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2004年2月号

NTTドコモ常務取締役 MM事業本部長
谷 公夫 氏
FOMAジャンプの年
映像系中心に新サービス開発へ

いよいよドコモがFOMAで疾走し始めた。
そこで注目されるのがFOMAの非音声系サービス。
鍵を握るMM事業本部の谷公夫本部長は
「携帯電話の価値は“パーソナル性”」と強調、
新サービス開発に意欲を見せる。

Profile

谷 公夫(たに・きみお)氏
1947年、北海道生まれ。70年、横浜国立大学工学部を卒業後、日本電信電話公社(現NTT)に入社。92年NTT移動通信網(現NTTドコモ)情報システム部長に就任。その後、経営企画部長などを経て、2002年に現職の常務取締役MM事業本部長。現在に至る

  携帯電話は8000万加入に達して新規需要の伸びも鈍り、いよいよ飽和状態に入りました。今後をどう展望していますか。

 携帯電話市場が飽和状態に達したといわれ始めてから、しばらく経ちます。しかし、携帯電話市場の純増数を見ても、当初、われわれが予想した以上に伸びています。つまり、実際には携帯電話市場はまだまだ成長を止めておりません。それはなぜか。1つには各キャリアの切磋琢磨がお客様の需要を支えているということがあるでしょう。
 もう1つは、音声主体のサービスから非音声系へのシフトが、かなり出来てきたからだと思います。

将来戦略の3本柱を実現する

  MM事業本部は、その非音声系サービスの開発がミッションですね。

 MM事業本部の役割はそこにあります。NTTドコモの戦略方針はマルチメディア化・ユビキタス化・グローバル化の3本柱であり、当面はFOMAの性能を最大限活用し、この3本柱をいかに実現していくかがわれわれのミッションです。

  非音声系サービスといえば、やはり2Gではなく3G。FOMAの新機種が投入されますが、ついにドコモ全体として本腰を入れていくわけですね。

 その通りです。ホップ・ステップ・ジャンプでいえば、FOMAにとって2004年はまさにジャンプの年になるでしょう。
 これまで思うようにFOMAが普及しなかった原因にはエリアと端末の問題があります。しかし、屋外エリアについては、人口カバー率99%を達成させるのにPDCでは5年かかったところをFOMAでは、この3月に2年5カ月というスピードで実現しようとしています。また、3Gの弱点といわれるビル内、地下街、地下鉄の駅についても急速にエリアを広げております。そして端末についても新機種は電池の保ち時間、サイズともに2Gに遜色ないレベルに達しました。

  エリアと端末の問題は解消したわけですね。しかし、それでは単に2Gに並んだだけ。FOMAに移行させるには、魅力的な非音声系サービスが不可欠です。

 パケット通信料の安さと高度な非音声系サービスを武器にFOMAへの移行を推し進め、結果として1人当たりの通信料を上げようというのが今後の当社の戦略です。まず3本柱のマルチメディア化から話しますと、テレビ電話をはじめとする映像通信をいかに広めるかがキーでしょう。サービス開始当初は思ったほどテレビ電話を利用してもらえませんでしたが、現在ではFOMAユーザーの約20%が利用するまで広がっています。春からは固定網ともテレビ電話が可能になりますので、ますます利用率は上がるでしょう。利用シーンにしても、コールセンターや顧客サービス、行政サービスのようなところで使われるケースも増えています。
 また従来、法人利用が中心だったテレビ電話会議「ビジュアルネット」のコンシューマー対応も順次充実を図る予定です。これまでテレビ会議というと、前もって予約しておき、みんな揃って会議開始というものでした。そうではなく、もっと気軽でチャット的なもの。「誰々を呼ぼうよ」となれば、すぐ呼んでFOMAで参加できる、いつでも出入り自由な仕組みもすでに一部提供を行っています。

  2つめの柱、ユビキタス化ですが、携帯電話がどんなポジションを占めるようになるのか、携帯電話市場の今後を考えるうえでも、きわめて重要だと思うのですが。

 私どものユビキタスへの取り組みを整理しますと、マシン・ツー・マシン・コミュニケーションから第1ステップは始まりました。例えば、自動販売機の在庫管理、タクシーやバスなどの車両管理といった、いわゆるテレメタリングの世界ですね。
 それが今度第2ステップになりますと電話端末との連携が出てきます。例えば、GPSを使って業務車両の位置や乗車状況を把握し効率的な配車を行う「DoCoです・Car for TAXI」や、幼稚園のバスなどが今どこにいるか分かる「DoCoです・Car for BUS」。そして、家庭内にあるさまざまな家電やAV機器を遠隔で制御するモニタサービスも実施する予定です。

  最近、非接触ICカードや赤外線などを使った試験サービスをされていますが、これもユビキタス化に向けた試みですね。

 もちろんそうです。すでに携帯電話でモバイルショッピングや銀行口座の残高情報などがチェックできる「DoCommerce」サービスは提供していますが、赤外線やBluetooth、非接触ICカードなどのローカルインターフェースが搭載されると、端末それ自体が機械と直接やり取りできるようになります。リアルの世界とのインターフェースができるわけです。すると必然的に、今度はコマースと結びつきます。第3ステップではネットワークと連携してリアルの世界で買い物できるようになるのです。

