2024年12月号
スマートホームを「公共財」に
震災きっかけに新しい地方の形
丹康雄 氏
(たん・やすお)
北陸先端科学技術大学院大学 副学長(リカレント教育担当)、先端科学技術研究科 教授。1993年東京工業大学 大学院 理工学研究科 博士後期課程 修了。博士(工学)。エコーネットコンソーシアム アドバイザリフェロー、JEITA スマートホーム部会 部会長、総務省 情報通信審議会 専門委員、石川県デジタル化推進アドバイザー、デジタル加賀推進協議会 会長、能美市DX推進アドバイザー、北陸サイバーセキュリティ連絡会 座長なども務める
北陸先端科学技術大学院大学
副学長 教授
丹康雄 氏
能登半島を相次いで襲った大規模災害。復興に向けた努力が続けられる中、日本のスマートホーム業界をリードするとともに、石川県のデジタル化推進においても重要な役割を果たしてきた北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の丹副学長が、新しい地方の形を提唱している。キーワードは「社会基盤の中のスマートホーム」。地方での新しい暮らし方を支える「日本型スマートホーム」について聞いた。
●能登半島地震は、甚大な被害を及ぼし、能登では今も復興に向けた取り組みが続いています。丹先生は、石川県や北陸地方のデジタル化に深く関わられてきましたが、震災をきっかけに「元に戻すというよりも新しい形はないか」と、スマートホームを活用した新しい地方の形を提案されています。
丹 一番の問題は、人口を都市に集中させるという明治以降のモデルから抜け出せていないことなのです。「地方からデジタルの実装」と掲げるデジタル田園都市国家構想にしても、やはり頭の中には首都圏での今の暮らし方があって、それを地方でどう実現するかという話になっている側面があるように見えます。
今回の能登の災害で身に染みて思うのは、能登というのは6000年前から人々が暮らしてきた地域だということです。縄文時代からずっと人が住んでいたということは、文明の力がなくても、人間が生きていける環境が揃っているということです。田んぼや畑、山からいろいろな作物を収穫できて、海の幸も豊富です。にもかかわらず、今、人がどんどん逃げ出すような状況になっているというのは、おかしなことです。なぜ21世紀にもなったのに、文明の力を使って、自然豊かな地域でしっかり暮らしていくことができないのでしょうか。
こうした思いが「新しい形」の必要性を言い始めた一番のきっかけです。
コンパクトシティの対極
●どのような「新しい形」の可能性があるのでしょうか。過疎化を背景に、社会インフラの維持が困難になる地域が今後増えていきます。
丹 これまでは高い人口密度を前提に、上下水道に代表される社会インフラが整備されてきましたが、人口密度が減るということは、逆に考えると1人当たりの土地面積は増えるということです。そうして広くなった土地を使って、人々が密集して暮らすのではない、新しい暮らし方へ転換するチャンスが到来しているのではないでしょうか。
宇宙ステーションでは、コストをかけて水を100%リサイクルしていますが、地球上では100%のリサイクルは必要ありません。そのため、低コストの水循環システムでも、シャワーや洗濯などに使う水は確保できます。飲み水についても、雨水などを手元でろ過して作れる時代になっています。
日本各地で事業が成り立たなくなってきている下水道に関しては、昔の汲み取りとは違う、浄化槽を使った新しい浄化システムが使えます。下水道を廃止し、浄化槽にするといった話は、都市計画の専門の方からも出てきています。これらのシステムを利用するには、ポンプを動かすための電力が必要ですが、太陽光や水力のような不安定な電源で問題ないので、蓄電池も要りません。
こうして水とエネルギーが確保できると、人口密度の低い地域で、自立的に暮らしていくための条件がだいぶ揃うことになります。モビリティについては空飛ぶクルマの話もあり、ドローン配送も進んでいます。防災に関しても、地震シェルターと津波シェルターを兼ね、地震で家が倒壊して津波が来ても、2日間くらい浮かんでいられるような製品があります。
●都市中心部への移住を促し、都市機能を集約するコンパクトシティの議論が一時活発でしたが、全然違うアプローチもあるということですね。人口密度が下がっている地域では「家」を強化していけばいいと。
丹 コンパクトシティは、今まで通りの生活を続けていくため、人口密度の高い小さな都市を作りましょうという話ですが、私が考えているのは、それとは全くの対極です。イメージしているのは、『2001年宇宙の旅』に出てくる宇宙船「ディスカバリー号」みたいに自立性の高い「家」です。
スマートホームは社会基盤へ
●実現に向けては、どういった壁を乗り越えていく必要がありますか。
(聞き手・太田智晴)
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