W-CDMAのデバイス開発事業から通信事業者に転進し、この間PHS事業を推進してこられましたが。
1990年の設立当初は、携帯電話向けのキーデバイスとプロトコルソフトを開発していました。3Gの立ち上がりがあまりに遅く、グローバルでも展望が開けないことから、2001年に日本テレコムから東京ウェブリンクの譲渡を受け、「マジックメール」としてポケベル事業に参入しました。02年には東京通信ネットワーク(現パワードコム)からPHS事業のアステル東京を買収し、両事業を展開しています。
PHS事業は当初の思惑通りに行かず、撤退の動きもあります。
当社も、すでに4月20日をもって新規加入受付を停止しています。とやかく言う人もいますが、今後はこのインフラ資産を生かしてWiMAX(World
Interoperability for Microwave Access)事業で追随を許さない展開を図っていきます。
ここに来てWiMAXは業界で大変注目されていますが、なぜこの方式を選択したのですか。
3Gなどのテレコム型ではなく、オープンでグローバルなインターネット型の技術だからです。WiMAXはこれからのブロードバンドの機軸になりうるものだと確信しました。IEEEが802.16として標準化を進める高速無線技術ですが、その中でFWA(Fixed
Wireless Access)を目的とした、見通し外通信も可能な802.16-2004が昨年標準化されました。この規格によれば、半径50kmを最大70Mbpsでカバーします。
802.16-2004の利点とは、どのようなものでしょうか。
東京のような過密都市では、ラストワンマイルのソリューションとして非常に有効です。各家庭内のすべての端末にまで光ファイバーを通すには大変なコストがかかります。そこを無線で埋めるわけです。また過密な都市部への低コストな無線ブロードバンドの提供には、一定の需要が見込めます。屋内外で使用でき、コンセントに縛られない移動可能なブロードバンド回線というのは、使い勝手がいいですよ。
直営とフランチャイズと卸売り
WiMAXでどのようなビジネスモデルを想定していますか。
今の携帯電話キャリアのような姿は考えていません。われわれの規模の企業には投資リスクも大きく、現実的ではないからです。WiMAX事業では、VNO(Virtual
Network Operator)向けに、通信インフラをフランチャイズ方式で提供することを想定しています。当社はVNOへ回線を卸売り販売し、彼らがエンドユーザーへ直接サービスを提供するというイメージです。
では個々のユーザーをどう獲得し、端末を拡販するかという小売り事業にはかかわらないということですか。
首都圏は直営で、他のエリアはフランチャイズ方式が基本です。小売りは個々のVNOが、自身の顧客に対して取り組むべき領域です。
当社の事業モデルでは、直営事業と、VNOへの帯域販売、それにオーダーメイド的な大口卸の3つの形が基本です。直営サービスは定額制で月額3000円です。一方、VNOには帯域単位で、無線のブロードバンド網を自分でインフラを用意するよりも格安な値段で提供していきます。
日本の通信業界には今までなかったタイプの事業モデルです。成算はありますか。
WiMAX事業成功の鍵は、どれだけ多くのアクセスポイント(AP)を早期に用意できるか、そしてポケベルのような280MHzという浸透性の高い電波を5GHzといかに組み合わせるかです。その点、当社は首都圏にPHS事業で確保した基地局とポケベル事業を保有しています。ゼロから準備しなければならない他社と比べ、極めて有利な立場にあります。これは、移動通信事業に携わった人なら痛切に理解できるはずです。
加えてアプリケーション面でも、差別化ポイントとして、当初の2年間は、基礎需要の大きい高齢化社会に必要なサービスを中心に展開します。その中には、人の命を救う、見守るといった自治体予算がつくものもあって、潜在ユーザーが60万人以上いると思っています。しかし、加入者数としては、それ以下で損益分岐点を計算し、3000円で12万5000人、年間30億円でブレイクイーブンになるよう設定しています。
もし60万ユーザーが取れて100億円のキャッシュが残ったら、休むことなく1都8県のAP密度を上げ、フランチャイズエリアを拡大していきます。そこまでいかなくても、現金が残れば「継続は力なり」と基地局の増加に費やしていくつもりです。後から参入してくる人に「基地局を自ら手がけるよりはVNOをやった方がいい」と思わせる構造設計です。これが成算ですが、PHSとポケベルをモディファイし、安価にインフラを再生するという戦略に立たなかったら成立し難いビジネスモデルです。
初期投資の規模はどのくらいになりますか。
直営エリアで初年度は40億円です。われわれはインフラカンパニーですので、ある一定の規模まで一気にサービスエリアを広げます。それが収益基盤になるからです。WiMAXはPHSや無線LANと比べて収容効率が大変よく、1000万円程度の基地局で600〜1000人のユーザーを収容できます。200人収容なら30万円で済みます。
