●国内携帯電話市場の現状について、どのように見ていますか。
大谷 PHSを加えれば、すでに加入者が1億人を超えていることから、端末の年間出荷台数は今後4500〜4800万にとどまると予想しています。昨年から今年にかけて、70〜80代の高齢者の新規加入が増えていますが、全体的には買い替えサイクルの長期化もあり、市場は拡大するよりむしろ縮小するのではないかと思います。
●NECの矢野薫社長は会見で「携帯電話はユビキタス時代のインタフェースとして10年後も生き残る商品」と発言されていました。NECにおける携帯電話事業への取り組みについて教えてください。
大谷 レポートを携帯電話で作成し、提出する学生が多くなっているように、携帯電話は人々の暮らしに浸透し、生活に欠かせない「ライフスタイルパートナー」になってきています。HSDPAやWVGAといった技術の進化だけでなく、パートナーとして役立つような訴求をし、人と人とのインターフェースを深めることです。
細かいけれど、ちょっとした気遣いがメーカーのマインドとして捉えられる可能性があります。ユーザーの声に丁寧に耳を傾け、技術開発や使いやすさの追求に地道に取り組み、まずはユーザーに喜んで手に取っていただける携帯電話を作り上げることに注力していきたいと考えています。
昨年7月には玉川事業場にクリエイティブスタジオを新設し、デザインと技術の融合を図っています。ユーザーにとって使いやすい、魅力あるデザインの端末を志向していきます。
●NECの携帯電話事業はしばらく苦戦が続きましたが、ようやく回復の兆しが見えてきました。
大谷 昨年度は、下期に携帯電話を含むモバイルターミナル事業の営業利益がブレークイーブンに回復しました。費用構造改革などさまざまな事業改革を実行するとともに、強い商品を市場に投入できたことが功を奏しました。
FOMAで最高解像度液晶を搭載した「N903i」は、販売が好調でした。一方、厚さ11.4mmと2つ折りの3G端末では世界最薄の「N703iμ」は、「MM総研大賞2007」でものづくり優秀賞に選ばれるなど、外部から高い評価をいただきました。
「人にやさしい」端末
●今年度の端末事業戦略についてはどのような方向ですか。
大谷 基本となるのは、強い弾出しと収益確保です。携帯電話は基本的な機能がしっかりしていることが重要で、その上にサービスやアプリケーションが載っています。NECの端末は「薄型(スリム)・高速(スピード)・スタミナ」の3Sが強みです。バッテリーを小さくして薄型を実現するアプローチもありますが、それでは待受時間や通話時間が短くなってしまいます。当社は、そこを妥協せず薄型と長使用時間の双方の利便性の両立を実現しています。
当社の携帯電話は「人にやさしい」がキーワードで、具体的には表示の見やすさ、メール作成など操作のしやすさ、持ち運びやすさを重視しています。
「N904i」は、文字の入力や文字サイズなど入力系を改善しました。特に、アルファベットや数字を入力モードを切り替えずに入力できるようになった点がユーザーには好評です。
一方「N704iμ」では、決定キーを押しやすくしたり、拡大文字の操作を改善したり、さらにキー操作面に指紋がつきにくくするなど、N703iμで寄せられた要望を着実に改善した進化感が大変好評で、好調な売上につながっています。
「使いやすさ」も「エコ」も、高い技術によって実現したものであり、技術が重要であることは確かなのですが、その技術によって使いやすさに磨きをかけたり、ユーザーが使ってわくわく楽しくなることこそが、本当に大切なことだと考えています。
例えばHSDPAの高速性についても、HSDPAという技術そのものをユーザーが求めているのではありません。音楽や地図がストレスなくダウンロードできることが、ユーザーに「使いやすい」とか、「わくわく楽しい」とか感じてもらえることにつながるわけです。
こうしたNケータイを使うことで広がる楽しさを、広告やパンフレットでもっとわかりやすく伝わるよう工夫しなければなりません。まだ訴求の仕方が弱いと思います。
●国内の端末メーカーは11社あり、激しい競争が繰り広げられています。特に注目している企業はありますか。
(聞き手・土谷宜弘)
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