携帯電話のデータ通信速度やパケット料金を前提にしたら、とても成立しないといってよい。
 製品化を進めるビーマップの須田浩史執行役員は「この秋に始まるCDMA2000 1xEV-DOでは、料金水準も数十分の一になり、ADSL並みの高速ダウンロードが可能となる。十分に実用になるはず」と読む。

コミックのネット配信ビジネスを想定して開発中の「コミックスタジオ」
 同様にダウンロード系の新しい試みといえるのが、アニメーションデジタル制作ツールトップのセルシスが開発した「コミックスタジオ」だ。
 これは、紙に書かれたコミックと同様のイメージを携帯電話に配信、画面でスクロールして見ることができるものだ。商品化を進めるセルシス製品企画部の安田俊広部長は「新しいコミック流通の手段として出版社や同人サークルで利用されるのではないか」と期待をかける。
 前出のカタログアプリの「イマージュスタイル」やデータベースの「ル・クローンMobile Agent」なども1xEV-DOの導入を期待して開発されたものだという。さらにこれらのソフトのほとんどは、SDメモリーカードなど外部記憶メディアのデータが扱えるようになることや、QVGA液晶やARM9プロセッサーの搭載など携帯電話がPDAに近い機能を持つことを前提に開発されているという。すなわち、アプリケーション側からはこうした携帯電話の進化が求められているのだ。こうした端末が登場すれば、BREWアプリが1xEV-DOサービスをさらに魅力のあるものにしていくことは間違いないだろう。
http://www.qualcomm.com/


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