2025年10月号
3つの「ワン」でグローバルへ
光伝送は大容量化と省エネで差別化
森林正彰 氏
(もりばやし・まさあき)
1962年1月生まれ、北海道出身。84年4月に日本電信電話公社(現NTT)入社。NTT Com Asia出向(代表取締役社長)、NTT Europe出向(代表取締役社長)など主に海外畑を歩み、2018年6月にNTTコミュニケーションズ(現NTTドコモビジネス) 代表取締役副社長、19年7月にNTT Ltd.シニアエグゼクティブバイスプレジデント、22年6月にNTT西日本 代表取締役社長を経て、24年9月に富士通 執行役員専務 ネットワーク&データセンターBG長に就任。25年7月からは、1FINITY 代表取締役社長CEOを兼任する
1FINITY 代表取締役社長CEO
富士通 執行役員専務
ネットワーク&データセンターBG長
森林正彰 氏
今年7月、富士通のネットワーク事業を担う新会社「1FINITY」が本格始動した。NTT西日本の社長から、同社の社長CEOに転身した森林正彰氏は、社名の由来となった光伝送システム「1FINITYシリーズ」を核とするフォトニクス事業と、オープンRANやvRAN(仮想化基地局)を軸としたモバイル事業を両輪に、「ナンバーワン、オンリーワン、グローバルなワンカンパニーへ」と未来を描く。
●昨年9月にNTT西日本の代表取締役社長を辞任され、富士通の執行役員専務に転身されました。どのような経緯があったのでしょうか。
森林 NTT西日本の社長を昨年3月末に辞任し、6月まで籍を置いていました。その間、自身のキャリアについて考えていたところ、富士通からネットワーク事業を担う人材を探しているとのお話をいただきました。ありがたいことに、数社からお声がけいただき、その1社が富士通でした。
●複数の企業からオファーがあったなかで、なぜ富士通を選ばれたのですか。
森林 実際に組織を率いてビジネスを動かせる点が大きな決め手でした。富士通であれば、社外取締役や監査役といった立場ではなく、事業の責任者としてネットワーク事業に関われると考えました。
●今年7月からは、富士通のネットワーク新会社「1FINITY」(ワンフィニティ)の代表取締役社長CEOも兼任されていますね。就任から3カ月弱が経過しました。
森林 1FINITYを立ち上げて以降、かなり注目していただいていると感じています。富士通の100%子会社ではありますが、富士通のネットワーク事業を新会社として切り出したことで、私自身も新たな気持ちで臨んでいます。
社内でも独立心が芽生え、富士通という大きな会社の一部として下支えするというのではなく、自分たちの会社として、「我々が主役になるんだ」と社員に伝えています。
●新会社設立に至った背景と狙いは何でしょうか。
森林 富士通は、フォトニクスやモバイル、ネットワーク仮想化などを中心にネットワーク事業を展開しており、お客様は主に通信事業者やデータセンター(DC)事業者でした。限られたお客様に対して限られた製品を提供するビジネスモデルでしたので、独立した会社として切り出しても違和感のない組織だったのです。
また、富士通のネットワーク事業で培ってきたモノづくりや営業体制に加え、これまで別組織だった研究開発部門や保守・メンテナンス部門も取り込みました。営業から保守までを一気通貫で担える会社を目指しています。
●社名の1FINITYは、富士通の光伝送装置の名前としても使われています。これを社名に採用した理由についてお聞かせください。
森林 会社名を検討する際には様々なアイデアがありましたが、1FINITYシリーズは光伝送装置としてグローバルで広く認知されているということもあり、この名を冠することにしました。
また、1FINITYという社名には、3つの「ワン」の思いを込めています。品質や顧客満足度で「ナンバーワン」になり、自分たちにしか生み出せない「オンリーワン」の製品を提供する。そして、グローバルに展開する「ワンカンパニー」になることを目指します。
現在、社員の多くは日本と米国に在籍していますが、会社を別々に構えるのではなく、1つのグローバル企業として歩んでいきます。
光伝送の“ものづくり”にこだわる
●1FINITYの主力事業の1つが、フォトニクス事業です。光伝送市場の現状と今後の動きについて、どう見ていますか。
森林 現在AIブームの真っ只中にあり、すでに通信トラフィックの約半分がAI関連で占められています。2030年にはその割合が7割に達すると予測されており、それに伴ってDCの建設も急増しています。また、リアルタイム性が求められるものは、エッジ側で処理する必要も出てきます。
こうした背景から、デバイスやエッジ、クラウドをつなぐネットワークも、高速・大容量化や省電力化がこれまで以上に求められていきます。こうした動きはグローバルで広がり、光伝送の重要性は高まっていくでしょう。
光伝送装置もどんどん進化していきます。DC同士の接続や、DCとお客様拠点の接続、さらにはDC内部まで、光の適用領域はより一層広がっていくと考えられます。今後も新たな需要が生まれると思いますので、引き続き技術開発を進めていきます。
●富士通は光伝送装置のシェアを伸ばしています。英調査会社のOmdiaによれば、2020年に6.2%だった北米でのシェアは、2022年に15.5%へ伸長しています。世界シェアも、3.6%から5.9%に伸びています。
森林 富士通には確かな技術力があり、高品質な製品を生み出し続けてきました。例えば、我々の光伝送装置は、小型・軽量化を維持しながら、水冷技術を組み込んでいます。私も入社時に現物を目にしたのですが、ものづくりのレベルの高さを実感しました。こうした技術へのこだわりこそ、私たちが大切にし続ける価値です。
また、これまでは日本と米国を中心に事業を展開してきましたが、すでに欧州にも進出しており、APAC(アジア太平洋地域)も成長が期待できる市場です。今後は日本・米国を基盤に据えながら、他地域への製品展開をさらに加速させていきたいと考えています。
●グローバル市場には様々なプレイヤーが存在しますが、1FINITYの強みはどこにありますか。
(聞き手・津野篤)
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