2024年5月号
日本のDX“巻き返し”に貢献
進化版イーサでAI開発支える
濱田義之 氏
(はまだ・よしゆき)
日本大学理工学部電気工学科を卒業後、住友電工通信エンジニアリング、Coltテクノロジーサービス(旧KVH)を経て、2016年にシスコシステムズ入社。執行役員 最高技術責任者(CTO)、専務執行役員 情報通信産業事業統括などを歴任。直近では、アジアパシフィック ジャパン チャイナ(APJC)地域のセキュリティセールスを統括するマネージングディレクターを務めた。2024年1月1日付でシスコシステムズ 代表執行役員社長に就任
シスコシステムズ
代表執行役員社長
濱田義之 氏
2024年1月にシスコシステムズ社長に就任した濱田義之氏はセキュリティとサステナビリティ、そしてAIを重点領域に挙げる。掲げるのは、デジタル化の世界ランクで中位に沈む日本の巻き返しを後押しすること。この3領域で日本企業の変革に貢献する。
●社長就任後の会見で、シスコジャパンの重点領域として「セキュリティ」「サステナビリティ」「AI」の3つを挙げました。グローバル戦略における6つの注力分野(図表)のうち、この3つを掲げた理由は。
濱田 日本は、遅れているデジタル化をどんどん進めていかなければならない状況にあります。2023年の世界デジタル競争力ランキング(IMD)は、64カ国中の32位。前年比でも3ランク下げました。
日本が挽回するためにシスコがどのように貢献できるのかを考えたときに、他の3つは比較的、日本企業も取り組みが進んでいます。
●重点領域に挙げた3つに、DXが遅れている要因があると。
濱田 セキュリティとサステナビリティは、日本企業にとって取り組みを進めにくい環境があります。
日本は現場が強い国で、何か1つを極めることに長けているため、局所最適になりがちです。これは、全社的な取り組みを要するデジタル化やサステナビリティに適していません。そこで複数の部門、システムやプロセスを、シスコが媒介してつなぐことが大事だと考えています。
日本にはレガシーなシステムや紙文化、マニュアルのプロセスも根強く存在しています。それらをマイグレーションする際に必ず問題となるのがセキュリティです。
我々は“つなぐ”こと、つまりコネクティビティの専門家ですので、脅威をまくし立ててセキュリティを売ることはしません。異なる部門、異なるシステムやプロセスをつなぐときに“どうやってセキュアにつなぐか”というのがシスコのアプローチです。デジタル化を後退させないように、お客様にこの「セキュアネットワーキング」を浸透させることに注力します。
セキュアアクセスを出発点に
●セキュリティ領域における具体的な注力ポイントは何ですか。
濱田 働き方に関しては今後もハイブリッドワークが続くことは間違いなく、コロナ禍を境にマルチクラウド化も進みました。この環境において安全なコネクティビティを実現するために、いわゆるSSE(セキュアサービスエッジ)に相当する「Cisco Secure Access」を2023年9月にリリースしました。
日本はまだVPNユーザーが多いのですが、単にVPNを止めればよいというものではなく、VPNとインターネットアクセスが融合しなければなりません。Cisco Secure AccessはVPNやゼロトラストアクセス(ZTNA)といった安全なコネクティビティを実現するための複数の機能を提供するプラットフォームであり、日本にはこうしたアプローチこそが必要だと考えています。
というのも、SSEには今、大手企業から多くの引き合いがありますが、日本のデジタル化を進めるためには大企業だけに売っても意味がない。中堅中小企業へ展開するためにはパートナー戦略として、マネージドサービスの強化が必須です。
中堅中小のお客様がインターネットアクセスを求めた場合、その提供ベンダーからWi-Fiも入れる、ついでにSecure Accessも入れる、そしてWebex Callingのようなコミュニケーションサービスを入れるといった流れができれば、お客様にもパートナーにもメリットがあります。セキュアなコネクティビティを軸に様々なサービスが付随していく。これは、所有から利用へという企業のニーズにも合致しますし、サービスプロバイダー(SP)にとっても得意な領域であり、私たちの多くのパートナー企業も推進しています。
例えば、SPのプラットフォームサービス基盤にシスコのセキュリティをエンベデッドしていくことも重要だと考えています。
●ユーザーへの価値提供の軸は、やはりコネクティビティにあると。ネットワークが社会・産業において不可欠なものとなる一方で、それ自体の収益性が低下していることがこの産業の課題でもあります。
濱田 コネクティビティが最も大事であることは変わりません。その中でどう価値を高めていくかといえば、2つあると思います。
今まではARPUが一定の中でユーザー/端末の数を増やしてきましたが、今後はIoTやOTの領域にコネクティビティの範囲が広がっていきます。これが1つめです。
もう1つが、企業のICTが所有から利用へと移っていくなかで、SPのプラットフォームに様々なサービスを乗せてARPUをプラスしていくこと。これを進めていくと、3つの重点領域に含めていなかった「オブザーバビリティ(可観測性)」も、お客様が必要とする段階になってきます。
●オブザーバビリティは、グローバルで非常に伸びている領域ですね。
(聞き手・太田智晴)
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