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2023年3月号

特集 Part5

マイクロソフトとアクセンチュアが共同で発表したメタバース「グローバル・コラボレーション・ビレッジ」のプロトタイプ
マイクロソフトは、MRアプリケーションとTeamsを連携させた「インダストリアルメタバース」の開発・提供にも注力している

世界経済フォーラム2023において、マイクロソフトとアクセンチュアが共同で発表したメタバース「グローバル・コラボレーション・ビレッジ」のプロトタイプ(上、画像提供:アクセンチュア)。国際機関や企業等80社以上が創設メンバーとして参画した。マイクロソフトは、MRアプリケーションとTeamsを連携させた「インダストリアルメタバース」の開発・提供にも注力している(左、画像提供:日本マイクロソフト)

業務用メタバースの可能性

サイバー空間に出社する

チャットやWeb会議など、働く人をつなぐツールがどれほど進化しても、現代のハイブリッドワークには足りないものがある。みんなが集う「空間」だ。業務用メタバースは、これを補う切り札になる。

 最も生産性が上がる働き方は、「オフィスのみ」でも「在宅勤務のみ」でもなく「場所を選択できる」こと──。

 WeWork Japanが、主にオフィス内で勤務する1400名を対象に実施した調査(2022年10月発表)では、出社とテレワークを組み合わせたハイブリッドワークが定着しつつある現状が明らかになった。最も生産性が上がる働き方について、46.8%が「オフィスと自宅を選択」と回答。他の選択肢を大きく上回った。

 経営層や人事・総務の考えも変化している。従業員1000人以上の企業では、働く場所を従業員の裁量に「すべて任せてよい」が26.7%、「半分程度任せてよい」が46.3%。1000人未満の企業でもこの合計が過半数を占める。従業員の裁量を認めず「会社が決める」は、1000人以上の企業では1割に留まる。

1日7万人が仮想オフィスへ出社

 働きやすい環境の整備は従業員満足度や生産性、優秀な人材の確保など、様々な面で企業の成長力を左右する。働く場所の自由度を確保しつつ、“集う場”であるオフィスの機能を最適化する戦略が求められよう。

 この場をサイバー空間に求める企業が増えてきている。「仮想オフィス」「メタバースオフィス」などと呼ばれる空間だ。

 これを提供する1社がoViceだ。トヨタ自動車、パナソニック、リコー、旭化成等の大手企業を含め2300社超が採用し、合計で1日に約7万人がoViceの仮想空間に“出社”している。

 メタバースで想起される3D空間でこそないが(下画像)、アバターで表示される同僚らの存在を感じつつ業務を行い、アバターを近づければ自然に会話できる。ビデオ通話も可能だ。一定距離に近づくまでは声が聞こえず、アバターの向きによって聞こえる範囲が変わるなど、現実空間を再現するための様々な工夫が凝らされている。

 現実のオフィスと同様、会話中のアバターに近づいて話を聞いたり、参加するのも自由。会議室に入れば密談も可能だ。「あの3人が話してる。近くで聞いておこう」「困ったな。〇〇さんが会議室から出てきたから相談してみよう」といった、空間を共有しているからこそのコミュニケーションを作るのが狙いだ。

 リアルなオフィスを持たず、約100名がリモートで働くoViceに約2年勤務するPRマネージャーの薬袋友花里氏は、ユーザーの現状をこう話す。「大企業が多く、十数名でスモールスタートしながら100人程度まで広がるケースが増えてきている。もともと社内で会話しながら仕事していた文化があり、それにマッチすると言われる」

 社員のオフィス回帰が始まっても在宅勤務は一定程度残り、それが新たな分断を生んでいるという指摘がある。出社組と在宅組との情報格差だ。「予定表と実際の状況は違う。相談したい上司が早めに会議を終えていれば話したいといった、ちょっとしたやり取りにハードルを感じる企業が、それを解消するために利用している」

仮想オフィス/メタバースオフィスの「oVice」

仮想オフィス/メタバースオフィスの「oVice」。オフィスを模擬した仮想空間に社員が出社することで、互いの状況をゆるやかに可視化し、音声・ビデオ通話も行える。ビデオ通話画面の一番左が同社PRマネージャーの薬袋友花里氏

「空間がない」が分断を生む

 グループ・組織の全員が仮想オフィスに出社すれば、個々の状況がある程度可視化され、話しかけやすい状態が作れる。誰と誰が長時間話しているといった視覚情報も得られる。立ち話からアイデアが膨らみ、そこにまた人が加わるといった、コロナ禍で失われたつながりを取り戻せる可能性が出てくる。

 中でも歓迎されるのが新入社員だ。「会議だけではキャッチアップできない。電話もためらう。『あの先輩なら今大丈夫そう』と話しかけられる安心感は、Web会議では難しい」と薬袋氏。チャットでもWeb会議でも“しっくりこない”感覚は、まさに「空間」の欠如からくるものだ。

 創業者のジョン・セーヒョン氏がoViceを開発したのは、チュニジア出張中にロックダウンに巻き込まれた際、Web会議とチャットに物足りなさを感じたのがきっかけという。「その都度、コミュニケーションがバサッと終わるので、会話からアイデアが膨らんだり、事故が起こりそうな兆しをつかんだりということがない。空間がないことがその理由だと気づいた」ことが、oVice開発につながった。

 2D表示の丸いアバターでも、使ってみると意外なほどに“そこに居る”雰囲気が感じられる。3D空間なら臨場感がより増すのは明らかだが、ヘッドマウントディスプレイや高性能PCが無ければ出社できないのでは意味がない。2D空間は「誰でも使える」現実解であり、将来的に3D化も視野に入れているという。

Teamsとメタバースが融合

(文・坪田弘樹)
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