●共に携帯電話事業が赤字であったソニーとエリクソンが合弁会社を設立してから、目ざましく業績が伸びています。業績拡大の要因はどこにあるのでしょうか。
久保田 合弁会社が設立されたのが2001年10月のこと。翌年02年の端末販売台数は2290万台でした。それが去年06年には7480万台と、5年間でおよそ3倍強まで成長しました。
これは、ソニーとエリクソン、それぞれの強みが見事に生かされていることが大きいでしょう。
エリクソンの強みは何と言っても「無線通信技術」です。100年以上にわたる無線通信技術開発の歴史に加え、EMP(エリクソン・モバイル・プラットフォーム)というプラットフォームを開発・提供しているグループ会社もあります。ネットワークのつながりやすさという意味では全世界で定評のあるブランドです。
また、「営業力」の面も大きい。エリクソンは元々ネットワークインフラの販売で世界中のキャリアとコネクションがあります。キャリアとの良好な関係性は、携帯電話ビジネスでも強みとして生かされています。
●では、ソニーの強みは。
久保田 やはり「デザイン」です。さらに、デザインとともに「商品企画」「マーケティング」に強みがあると言えます。
例えば、昨今の急成長の牽引役となっている携帯電話に、“ウォークマン”や“サイバーショット”などAV製品のサブブランド(企業ブランドではなく個別の商品ブランド)を冠したモデル群があります。“ウォークマン”ケータイは05年の発売開始から全世界で累計3560万台、“サイバーショット”ケータイは06年の発売開始から同じく累計930万台を売り上げました。
このようなサブブランドを、商品の機能やデザインに反映させてコンセプトをわかりやすく消費者に提供すること、また、そのサブブランドをうまく活用したマーケティングを行うことがソニーは非常に得意です。
●ソニー・エリクソンの開発拠点は日本だけではありません。日本の役割を教えてください。
久保田 日本の拠点にいる開発者は、最大の開発拠点であるスウェーデンにいる開発者の3分の1程度です。しかし、その果たす役割は非常に大きいと思っています。
日本の拠点では開発者の半分が日本向けモデルを開発し、残りの半分が海外向けモデルを開発しています。日本のマーケットは世界に比べ、デバイス・機能・サービスなどいろいろな意味で大きく先行しているため、日夜、日本モデル開発者はアグレッシブなチャレンジを行っています。それを見た海外モデル開発者は自分たちでも取り入れようとする。すると日本モデル開発者はさらに超えることをやろうとチャレンジを重ねる。自然と競い合って大きなシナジーが生まれてきます。
市場規模という点では日本と海外では販売台数ベースで10倍以上違います。だからと言って、全員で海外モデルの開発をやるのではシナジーは生まれない。うまく両方のバランスをとっていきたいと思います。
●日本の役割は非常に重要ですね。
久保田 今後、さらにその重要性は高まってくると思います。例えば、中国、インド、アメリカといった巨大マーケットには現時点で十分に入りきれていません。そこを積極的に狙っていくため、先行市場である日本で経験を積んだ優秀な人材にも活躍してもらいたいですね。
また、ソニー・エリクソンは昨年だけでグローバルで約75モデルを発売しました。今後、市場ではさらに多様性が求められてくるでしょうが、開発効率を落とすわけにはいきません。そんな中、日本という先端市場で培った技術・ノウハウを生かし、グローバルのビジネスに貢献していくという大きな役割を担っていると考えています。
●多くの国内メーカーが海外市場に挑戦しては、分厚い壁に跳ね返されてきました。海外市場に対する考え方を教えてください。
(聞き手・土谷宜弘)
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