●6月に社長に就任されましたが、打診があったときはどのような気持ちでしたか。
岡本 大変な事業を任されたと思いました。国内市場が頭打ちで、海外からも日本の端末メーカーが引き上げてくる状況のなか、携帯電話事業を継続させていくことが最大の課題と考えています。
●IDC Japanが発表した2007年第1四半期の国内出荷台数で、東芝はシェア12.0%で第2位でした。他の調査でも4位以上と安定した地位を確保しています。今後、国内でどのような位置付けを目指していくのですか。
岡本 携帯電話事業で最も重要なのは収益性と成長性の2点であり、シェアの順位に一喜一憂するような事業構造ではありません。市場全体が大きく成長している時期であればシェアを取ることも意味がありますが、安定した市場構造で金額的には縮小している現状では、シェアを取ったから必ずしも安泰とはいえないと思います。
東芝では、09年度までの中期経営計画として、「利益ある持続的成長」の実現を目標に掲げています。東芝の一員として、適正な利潤を確保しながら事業を継続・拡大していかなければなりません。しかし、携帯電話はこれから拡大が見込める市場ではないので、どう取り組むかが重要です。
PHSに再参入
●この7月、ウィルコムから「WX 320T」を発売しました。DDIポケット時代の「Carrots」シリーズ以来、実に6年ぶりのPHS端末になります。
岡本 定額制を始めたことで、ウィルコムの加入者はかなり増えました。そうなると、端末のラインアップも必要になってきます。携帯電話で培った技術やユーザビリティのよさを活用し、ラインナップ拡充のお手伝いができるのではないかと思い、久々の再投入となりました。
WX320Tは、デザインも機能も携帯電話と違いがなく、より安い料金で大量のデータを使いたいユーザーに適しています。
●携帯電話ではauとソフトバンクに端末を供給しています。メーカー各社がマルチキャリア化する方向にありますが、NTTドコモにも端末を供給する可能性はありますか。
岡本 事業者によって通信方式は異なりますが、その上に載るアプリケーションや端末固有の技術は共通です。メーカーが収益性を確保していくためには、1つの技術を複数の商品に活用しなければなりません。でなければ、技術投資を回収できなくなっています。しかし、そのためには、事業者のサービスや端末のポートフォリオに合うかどうかを検討する必要があります。
事業の成長性という意味では、ドコモにも端末を採用していただきたいのですが、体力やリソースの問題があります。重要なのは「利益ある持続的成長」を実現することです。携帯電話のビジネスモデルが大きく変化でもしないかぎり、現状を変える材料は見当たりません。
●昨年10月の番号ポータビリティ(MNP)開始以降、携帯キャリア3社の間では端末・サービス・料金をめぐって競争が続いています。メーカーにはどのような影響がありますか。
岡本 国内のキャリアはARPUが低下する傾向にあるので、収益や次の投資を確保するために端末に対するコスト要求が厳しくなる可能性があります。しかし、高機能でコストパフォーマンスの良い商品を作ることは、デジタルメディア機器全般に求められていることです。
一方、日本のユーザーは高機能端末や高付加価値サービスに慣れてきたので、法人など特定層を除けば、月額料金が下がるという理由だけでキャリアを乗り換えるかというと疑問です。料金が下がることはユーザーにメリットがあることは確かですが、それだけでは不十分で、魅力ある端末やサービスが必要だと思います。
●3Gの開発では三菱電機と提携していました。これからも他社との協力関係を強化していくのですか。
(聞き手・村上麻里子)
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