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2004年4月号

パナソニック モバイルコミュニケーションズ
取締役社長
桂 靖雄氏
モバイル特化で攻めに転じる
世界市場のトップ5へ

松下通信工業を母体とし
2003年1月に誕生したパナソニック モバイルコミュニケーションズ。
桂靖雄社長は、「モバイルへの特化をバネに、
世界市場でシェア8%・トップ5を目指す」と意気込む。

Profile

桂 靖雄(かつら・やすお)氏
1970年松下電器産業入社、松下通信工業に出向。1996年パーソナルコミュニケーション事業部長。1997年取締役就任。1999年取締役コミュニケーションシステム事業部長。2000年専務取締役を経て、2001年に取締役社長就任。2003年から現在のパナソニック モバイルコミュニケーションズ取締役社長に

  2003年にパナソニック モバイルコミュニケーションズとして事業再編を進めた前後は経営的にも苦しい時期が続きましたね。

 お蔭様で、2003年度は全部門での黒字化の見通しが立ち、ようやく足元を固めることができたというのが実感です。一部上場企業であり、広範な商品群を展開していた松下通信工業時代と比べ、現在では事業内容もスリムになりました。挑戦者の気持ちで市場に挑んだ1年でした。

  従来に比べモバイル事業、特に携帯電話端末生産の比重が高まりましたね。

 そうです。現在のところ、端末で8割強、無線基地局などで2割弱というイメージで事業を展開しています。幸い私自身はかつて端末とインフラ双方の事業部長を経験していましたので、違和感なく事業展開が進められたのではと思っています。2002年の松下電器産業による100%子会社化、2003年1月のグループ内での事業再編によって、ターゲットとなるドメインがクリアになりました。

  松下電器グループとして、御社とパナニックコミュニケーションズの2社で移動体、固定系と事業を分担することになりました。

 当面は現在のフォーメーションを維持します。特に以前の九州松下電器とは、いくつかの分野でコンペティターの関係でしたが、事業ドメインが明確化した現在ではお互いにオープンな関係となり双方の技術を用いた商品開発を進めるといったことが容易になってきました。松下電器の中村邦夫社長が主催するドメイン社長会議をはじめ、ドメイン内の構成企業同士の連携が密になった効果はさまざまな側面であらわれてくるでしょう。
 といいましても、この形が未来永劫続くとは思っていません。固定系とモバイル系を合わせた通信分野を1社で網羅すればいいというわけではありませんが、市場の動きに合わせ適宜見直していく必要があります。現状の枠組にはまらない新規事業をどうするかという問題もあります。グループとしても、そのビジネスチャンスを逃すわけにはいきませんから。

  桂さんとしては、どのような新規事業にビジネスとしての可能性を感じていますか。

 家庭や自動車といった生活空間でのシームレスネットワークがいよいよ本物になってきました。テレビなど家電製品とを結ぶマンマシンインターフェースとしてモバイルを積極的に活用する手法は有効になってくるでしょう。幸い松下グループ全体では、こういったノウハウ、知的財産、技術を豊富に有しています。新しい分野なので可能性は未知数ですが、怖じずに取り組んでいきたいですね。
 また、NTTドコモでは2005年に3.5Gと呼んでいるHSDPAの投入を表明しています。こういったモバイルのブロードバンド化も見逃せない流れです。先行してオフィス内での無線LANなどが普及していますので、そこから高速化のメリットをユーザーが実感してくると、高速化の動きが加速していくのではないでしょうか。

FOMAシフトに合わせ商品強化

  足元の国内市場を見ますと、NTTドコモ向けFOMA端末に軸足を置くことになりますか。

 2004年はいよいよFOMAシフトとなるのではないかと期待しています。2005、6年の間にPDCとFOMAのユーザー比が逆転する勢いです。これまでは、収益に対して開発投資が過大な傾向がありましたが、ようやく過去の先行投資が回収できる局面に入りました。
 また、並行して生産体制でも抜本的な見直しを図っており、的確な発売タイミングに的確な製品を投入することでユーザーニーズを逃さない仕組みができました。  一方、今まで培ってきた3G端末技術を武器にボーダフォングループに対しても、国内、世界市場の双方でW-CDMA端末の供給を提案しており、2004年以降はグローバルに3G端末の比重をより増していく方針です。

  一昨年から進めているNECとの協業では成果が見られましたか。

 NECとはW-CDMAをベースのLinuxによる開発プラットホームを共同で構築しているところです。従来、携帯電話では通信制御に直接関わるところでの競争を行っていましたが、今後はアプリケーションの良し悪しが勝負のカギを握るでしょう。PCライクなアプリケーションやビジュアルに特化したものなど多様化していく一方で、短期間に低コストで開発することも求められてきます。そのための基盤を両社で作っているのです。

  ここしばらく、KDDI/au向け端末を投入していませんが。

 正直なところ、事業再編という大仕事に取りかかったために、繰り延べになってしまったところがあります。以前に生産したcdmaOne端末では自社製のコアチップを使っていましたが、CDMA2000 1xでは開発リソースの配分を考えるとすべてを自社開発するのは難しいかもしれません。今後は、適当なパートナーとアライアンスを組むことも視野に入れ再事業化を推進していきます。

