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Interviewインタビュー

2025年8月号

6GはAIと「信」の時代に
自律分散型の経済圏が発展

原田博司 氏

原田博司 氏
(はらだ・ひろし)
1995年、郵政省通信総合研究所(現情報通信研究機構(NICT))入所。2014年より京都大学大学院 情報学研究科 教授。NICTに在籍中、Wi-SUNシステムのベースとなるIEEE 802.15.4gの副議長として標準化に貢献し、2012年にWi-SUNアライアンスを共同創業者として設立。Wi-SUNアライアンス理事会共同議長を務める。2025年、IEEEフェローを受賞

京都大学 教授
原田博司 氏

6GはAIと「信」の時代。「信」にこだわる日本の価値が発揮される──。5Gの「味見」の期間が終わると、どういった世界が到来するのか。Wi-SUNの開発・普及促進を主導するなど、ネットワークの発展に大きく貢献してきた京都大学の原田教授が、6G、AI、自律分散型ネットワーク、V2X、量子コンピューティングの本質を語る。

新しい通信システムの最初の5年は、いろいろなトライが行われる味見期間。7年目頃から新しいデバイスが登場するという「味見5年説」を以前から唱えられています。

原田 「5Gは成功していない」と言う方がいますが、それは違います。私の考えでは、5Gが成功かどうかの判断は、今はできません。最初の5年は味見の期間だからで、大切なのは、この味見の5年間に何が起きたのかをしっかり“読む”ことです。

その味見期間がそろそろ終わりを迎えます。

原田 やはり、いろいろなことが起きています。まずは自動翻訳、生成AIです。両者がここまで発展してくると、言語の壁、画像・音声・文章等の生成の壁も取り払われていくでしょう。さらにグーグルのスマートグラスやアップルのApple Vision ProといったAR・VR系のデバイスのように身体能力の壁を越える技術も登場してきました。
 私の今のイメージでは、あと3年ほどで時代を象徴する新しいデバイスが出てきます。それは、AIに特化し、上記壁を越えるデバイスになるでしょう。現在のAndroidやiPhoneのAI化がもっと進む方向性もありますし、AI専用端末が登場するかもしれませんが、このAI特化端末において重要なことが1つあります。それは「信」です。

どういう意味でしょうか。

原田 「通信」は、「通じる」「信じる」という2つの言葉から成り立っています。携帯電話の50年の歴史を振り返ると、3G、4Gで「通」がどんどん強化されていった一方、「信」の方は相対的に小さくなっていきました。それがようやく5Gで「信」が大きくなり、「遠隔手術に使ってみようか」といった具合に、社会インフラとしての信頼性が向上してきたのです。
 しかし、せっかく5Gで向上した「信」が最近大きく低下しています。原因はAIです。例えば今、AIで数千人分のアバターを作ってチケットを購入する行為が問題になっています。誰が誰だか分からないという「信」の欠如した時代が突然やってきたのです。

顔や声などを本人そっくりに合成するディープフェイクも簡単にできる時代になりました。そこでAI特化端末のカギは「信」が握るということですか。

原田 そうです。自分が自分であることを証明する必要がある「信」の時代へ向かっているのです。そのためのデバイスやサービスが、6G時代に向けて登場してくるでしょう。
 特にIOWNに代表されるAPN(オール光ネットワーク)に注目しています。本人性を証明して「信」を確立するためには、自身の存在する時刻の同定が重要になります。これまではGPSを用いてきましたが、APNは非常に高速なので、ネットワーク上で時刻同期できます。
 おそらく3年後くらいにはAI特化端末が登場し、6Gに向かう最後の段階で、AI時代を生き抜くのに必要な、自分が自分であることを証明するIDサービスが出てくるでしょう。
 6Gは「信」の時代になります。

その「信」の時代、ネットワークにはどのような変化が起こりますか。

原田 自律分散型ネットワークが必ず発展していきます。これからは、自営系の自律分散型と公衆系の中央集権型の両軸でサービスを考えていくことが必要です。
 本来、すぐ近くにいる人同士の通信には、携帯電話のような中央集権型より、自営系の自律分散型を用いた方が効率的です。では、なぜ今まで中央集権型を介していたのでしょうか。それは「信」が欠けていたからです。しかし、ブロックチェーンやWeb3といった技術の登場により、自律分散型でも高い信頼性を、無線で高速に実現できるようになってきました。
 また、自律分散型の経済圏を構築するための技術も足りていませんでした。これについてもPayPayのようなQRコード決済をはじめ、経済圏構築を後押しする技術が登場しています。
 「信」と「経済圏」が揃えば、自律分散型ネットワークが発展していくことは、スマートメーターですでに証明されています。

スマートメーターは次世代へ

原田先生は、日本全国の電力会社をはじめ、世界中のスマートメーターに広く採用されている無線通信規格「Wi-SUN」の生みの親です。

原田 3G時代、ZigBeeという無線通信規格がありましたが、かならずしもA社とB社の製品はつながりませんでした。工場などの環境では、1社の製品で完結できますから、それでもよかったのです。
 しかしスマートメーターの場合、そうはいきません。東京電力のユーザー数は約2900万ですから1社納品はあり得ず、複数メーカーの製品の相互接続性、すなわち「信」が必要とされます。スマートメーターによる重要な変化の1つは、自営系に「信」をもたらしたことです。
 もう1つ重要な点は、「経済圏」を生んだことです。HEMSやEV管理、ソーラーバッテリー管理といった新たなビジネスが、スマートメーターを基盤に広がっていきました。

Wi-SUNは今後さらにどう発展していきますか。

(聞き手・太田智晴)
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