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Interviewインタビュー

2020年4月号

ローカル5Gに価格破壊
王道と違う6Gへの道を探求

中尾彰宏 氏

中尾彰宏 氏
(なかお・あきひろ)
1991年、東京大学理学部卒業。1994年、同大学大学院工学系研究科修士課程を修了し、同年、日本IBMに入社。米IBMのテキサスオースチン研究所などを経て、米プリンストン大学大学院コンピュータサイエンス学科にて修士号および博士学位を取得。2005年、東京大学大学院情報学環助教授に就任し、2007年に准教授、2014年から教授(現職)。東京大学 総長補佐、第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)ネットワーク委員会の委員長なども務める

東京大学 教授
中尾彰宏 氏

「ローカル5Gの価格破壊を実現できなければ、『幻滅』で終わってしまう」日本の5Gをリードしてきた東京大学の中尾彰宏教授は、こう使命感に燃える。価格破壊のカギの1つは基地局のソフトウェア化だ。これには各産業のユーザー企業によるカスタマイズが容易になるという、もう1つの重要なポイントがある。中尾教授は、ローカル5Gの多様なカスタム化の先に、6Gへの道も探る。

いよいよ日本でも5Gが始動します。中尾先生は、数多くの5Gの実証実験に携わってきましたが、5Gの実力をどう捉えればいいですか。特に通信業界以外の各産業、いわゆる「バーティカル」に5Gが与えるインパクトについて、お考えをお聞かせください。

中尾 様々な5Gの実証実験を行うなかで、体感的に分かってきたのは「5Gはスマホの時代ではない」ということです。
 私は、韓国や中国など他国の状況もいろいろと見ていますが、スマホで利用する5Gについては、「あまりインパクトがない」「違いが分かりにくい」ということが言われています。コンテンツは当然リッチになっていきますが、5Gのエリアは実際にはスポット的ですので、どこでもスマホで4K/8Kのビデオを観られる世界にはまだ到達できません。
 バーティカルにとってインパクトが大きいのは、ドローンや8Kカメラ、ヘッドマウントディスプレイなど、通信モジュールを利活用する方向性だと強く感じています。
 例えば北海道の新冠町では、8Kカメラのライブ映像を5Gで伝送し、競走馬の育成支援に活用する実証実験を行いましたが、8Kだと馬の毛並みの1本1本が本当に見えるのですね。馬の毛並みが分かると、馬の健康状態も一発で分かります。「これが5Gか」と皆さん驚かれますが、スマホでは見ないですよね。大型ディスプレイを用意し、遠隔から監視します。
 また、広島県江田島市のカキの養殖場では、ボートと有線でつながった水中ドローンを5G越しに遠隔制御する実証実験を行いました。ヘッドマウントディスプレイを付けて遠隔から操作するのですが、遅延が少しでもあると大きな問題になります。しかし、タイムラグなく操作することができました。

高速大容量と低遅延は5Gの大きな特色ですが、実証実験では期待通りの実力を発揮できているということですね。そして、この特徴を活かせるのはスマホだけではないと。

中尾 そうです。遠隔監視や遠隔制御が、最初に非常に伸びる領域だと思います。
 ただ、課題は、需要と供給のミスマッチが起こりつつあることです。今、総務省の「地域情報化アドバイザー」の仕事で様々な地域を訪れていますが、いつも聞かれるのが「うちの町にはいつ5Gが来るのか」ということです。「ビジネスの話なので携帯キャリアに聞くしかないですね」と答えると、「じゃあ、まだ来ないんだね」と一気にトーンダウンされます。
 この需要と供給のミスマッチを解決する有力な政策の1つとして、ローカル5Gがあるわけですが、私は「展開性」が重要と最近言っています。
 展開性とは、デプロイのしやすさのことです。ローカル5Gの展開性を向上させ、ローカル5Gの導入を加速していく必要があります。
 Wi-Fiのアクセスポイントくらいとまでは言いませんが、もっと安価な基地局が必要です。価格破壊を起こさなければいけません。価格破壊を実現できなければ、ローカル5Gは「幻滅」で終わってしまいます。

自らの手で5Gをカスタム化

価格破壊の目算はあるのですか。

中尾 実は私の研究室では今、5Gの基地局が実際に動いていますが、欧州ベンダーのソフトウェア基地局と汎用サーバーを組み合わせることで、すでに数百万円ぐらいで基地局ができるようになっています。
 我々がやらなければならないのは、基地局のソフトウェア化をさらに推し進め、価格破壊を起こすことです。ソフトウェア基地局は、様々なベンダーから出始めていますが、今はキャリア向けが中心のため、まだまだ高価です。
 基地局の何にコストがかかるかというと「キャリアグレード」といわれる高度な通信品質の保証ですよね。キャリアグレードにしたいのであれば、ASICでチップ化し、システムを堅牢化というアプローチになりますが、ローカル5Gの場合はソフトウェアでやる方が適しています。
 ソフトウェアの良いところは、コストだけではありません。カスタム化が非常にやりやすい点も挙げられます。
 私は現在、アップリンクに多くの帯域を割り当てられたり、動的にアプリケーション毎のスライスを作成できる基地局を作ろうと一生懸命取り組んでいます。ドローン向けを想定しているのですが、現状の5G基地局は帯域をアプリ毎に自由にプロビジョニングすることが難しいのですね。
 また、もう1つのカスタム化の方向性として取り組んでいるのが、低消費電力化です。低消費電力化の需要があるのは、例えば海洋です。海洋での情報通信では電源が取りにくいので、ソーラー発電で確保するのが通常です。私はソーラー発電で稼働するLPWA/LTE(4G)基地局をすでに作って実証実験で運用しています。一般に低消費電力化で適用領域は格段に広がるように思います。

ローカル5Gの多様なニーズに応えるうえでも、基地局のソフトウェア化が重要ということですか。

(聞き手・太田智晴)
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