2014年5月号
格安SIMが変えたMVNO市場
3キャリアと相互接続し新サービス
三田聖二氏
(さんだ・せいじ)
1949年生まれ。73年カナダ国鉄入社。コンレイル鉄道を経て、82年ロングアイランド鉄道の副社長に就任。84年シティバンク エヌ・エイ副社長、87年メリルリンチ証券プロダクトオペレーション担当副社長。89年モトローラに入社し、本社副社長兼日本法人常務取締役。94年アップルコンピュータに入社し、本社副社長兼日本法人社長。96年に日本通信を設立し、代表取締役社長に就任。78年デトロイト大学電気工学科で工学博士課程修了。84年ハーバード大学経営大学院の上級マネージメントプログラム(A.M.P)修了
日本通信
代表取締役社長
三田 聖二 氏
携帯電話事業が大手3社に集約されるなか、モバイル市場拡大の牽引車としてMVNOへの期待感が高まっている。日本のMVNOの草分け、日本通信が進めている加入者管理設備HLR/HSSの自社保有は、次の時代のMVNOサービスの基盤となるものだ。三田社長に狙いを聞いた。
●「格安SIM」のヒットでMVNO(Mobile Virtual Network Operator)が改めて注目されています。通信料金の高止まりや行き過ぎたキャッシュバック競争などで携帯電話3社に非難が集まり、低価格でスマートフォンが利用できることからMVNOがクローズアップされています。この製品を2010年に初めて市場投入したのが日本通信でした。
三田 ネットワークが開放されていることを理解してもらうために、それまで携帯電話の中に隠れていたSIMを売り始めました。「SIMって何?」からはじまり、パッケージをデザインし、どのような仕組みで、どのように販売するか、ゼロからのスタートでした。
追随する形で各社が参入し、SIM市場は急速な拡大をしています。新しいこと、これから形成されることを言葉で信じてもらうのは難しい。まずやってみせる、というのが僕の長年のやりかたです。
●日本通信のSIMは大手スーパーのイオンが力を入れて売っています。
三田 今までも直販サイトや販売代理店を通じて家電量販店でも売られていたのですが、SIM製品は大手流通企業と直接組んで展開するようにしたのです。イオンはその第一弾で、現在は家電量販のヨドバシカメラ、EコマースのAmazonにもイオンと同様に特別仕様の製品を提供しています。これらの会社にとっても魅力的な商材になっているのだと思います。
イオンでは4月からLG製の端末とSIMを組み合わせた「イオンのスマートフォン」の展開も始まりました。
レイヤ2接続で格安SIMが実現
●格安SIMを展開しようと考えたのはなぜですか。
三田 動機はいくつかあるのですが、1つは携帯電話事業者がやらない、MVNOでなければできないサービスを実現したかったということです。それともう1つ、これをMVNO業界発展の起爆剤にできるのではないかという思いもありました。
当社は06年にNTTドコモに対して相互接続による回線提供を求め、07年に総務大臣の裁定を得て、08年にドコモの3G網とレイヤ3(IPレベル)での接続を実現しました。並行して総務省とお話しをさせていただき、07年の「改訂MVNO事業化ガイドライン」にMVNOが通信事業者と相互接続できることが明記されました。
●「卸売」だけでなく、相互接続が可能になったのは画期的なことでした。
三田 そうです。相互接続は通信事業者間の公正競争条件を担保するために作られた制度で、ドコモのように一定以上のシェアや設備を持つ通信事業者(第2種指定電気通信設備設置事業者)には、他の事業者からネットワークの接続を求められた場合に接続義務が課されています。接続料金にも「原価+適正利潤」という縛りがかかります。もちろんサービス内容について事前に接続先の事業者の了承を得る必要はありません。
これに対し、MVNOへの回線提供形態で一般的だった卸売では、料金決定権は事実上キャリアにあります。携帯電話事業者が事前にMVNOからサービス内容を聴取して、自社と競合する恐れがあると考えたら回線提供を拒否することもできます。これではMVNOが多様なサービスを提供するのは困難です。
MVNOが相互接続で回線を調達すればこの状況は一変します。しかし、ガイドラインができても相互接続でドコモと接続するMVNOは当社以外には出てきませんでした。
●ドコモがMVNOを「卸売」に誘導するような施策を進めたと。
(聞き手・土谷宜弘)
続きは本誌をご覧下さい