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Interviewインタビュー

2020年1月号

インターネットを超えるIOWN
「価値の論理」で勝者になる

川添 雄彦 氏

川添 雄彦 氏
(かわぞえ・かつひこ)
1961年9月5日生まれ。1987年4月にNTT入社。2003年8月サイバーコミュニケーション総合研究所 サイバースペース研究所 主幹研究員、2007年10月サイバーコミュニケーション総合研究所 サイバーソリューション研究所 主幹研究員、2008年7月研究企画部門担当部長、2014年7月サービスイノベーション総合研究所 サービスエボリューション研究所長、2016年7月サービスイノベーション総合研究所長を経て、2018年6月に取締役 研究企画部門長(現在に至る)

NTT
取締役 研究企画部門長
川添 雄彦 氏

2030年をめどに実現するとして、NTTが2019年5月から提唱し始めた「IOWN構想」。インテル、ソニーとグローバルな推進団体を作り、インターネットを超える、多様な価値を創出可能なICT基盤を目指している。IOWN構想とその中核をなす「オールフォトニクス・ネットワーク」について、NTT 取締役 研究企画部門長の川添雄彦氏に話を聞いた。

なぜ今、「IOWN構想」を打ち出したのでしょうか。その理由について、まずは教えていただけますか。

川添 きっかけはいくつかあって、様々なベクトルから最終的にIOWN構想に辿り着きました。
 その1つとしては、現在のAIのアプローチでは、いずれ限界を迎えると感じていたことがあります。これまでのAIは、どちらかというと人間の能力をデジタル化して、デジタルトランスフォーメーション(DX)に活用していくというアプローチです。しかし、現実世界における人間の能力は、非常に限られたものです。例えば、近年大きな被害をもたらしている異常気象を正確に予測するのに、人間の能力だけではとても足りません。
 生物学者のヤーコプ・フォン・ユクスキュルは「環世界(Umwelt)」という概念を提唱しています。すべての生物は種特有の知覚システムを有しているという考えです。
 例えば、ミツバチが蜜のありかが分かるのは、ヒトには見えない紫外線が見えるからです。また、シャコは生物界最強の知覚システムを持っていると言われており、ヒトの視細胞が3原色しか知覚できないのに対し、シャコは12色を脳に直接取り入れて処理しています。

様々な社会課題を解決するためには、多様な能力の実現が必要ということだと思いますが、そのことがどうしてIOWN構想に結び付くのですか。

川添 現在の情報システムの多くは、まず目的を決めて、その目的に基づいて情報を取得し、処理を行っています。あくまで人間にとって価値がある情報だけを伝送しているわけです。

それでは、ミツバチやシャコの眼で見たときの価値を後から取り出そうとしても無理ですね。

川添 そうです。現実世界のあらゆる情報を活用して社会課題を解決するためには、最初にフィルタリングなどは行わず、情報を全部持ってきて、最後の段階で処理方法を選択した方がいいわけです。
 ただ、現在の技術でこうした大容量の伝送や処理が本当に可能かどうかというと、大きな壁に突き当たっています。
 例えば、より高速に処理できるデバイスを作るため、さらにCMOSチップの集積度、あるいは動作周波数を上げようにも消費電力がネックとなり、これ以上は上がらない時代を迎えています。

「ムーアの法則」は限界に近付きつつあると言われています。

川添 ええ。ですから、今まで以上に高度なICTを実現するためには、抜本的な技術革新を起こさないといけない──。そう考え始めたのがIOWN構想の出発点でした。

光トランジスタの発明で確信

IOWN構想は、オールフォトニクス・ネットワーク、デジタルツインコンピューティング、コグニティブ・ファウンデーションの3つの要素で構成されています。それぞれ重要ですが、IOWNならではの最大の特徴がオールフォトニクス・ネットワークです。このアイデアはいつ頃からあったのですか。

川添 澤田が社長に就任した直後から、「革新をもたらす技術とは何だろう」と話し合ってきましたが、ネットワークから端末までのエンドエンドに光技術を導入していこうというオールフォトニクス・ネットワークのアイデアはかなり早い段階からありました。
 そもそもNTT研究所は長年にわたり、オールフォトニクス・ネットワークのような世界観に取り組んできました。ただ、こうした世界を本当に実現できるとは証明できていませんでした。
 それを証明できたのが2019年4月です。英国の科学誌「Nature Photonics」に、世界最小のエネルギーで動作する光トランジスタを発表しました。
 この光トランジスタの発明により、「オールフォトニクス・ネットワークという新しい世界を創れる」という確信を得たのですね。

