2013年2月号
合併でドコモ系1位、業界2位に
顧客接点の質の向上こそ生命線
寺本一三氏
(てらもと・いちぞう)
1948年11月14日生まれ。71年6月伊藤忠商事入社。97年4月同社通信ネットワーク事業部長。同年8月アイ・ティー・シーネットワーク代表取締役社長(現任)。99年4月伊藤忠商事メディア事業部長代行兼通信ネットワークビジネス部長。2002年4月アイ・ティー・シーネットワークに出向。03年7月同社に転籍
アイ・ティー・シーネットワーク
代表取締役社長
寺本一三氏
携帯電話販売代理店大手のアイ・ティー・シーネットワークは、パナソニック テレコムとの合併により、NTTドコモの販売数・店舗数で業界1位、販売数全体で業界2位になった。
「両社の持つ強みを水平展開し、量・質ともに統合効果を発揮したい」と寺本社長は意気込みを見せる。
●2012年10月にパナソニック テレコム(PT)と合併したことで、携帯電話の販売数で業界第2位、NTTドコモの販売数および店舗数で業界第1位になりました。大規模なM&Aでしたが、統合の進捗状況はいかがですか。
寺本 まだ3カ月ですが、事前に「統合準備委員会」を立ち上げて情報システム、人事・福利厚生制度の一部など重要なところは詰めておいたこともあり、非常にスムーズに進んだと自負しています。
業界関係者の中には、商社系とメーカー系の組み合わせを意外に思った方がいるかもしれないし、「上手く行くはずがないだろう」と思われている方もいるかもしれません。
しかし今回の統合は、約1年半前にPT社長(当時)の佐藤(正人氏、現アイ・ティ・シーネットワーク取締役副社長執行役員)さんと直接お会いした際、「通信キャリアの競争環境が厳しさを増す中で、販売代理店の大規模な合従連衡は避けられないのではないか。ならば、人が原点にあり現場を大事にする企業理念など共通点の多い両社が先手を打って一緒にやっていこう」と意気投合したのがきっかけです。親会社主導ではなく現場主導の合併という意味で、統合効果を大いに高めていけると確信しています。
●両社が真に融合するには、やはり時間がかかるのではありませんか。
寺本 確かに、2008年に日立モバイルから移動体通信機器販売事業を譲渡された際には、2年ほどの時間がかかりました。
PTとの統合も、個人的には「今まで他人だった気がしない」という印象を持つほど上手くいっていますが、まだ第一歩を踏み出したにすぎず、本番はこれからです。現在は社内に「融合推進委員会」という組織を立ち上げ、3つの大きな課題についてそれぞれチームを作って検討しています。
●具体的には、どのような課題がありますか。
寺本 最大の課題が、組織・人事体制を最適化し、人事体系を一本化することです。今年4月以降は徐々に双方の人材を交流したりして、完全に一つの会社になることを目指しています。第2に、統合によるシナジーの創出です。両社の持つ強みを水平展開し、量・質ともに統合効果を発揮することが重要です。
また、新会社の発足時に社名を変更しようとしていたのですが、事情があって変えられなかったため、6月の株主総会に向けてあらためて社内で公募します。合わせて企業理念やロゴも一新する予定です。企業理念については、若い社員にも加わってもらい、将来どういう会社にしたいかを議論しています。
スタッフの活躍の場も拡大
●シナジーの創出に関しては、キャリアショップが従来の180店舗から420店舗へと一気に増えました。数量効果がものを言う販売代理店業界では、大きな意味を持つのではありませんか。
寺本 販売代理店に限らず、どの業界でも3位ぐらいまでに入っていなければ生き残りは厳しいと言われる時代を迎えている中で、「規模の追求」による企業価値の向上を目的としたM&Aが行われています。
旧アイ・ティー・シーネットワーク(ITCN)は基本的にドコモショップ中心で、首都圏で集中的にキャリアショップを展開しています。ヨドバシカメラやビックカメラ、ケーズデンキなど大規模なカメラ・家電量販店との取引も多いほか、法人事業も手がけています。これに対し旧PTもドコモショップ事業が中心ですが、どちらかというと地方に強く、郊外に店舗を展開しています。このように、チャネル構成も立地条件も補完し合う最適な組み合わせといえますが、PTとの統合の第一義は規模の拡大ではなく、質の向上により企業価値を高めることです。このことによって、運営店オーナーの皆様にもより付加価値の高いサービスが提供できるとも思っています。
通信キャリアの差別化要因は商品力やサービス開発力などいろいろありますが、なかでもネットワークと顧客接点が強化すべき重要なポイントではないでしょうか。この両輪の一方である顧客接点の質を高めていくことが、代理店の差別化につながると考えています。
●顧客接点であるキャリアショップでは、スタッフの採用が難しくなっています。また、採用した人材を教育・育成し、定着してもらうことも重要な課題です。
(聞き手・土谷宜弘)
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