今までなぜ無線LANが事業にならなかったかといえば、AP1台あたりのカバー範囲が半径30〜80mで、ユーザー収容能力が5〜8人だったからです。これでは商売になりません。
安全・安心・信頼がキーワード
実際に事業化する上で、具体的には、どんなサービスを想定していますか。
現時点でお話できる当社の直営事業としては、e-JAPAN計画に見られる医療アプリケーションのようなものです。「安全・安心・信頼」にかかわるコンテンツを中心にサービスを始めます。例えば「児童見守り」「シルバー見守り」「家財見守り」といったサービスです。
他にもユーザーの要望に応じてコンテンツを自ら用意しているものがあります。その1つが、携帯電話からでもインターネットからでも見える「渋滞ドットコム」というアプリケーションです。例えば「世田谷区用賀インター」と検索すると、ビルの上に設置した固定カメラの映像で、実際の渋滞の様子を目で確認できるサービスです。首都高速と主な交差点全体を見ることができます。
もう1つは、企業の開示情報と、その日の株価をリアルタイムで分かる「インターネット四季報」です。渋滞ドットコムとインターネット四季報は3000円の定額料金の中に含まれ、加入者はいつでも利用できます。
構想はよくわかりました。いよいよ目前に迫った実証実験についてお聞かせください。
実験は5.7GHz帯を使って、6月から東京と京都と岡山の3カ所で順次スタートします。現状では参加企業11社以上が決まっており、その中にはパワードコムなどが含まれます。もう何社か参加を見込んでおり、これらの企業がユーザーとなってくれることを願っています。
12月開始予定の商用サービスはFWAでの4.95GHzでのビジネスと聞きますが、その後の展開はどう考えていますか。
この12月からの1年は、FWAとしての双方向ブロードバンド通信網の普及期としていきます。これが基本です。
時速120km以上のハンドオーバーに対応したモバイル向け標準規格のIEEE802.16eについては、策定が半年ぐらいずれ込むことも見込んでいますから、だいたい2年以内には「モバイルWiMAX事業」がターゲットに入ってきます。モバイルWiMAXは携帯電話のようなサービスで、4.95GHzを軸に3.5GHz以下の電波割当を望んでいます。
今後の周波数の割り当てが決まっていないことが不透明さの要因ですが、この見通しは。
私は不透明とは思っていません、実証実験では5.7GHz帯、商用サービスでは4.95GHzが間違いなく許可されると思います。そして4.95GHzの割当も、年末の当社のサービスインまでに、登録制という形で行われると理解しています。ですから4.95GHzを待つことにリスクはないでしょう。
将来的には、IEEE802.16e規格が、ITUから4G(第4世代移動体通信)方式として推奨されるでしょう。その暁には、堂々と移動体通信事業者として、2.5GHz帯の割り当てに名乗りをあげることもあり得ると思います。
国際標準をいち早く
世界でも実用例が少ない新規技術のWiMAXに精力を注ぐ理由は何ですか。
「インテルなどのグループが強く推進していること」、「国際標準で互換性が重視されていること」、「基地局、端末プロダクツが格安であること」の3点を信じて採用しました。これからの日本の通信業界、ひいては産業界は、これまでのような資源消費型つまり作っては捨ての繰り返しでは、もうあとが続きません。ハードウェア面では競争せずに国際標準をいち早く導入し、その上で走るアプリケーションやミドルウェアを産業の基盤に据えて、サービスチャージで儲けるコンテンツ主導型の体制を整えるべきです。
WiMAX事業の展開に際して、現在のPHS事業の巻き取りをどうされますか。2004年4月末の時点で7万8100の加入者がいます。
PHS事業に関しては、今のユーザーを大事にしつつ、どういう手順で止めるかだと思っています。当社としては、もちろんWiMAXへ乗り換えていただきたいと考えています。そのための施策を講じていきます。
通信事業者のYOZANとしては、WiMAX事業の成功がまさに分水嶺ですね。
通信の世界はIPによってすっかり変わってしまいました。かつては大手の事業者ほど「IP固定通信なんて使い物にならない」と言っていました。それが今年あたりになると「固定はIP化」とみんなが言い出しました。有線でIPになったものが、無線でそうならないわけがないでしょう。ISDNだったPHS基地局のバックボーンを光ファイバーに換えれば、コストがぐんと下がります。われわれもその同じ流れの中にいるのです。
これまで船頭が多く、合意が変転し、サービス計画の中止や株価の低迷などで株主の皆さんにご心配をおかけしました。しかし、昨年の11月に再び私主導の経営体制に戻りました。これから精一杯がんばりたいと思います。6月の実験から12月のサービスインへ、「有言実行」で必ずやっていきます。
(聞き手・土谷宜弘)