IOWN構想の源ともいえる光トランジスタですが、一体何がすごいのでしょうか。

川添 光トランジスタの一番優れている点は、光から電気への変換効率が非常に高く、ものすごい低消費電力で動作する点です。
 先ほど言いました通り、LSIの集積度や動作周波数は、消費電力がネックとなって上げられなくなっています。では、LSIの中で一番電力を使っているのは何か。それは入出力(I/O)の部分なのですね。I/Oを光に置き換えることで消費電力を下げられ、チップ全体としての性能を上げられます。

ネットワークだけではなく、チップ間やチップ内の配線も光に置き換えていこうというわけですね。従来の電子回路に光技術を融合した「光電融合プロセッサ」の電力効率は、どれくらい向上するのですか。

川添 最終的な目標として、電力効率100倍を目指しています。

同じ性能であれば、消費電力が100分の1になるということですね。それは確かに抜本的な革新です。2019年10月に設立を発表したIOWNの推進団体「IOWN Global Forum」の共同発起人の1社はインテルですが、光技術が次のイノベーションになるという見方は半導体業界で一致しているのですか。

川添 そうです。

非IPで遅延200分の1

オールフォトニクス・ネットワークでは、2030年に光ファイバー1本当たりの伝送容量を125倍という性能目標も掲げています。光ファイバーのマルチコア化など様々な技術により実現しますが、パケット化を行わず、非IPで高速大容量化を図る点が大きな特徴となっています。サービスごとに異なる波長を割り当て、ダイレクトに光信号を伝送します。

川添 これまではパケット化する必要がありましたから、いろいろなところで効率が落ちていたのですね。光信号のまま送ることでオーバーヘッドがなくなり、大幅に効率が上がります。

遅延時間についてもエンドエンドで200分の1という性能目標を発表しています。

川添 パケットの待ち合わせ処理が不要になることもありますが、低遅延について最も効いてくるのは、データの圧縮処理が不要になることです。高画質な映像をそのままダイレクトに伝送できるので、これまで一番時間がかかっていた映像のエンコード/デコード処理がいらなくなるのです。

サービスごとに波長を割り当てるということですが、具体的には一体どのような提供イメージになるのでしょうか。

川添 実はNTTグループは、こうした世界をすでに実現しています。今、家庭向け光サービスの通信路はおよそ3つの波長でできているのですが、そのうち2つはインターネットアクセス、もう1つは「フレッツ・テレビ」に使われています。
 フレッツ・テレビは、アンテナ不要でデジタル放送が観られるサービスで、実はIPパケットは使っていません。デジタル放送の信号を1つの波長にダイレクトに載せて送っています。画質や遅延など、可能な限り電波による放送と同じ品質を実現したいという放送局の要望を受けて開発しました。
 例えば自動運転のための波長だったり、みんなが平等に高速で株取引できるフィンテック用の波長だったり、フレッツ・テレビのような考え方は、もっと様々な分野に広げられると考えています。
 インターネットには、安くてどこでもつながるというメリットはあります。しかし、あるサービスをギャランティしようとしたときには、必ずしも万能ではありません。

インターネット用の波長に加えて、様々な用途向けの波長が1本の光ファイバーの中で提供されていくということですね。ところで、「オールフォトニクス」と聞くと、電気信号には一度も変換せず、エンドエンドの全経路を光信号で伝送していくネットワークとも誤解しそうになりますが。

川添 ネットワークから端末まで、あらゆるところに光技術を導入していくという意味であって、「オンリー」フォトニクスという意味ではありません。将来的にはエンドエンドで光信号のまま送れるネットワークも実現できるかもしれませんが、まだ当分時間がかかるでしょう。
 また、IOWNは「有線ネットワークだけ」とも思われているかもしれませんが、IOWNはInnovative Optical and Wireless Networkの略であり、無線の要素も入っています。

無線については、どんな構想を描いているのですか。

(聞き手・太田智晴)
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