●モバイルビジネス研究会の最終報告書が取りまとめられて一段落しました。研究会では、キャリアやメーカー、販売代理店がそれぞれの立場から主張し、まとめるのに苦労したのではありませんか。
谷脇 キャリアはもとより、メーカー、代理店、ユーザーと関係者が多く、考えも多岐にわたっていました。ただ、携帯電話市場が成長期から成熟期に移行するなかで、販売モデルやMVNOなどいろいろなことを考えなければならない時期に来ているという認識で共通しており、真摯に議論していただくことができました。皆様の意見をよくお聞きしながら、ハードランディングはせず、段階的に進めていきます。
昨年9月に「新競争促進プログラム2010」で総論としてのロードマップを策定した後、この1年間は各論に取り組んできました。モバイルに関しては、研究会の報告書をまとめ、「モバイルビジネス活性化プラン」を発表したことで、各論の実施段階に入ってきたと思います。
●最終報告書は体系的かつ相互的な内容になっていると評価されています。
谷脇 特に注意したのは、競争政策だけではモバイルビジネスの活性化はできないということです。競争政策の観点に基づく施策が中心ですが、それに合わせて市場環境の整備を図っていく必要があります。例えば、消費者保護策の強化、相互接続実験のような端末テストベッドの構築など、環境整備の必要性も提議し、総合的な施策展開を意識しています。モバイルに焦点を当てた包括的な政策パッケージは初めてであり、今までになかった取り組みだと思います。
ブティック型モデルを目指す
●モバイルビジネスの活性化に向けた施策のうち、現行の端末価格と通信料金が一体となった方式の見直しは、消費者にも大きな影響を与えることになります。
谷脇 料金プランについての我々の基本的な考え方は、端末価格と通信料金を明確に消費者に提示すべき、ということです。消費者から見て、何にいくら払っているかをはっきりすることが重要だろうと、分離プランを提案しました。
しかし、料金プランは携帯電話事業者にとって経営の根幹に関わる部分であり、特定のモデルを押し付けるようなことは絶対にしてはいけないと思っています。従って、具体的にどのような形で実現するかは、各社が経営判断としてお考えになることです。
●端末販売に係る収支の透明性向上のため、電気通信事業会計規則の改正も盛り込まれました。
谷脇 販売奨励金がどのような役割を果たしているのか、今回あらためて議論しました。端末販売奨励金が接続料や卸電気通信役務の原価に含まれていると、自社の端末販売コストの一部を競争事業者に負担させることになり、競争政策的に問題があります。そこで奨励金を2つに分け、端末販売奨励金を電気通信の原価から抜くことにしました。
ただ、端末奨励金と通信奨励金を分けるのは難しい作業です。各社の経営戦略にも絡んでくるので、個別にお話をうかがった上で統一した運用試案を作り、改正を行うつもりです。
●販売奨励金の見直しは画期的なことです。
谷脇 そうですね。私は、販売奨励金そのものが悪いとは思っていません。固定系のブロードバンドや冷蔵庫、洗濯機などでも奨励金は支払われています。
しかし、市場の成熟化により事業者は奨励金がコスト負担になっています。コスト負担の透明性や公平性の問題もありますが、その根底に流れるのは、端末とネットワークを分離する作業です。つまり、垂直統合型のクローズドモデルから、オープン型のモバイルビジネス環境に切り替えていくことを意味します。
垂直統合型モデルは、デパート型あるいはワンストップショップ型モデルです。その他に、得意分野を持ち寄って1つのモデルを作り上げるブティック型モデルも必要なのではないでしょうか。繁華街にデパートだけではつまらないのと一緒です。モバイルでも多様なサービスが生まれる素地を作るためには、オープン型モバイル環境が必要です。
●販売奨励金と並んでSIMロックの解除も注目されているテーマです。3.9Gや4Gで事実上、解除することになるのですか。
谷脇 活性化プランにも書いてあるように、2010年の時点で最終的な結論を得るとしているので、当面は3.9Gや4Gの動きをよく見ていきます。それまでに何もしないというのではなく、端末プラットフォーム共通化の動きや、コンテンツの記述言語の問題などをいろいろな場で議論し、本格的な検討は2010年の時点で行う方向に持っていきたいと考えています。
韓国でもSIMロックを解除する方向で法制化の動きが始まっています。そうした近隣諸国の動きなどもよく見ていかなければなりません。
●MVNOについては、今年2月に「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」の見直しを行いました。今回、再見直しを表明したことで、かなり踏み込んだ印象があります。
(聞き手・土谷宜弘)
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