  最近は端末生産だけでなく、基地局などインフラ事業にも力を入れていると聞きましたが。

 NTTドコモ向けの3G無線基地局事業が軌道に乗ってきましたので、今後は低コストな小容量局などラインナップを拡充していきます。さらには、無線アクセス、光映像アクセスを中心としたIP対応商品を投入し、新規分野にも挑んでいきたいと考えています。

世界市場は5億台前後で頭打ちに

  グローバルでの携帯電話マーケットをどう予測していますか。

 2003年度は全世界で5億台程度の端末が出荷されたようです。以前はこれが将来7億、8億にまで膨れ上がるという需要予測をよく聞きましたが、現在の状況をみると難しいかもしれません。5億台の水準がキープできればよいのではないでしょうか。理由は2つあります。先進国で普及率が頭打ちになる一方で、途上国では中古端末市場が形成される傾向にあるからです。

  日本メーカーはこれまで海外市場の進出で苦労してきた経緯がありますが、その要因はどのようなものだったと分析していますか。

 この十数年、成功と失敗の波を繰り返してきたという反省があります。これは、日本メーカーが海外の通信キャリアのインフラ構築に食いこめなかったという反省があります。日本方式であるPDCの世界標準化に失敗しただけでなく、メーカーサイドでもこれまではキャリアに頼りすぎていた側面があったかもしれません。
 つまり、ネットワークを前提としたサービスがこなれてきてようやく欧米メーカーの端末に追いつき事業が好調になる、しかしネットワークが進化するとインフラも含めて提供している欧米企業の端末が優位性を増し日本製品の魅力が後退するというジレンマに陥っていました。
 しかし、その構図も欧州や中国で3Gが本格化すれば崩れるという期待を持っています。日本で先行したW-CDMAでは、要素技術、応用技術の両面で優位性を発揮できます。圧倒的に優位とはいいませんが、大きかったハンディキャップはなくなるでしょう。われわれもW-CDMAでは無線基地局を開発しており、ネットワークインフラの一翼をになう体制が固まりました。

  海外展開はW-CDMAをメインに進めていく戦略ですか。

 いえ、導入が遅れていた欧州では今年からボーダフォンなどビッグキャリアがようやくW-CDMAをスタートさせるといわれており、市場が本格化するのは2、3年待たねばならないでしょう。それまでは、GSMを中心としたラインナップを拡充させます。ハイエンド端末では、シンビアンOSを搭載した端末も開発中で今年度後半には市場に投入する予定です。

  中国市場の重要性も増してきました。

 そうですね。しかし、中国市場が今後も過去3年のような急成長を遂げるかは疑問を持っています。人口全体に対する普及率はいまだに低い水準ですが、十分な購買力のある沿海部ではすでに携帯電話は行き渡りつつあるのが実感です。沿海部については、今後は日本のような買い替え中心のマーケットへ急速に移行すると見ています。

  欧州と同様にGSMとW-CDMAの2本立てでの展開ですか。

 若干異なってくるでしょう。重要なファクターとして、3Gライセンスは現在2Gを展開する2キャリアに加え、複数社に交付されるといわれている点です。新規に3Gに参入するキャリアは、2Gのネットワークを持たない世界でも珍しいピュアな3Gキャリアになるでしょう。その場合、短期間で集中的にインフラ基盤に投資することが考えられ、われわれにも大きなビジネスチャンスが生まれるでしょう。そこで、中国の3Gに関しては米国の通信機器ベンダーUTスターコム社と提携し、昨年秋に杭州に合弁会社を設立してキャリアに対していつでも3G基地局を供給できる体制を構築しました。

モバイル専業の強みを生かす

  モバイル通信に特化したメーカーとしての強みをどう生かしていきますか。

 よくいわれる話ですが、日本企業は「選択と集中」が苦手でした。欧米のノキアやモトローラといった企業は、AV機器系の事業を捨て移動体通信に特化することで競争力を得てきました。われわれも彼らと伍していくため、新たな開発体制の構築に乗り出しました。従来は出荷地域ごとでそれぞれ実施していた製品開発の体制を見直しています。基礎技術研究や要素部品などの開発はグローバルで集約し、製品開発は各地域で行うという一連のサイクルを整理し開発効率を高め、一段と早くなっている市場ニーズにいち早く応えられるようにしていきます。

  桂社長は常々、世界市場で8%のシェアをとりたいとおっしゃっていますね。 桂 はい。社内では2桁シェアをとれと檄を飛ばしています。移動体通信端末を事業として成り立たせるとき世界市場を抜きにして語れません。売上規模でも世界上位5社の一角を占めることが当面の目標になるでしょう。
 そのために今後はパナソニック モバイルコミュニケーションズとして、ユーザーがネットワークを意識せずに「つながりたい人がつながりたい時に使える」という新しい観点からの事業提案、端末提案をしていき、新たな市場を切り開いていきたいと考えています。
(聞き手・土谷宜弘)
 

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