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2007年8月号

パナソニック モバイルコミュニケーションズ
取締役社長
脇 治氏
市場の声つかみ魅力ある商品を出す
再び海外を視野に基盤作りへ

「全社が一丸となってお客様の方向を向いている必要がある」
今年4月に就任した脇社長はこれまでの反省に立ち、パナソニックらしい商品作りの復活にかける。
「まずは利益の出る体質を」と控えめな目標だが、グローバル市場も視野に入れ、新たな挑戦を開始した。

Profile

脇 治氏
(わき・おさむ)
1951年生まれ。74年東京工業大学工学部電子物理工学科卒業。同年4月松下電器産業入社。94年10月松下通信工業パーソナルコミュニケーション事業部国内技術部長。98年4月同社パーソナルコミュニケーション事業部技術管理部長(兼)PHS技術部長。2000年6月同社取締役パーソナルコミュニケーション事業部長。03年1月パナソニックモバイルコミュニケーションズ取締役技術本部長。05年6月パナソニックモバイルコミュニケーションズ常務取締役キャリア事業推進担当。06年6月常務取締役端末事業担当。07年4月取締役社長に就任

調査会社が発表した2006年の端末出荷台数で、パナソニックは2位になりました。現在の携帯電話市場についてどのように見ていますか。

 06年の携帯電話出荷台数は4756万台で、番号ポータビリティ(MNP)の効果も多少ありましたが、人口が限られている以上、これからそれほど拡大することはないと思います。
 商品を作っている立場からすると、買い換えサイクルの長期化が気がかりです。是が非でも買い換えたい魅力ある新製品が少なくなっているためです。お客様が本当に欲しくなるような新しい機能やデザインを提供することに尽きると思います。
 ただ、身に着ける通信機器は携帯電話しかないので、1人1台は持っています。需要が画期的に膨らむことはなくても、それほど落ち込むこともないでしょう。何年も同じ端末を使っていると、壊れなくても飽きてきます。カメラやワンセグのように新しい機能を搭載した商品が、今まで使っていたものとサイズや価格などで大差なければ買い換えていただけます。魅力ある端末を提供すれば、マーケット全体を活性化させることになるし、自社のシェアを上げることにもつながります。

かつて携帯電話初期には、松下とNECの2強時代が長く続きましたが、その後、ソフトウェア化の波に飲まれ、首位から転落してしまいました。

 歴史的に日本の自動車電話はNECと松下の2社が手がけていました。携帯電話になってからも、アナログとPDCはNECと富士通、三菱電機、松下しかありませんでした。
 音声通信中心の時代は技術的な難易度も含めて、無線通信を中心とする伝送系に付加価値がありそれが差別化技術だったのですが、市場の拡大とともにクアルコムやテキサス・インスツルメンツ(TI)といった端末メーカー以外の企業がそれを提供できるようになり、差別化技術ではなくなりました。
 その結果、液晶やカメラなどお客様にとって新しい差別化で技術の強みを持つ後発メーカーが優位に立っています。
 しかし、無線の世界は3.9Gや4Gへの発展、さらにはWiMAXとの複合など選択肢が広がってきます。伝送系の技術革新は決して終わったわけではなく、これからも続いていきます。また次の変化点が訪れるはずです。
 差別化技術が生きるのは、変化点のときだけです。誰もが作れるようになったらコモディティ化します。3Gでは当初、各社が独自にプラットフォーム開発を始めましたが、ドコモではLinux OSとシンビアンOSをベースにしている2陣営に集約されました。各陣営がファミリーとして共同開発し、開発費を割り算していく形態が起こってくると思います。
 WindowsやLinuxなどPCの世界でそうであったように、携帯電話の世界でも、いくつかのミドルウェアプラットフォームがオープンに汎用化され、その上でいろいろなアプリケーションを作れるような環境をいち早く作った方が、その先の発展が見込まれるのではないでしょうか。
 歴史の長い携帯電話メーカーはもともと伝送系の基本部分からソフトのアプリケーション、プラットフォームとすべて自社で仕上げる体質を持っています。かつてはそれが強みでしたが、今はむしろ負担になっています。

昨年、NECと松下電器産業との間で、携帯電話端末を開発する新会社「エスティーモ」を設立しました。

 昨年はエスティーモの他にも、「アドコアテック」(NEC、NECエレクトロニクス、松下、TIとの合弁会社)などを立ち上げました。ゼロからのスタートでなく、お互いに商品を出している中での作業なので、成果を出すまでには時間がかかります。そうした成果の共有も3社、4社と広げていきたいと考えています。