  財布代わりになるわけですね。

 財布だけではありません。私たちは銀行からレンタルビデオ店、病院などの実にたくさんのカードを財布の中に持っていますが、それが全部携帯電話の中に入ってしまいます。

  そうなると不安はセキュリティです。

 セキュリティ対策としては、すでに「FirstPass」を開始しています。従来携帯電話はサーバー認証のみでしたが、FirstPassならクライアント認証が可能です。そして、本人認証については、パスワードのほかにすでに指紋認証があります。また、特定話者認識なども今後可能となります。

  FOMAと無線LANのデュアル対応端末の開発を発表されましたが、「シームレス」もキーワードの1つですね。

 やはり、どこにいても同じ環境を使いたいというのがお客様の心理ですから。私どもではFMC(Fixed Mobile Convergence)といっていますが、今後は固定系のブロードバンド回線や公衆無線LANサービス「Mzone」などに対してシームレスにつながっていきます。シームレスといえば、さらに海外でもローミングにより、変わらぬ形で使えるようになるでしょう。これが3番目の柱でもあるグローバル化です。

  サービスがいくら高機能化しても、今日の市場環境では、料金が低廉化しないとなかなか受け入れられなくなっています。auは定額データ通信サービスを始めましたが、それにはどう対抗していきますか。

 バックボーンをIPルーターと光伝送路を組み合わせたIPルーター網へ移行し、さらなる低コスト化を実現していきたいと考えています。定額サービスについては、使い放しにつながる恐れがあり、電波が有限な資源である以上、難しい問題です。私どもは設備投資型の産業なので、一番問題なのはピークトラフィックです。ですから、オフピークにデータ通信を行うケースやテレメタリングなどのディレイが許容されるケースでは可能かもしれません。

法人市場3つの突破口

  今後、最も期待できる分野として法人市場の重要性が指摘されています。

 当然、法人市場は重視しています。IT化によるホワイトカラーの生産性向上が叫ばれて久しいですが、オフィスの中だけを一生懸命IT化するのでは不十分。仕事はオフィスの中だけで行われるわけではありませんから。さらに移動中のIT化つまりリモートアクセスをプラスすれば、かなりの生産性向上が期待できるはずです。
 しかし、その効果のほどは理解しながら、最後のところで導入を逡巡している企業が数多くあります。理由はコスト、セキュリティ、ビリングサービスの3つです。まずコストの問題ですが、企業側から見て、どのくらい投資が必要なのか把握しにくい面がありました。そこで当社ではPDCであれFOMAであれ、場合によっては固定網であれ、すべての回線を一括管理できるようにします。
 2番目のセキュリティですが、これはIP-VPNを利用してネットワークレベルで安全を確保できます。さらに先ほどのFirstPassで認証し問題は解決できます。
 意外に大きいのが、通話料金の公私分計の問題です。これも端末単位でどこにアクセスしていたのかインターネットで明細の確認ができる「eビリングサービス」などで明確にできます。企業ユーザーがあと1歩で導入に至らない要因はすべて解決していきます。

  法人向けの料金体系についてはどういうスタンスですか。

 すでに「ビジネス割引」や平日昼間の通話料を割り引く「ビジネスプラン」など法人向け料金体系はずいぶん出しており、競争力には自信があります。ただ、今年導入予定の「相対料金」に向け、どのような販売策を打ち出すかが今後の課題ですね。

パーソナル性を活かす

  地上波デジタル放送がスタートし、来年には1セグメントのモバイル向けテレビ放送も始まりますね。

 放送のデジタル化は大歓迎です。しかし携帯電話でテレビが観られるというだけでは単なる足し算、たいした話ではありません。重要なのは、携帯電話のリアルタイム性、パーソナル性を生かし、どんな掛け算ができるか、新しいサービスができるかです。

  2005年前半に理論値最大14.4MbpsのHSDPAが開始予定と、ますます携帯電話のブロードバンド化が進みます。携帯電話は今後、どう変わっていくのでしょう。

 その時、頭に入れておかないといけないのは、モバイルは世の中にとって、どんな位置を占めるのだろうということです。独立独歩で1つの文化を形成していくのか、それとも社会の中に同化し、連携を強めていくのか……。私は社会の中にオープンな形で同化していく方向だと思います。
 今、オフィスや家庭はかなりブロードバンド化しましたが、これは非常にリッチなコンテンツの世界です。一方、携帯電話の価値はどこにあるのかといえば、パーソナルであることの価値、つまりいつも身に付けている“私”の通信機能であることの価値です。
 携帯電話を1台持っていれば、“私自身”であることを認証でき、安全に注文できたり、喫茶店に入ると公衆無線LANを通してリッチコンテンツの閲覧ができたり、家の中に入ると自動的にホームサーバーから自分宛てのビデオメールをチェックできたり……。つまり、“私自身”である携帯電話を通じて、いろんなことができる社会  それがわれわれの目指す未来です。単純に携帯電話で何ができるかではなく、そのパーソナル性を生かし、他との連携で何ができるのか。そこに今後の可能性、大きなビジネスチャンスが広がっているのだと思っています。

  今年、当面はどの領域に力を入れていくのでしょうか。

 それはFOMAの特徴を生かした映像系サービスです。キャラクター画像を使ったテレビ電話の新しい活用法である「キャラ電サービス」、撮影したムービーをサーバー上に保管・公開できる「映像UPロードサービス」など、次々に新サービスを開始していきます。FOMAジャンプの年、その推進力として映像コミュニケーションが大いに貢献するはずです。
(聞き手・土谷宜弘)
 

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