グループ連携を強化

今後の付加価値のポイントはどこになるのでしょうか。

 直近では小型・軽量・薄型化です。同じような機能のものを薄く、小さく作ることが差別化になります。
 もう1つは、松下グループ全体のAV関係の技術を生かし、基本性能のAV特性で他社と差別化していきます。その先は、もっと広範に、グループ全体としてのネット家電連携とか、テレビやカメラ、音楽などパナソニックの優れたAV機能をフィーチャーした端末で差別化していきます。さらに、3.9Gでは100Mbpsの伝送路で、固定のブロードバンド回線と同じ速度になりますから、携帯電話で取り込んだ大容量・高精細な動画を、家庭のテレビに転送して視聴するといったことが可能になります。FMC時代はすぐそこに来ていると思います。
 松下電器産業の大坪文雄社長も、「成長の源泉は連携にある」と発言しています。そういう意味では、今までと比べたら少し違ったスピードで進むのではないでしょうか。

4月に社長に就任して、まず取り組んだことは何ですか。

 商品力の強化です。残念ながら、当社のシェアが低下したのは、お客様が魅力的と思っていただける商品になっていなかったということです。市場の声をつかんでいないわけではないが、それが整理、共有化されず最終商品にうまく反映されていませんでした。
 まずは、すべての職能が常にお客様の方を向いていることが理想です。実際にそういう機会を作ろうとして、例えば経営幹部もショップに定期的に足を運び、お客様やスタッフの声を聞くように変えました。
 もう1つが「ボイス・オブ・カスタマー(VOC)」推進室。当社もお客様相談センターを設けていますが、携帯電話事業はOEMビジネスなので、多くのお客様はまずキャリアの相談センターに電話をかけます。端末の詳細などの相談は、そこから当社の相談センターに転送されてきます。VOCはそうした声をはじめ、さまざまな市場ニーズを整理、共有化するための旗印的な組織として立ち上げました。
 ただ、整理された情報をデータで共有することももちろん大切ですが、やはり現場の「臨場感」が必要です。すべての職能が直接、お客様との接点で肌で感じること、つまり臨場感の伴う情報を持っていることが、あらゆる行動に反映されると思います。

マルチキャリア化はメリット・デメリットがあると思いますが。

 マルチ化のメリットは2つあります。まず、コストを下げるためには数の割り算ができること。数を増やし、コストを下げることができます。もう1つは、パナソニックの商品をご愛用していただいているお客様に対し、継続して商品を提供できることです。5年ほど前にJ-フォン(当時)とauへの供給を休止したのですが、昨年、再参入したときにまだ当時の商品を使い続けておられる方がけっこうみえたんですよ。
 これに対し、マルチ化のデメリットは、キャリアごとに差別化をしなければならないことです。ドコモとソフトバンクは通信規格が同じなので共通する部分も多いのですが、それでもキャリアによって要求仕様が異なりますし、差別化も必要です。また、情報管理の面からも社内でキャリア別に組織を分けて運営しなければなりません。

利益の出る体質に

当面・中長期の目標はどこに置いていますか。

 昨年は、ようやく水面から顔を出した状態になりました。今年は水面から頭が出るぐらいになりたいと考えています。07年度の年間見通しは販売高4495億円、営業利益25億円です。06年の営業利益が23億円ですから伸びが少ないと言われますが、これは3.9G開発などの先行投資をしているからです。
 事業における目標としては、さらに利益の出る体質にすることです。昨年、海外GSM事業から撤退してなんとか黒字化できたので、再び赤字にならないよう経営体質を筋肉質にしたい。販売台数は海外撤退もあり昨年度、かなり減少しましたが、今年度は挽回します。またソフトバンクとauではまだ新参者なので、早く一人前と認めてもらえるよう存在感を高めて、足場を固めたいと思います。
 松下グループ全体では、09年に営業利益8%の目標をかかげていますが、当社は周回遅れです。当面、5%ぐらいを経営指標として基盤を作りたいと思います。

総務省の「モバイルビジネス研究会」が端末メーカーの海外展開を呼びかけています。海外事業に再び挑戦する計画はありますか。

 国内で2位といっても、業界で生き残れるかどうかは別問題です。
 これから端末はワールドローミング対応などグローバル化が進んでいきます。つまり、日本の端末もグローバルスタンダードに近づいていくとともに、そのプラットフォームを作ろうとしていますから、日本メーカーも海外で事業を展開しやすくなるわけです。
 当社がエスティーモやアドコアテックのほか、モトローラやサムスン電子、ボーダフォングループなどと一緒に携帯電話用Linux OSの普及促進団体「リモ・ファンデーション」を立ち上げたのも、世界共通のプラットフォームを作るための取り組みです。プラットフォームが共通化されれば、海外キャリアにも対応しやすくなります。その意味では、海外展開のための基盤作りも視野に入れていると言えます。
(聞き手・村上麻里子)

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