●2.5GHz帯における次世代PHSの進捗状況について教えてください。
喜久川 周波数の免許をいただいたことで、これまでパートナーシップを築いてきた企業など周囲の期待がさらに高まったと実感しています。
次世代PHSの開始に向けて、2段階にわたり組織改正を行っています。まず昨年11月、開発本部内に、次世代PHSの開発に特化した「次世代開発推進部」を新設しました。この4月には、次世代PHS事業を推進する専門の部署も立ち上げています。この部署では、MVNOや次世代PHSのビジネスモデルについて検討していきます。現行PHSでもMVNOに取り組んでいますが、次世代PHSに合ったMVNOのあり方を考える必要があります。まだ10人足らずの組織ですが、今後、拡大していく予定です。
●次世代PHSのサービスイメージはどのようになるのですか。
喜久川 2009年4月に東京23区などでエリア限定サービスを開始し、同年10月に東名阪を中心に商用サービスを開始します。エリア限定サービスで安定性を確認した上で秋以降、提供エリアを一気に拡大していく予定です。エリア限定サービスや本格サービスの開始時期は、前倒しする可能性もあります。
そのエリア展開については、早期に人口カバー率90%を達成することを社内で目標に掲げようとしています。現行PHSの基地局のロケーションを活用できるので、投資計画と資金調達の目途が立てば前倒しは可能です。合わせて技術開発にも取り組み、基地局の小型化や省エネ化が進めば、予定より早く展開できると思います。
加入者数は、2015年度に390万人が目標です。開始当初はアーリーアダプター層が中心になるでしょうが、エリアの拡充に伴い一般的なお客様や法人も加入され、09年度後半から10年度にかけて大きくジャンプアップすると思います。
●次世代PHSでは高速化が目玉になるといわれます。
喜久川 次世代PHSは最大20Mbps以上と、HSDPAの7.2Mbpsよりも速くなります。これまでは、マイクロセル方式により実効速度が理論値より落ちないことを強調していましたが、カタログスペックでも他の規格を上回り最高速になります。
今後、MIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を採用することで、さらなるスピードアップに取り組むつもりです。
現行PHSは32kbpsから800kbpsまでになりました。次世代PHSでも論理的に数百Mbpsまで通信速度を上げることは可能です。次世代PHS の開発部隊には数百Mbpsを目標に開発するよう指示しています。商用化するには消費電力などの問題がありますが、そうした問題は必ず時が解決してくれるはずです。
●2013年度末までに約1400億円、2015年度末までに約2000億円の設備投資を計画していますが、「少なすぎる」という声も聞かれます。
喜久川 現行PHSの16万ある基地局の資産を次世代PHSでも有効に活用できるので、少なすぎることはありません。基地局の設置にかかるコストの大半は、場所の確保や交渉における人件費です。我々はその部分がかなり省力化されます。その意味で、PHSは優れたモデルだと思います。
●3GからLTEへというように、ネットワークに関する技術は進化しています。その中でPHSの優位性はどのような点にあるのですか。
喜久川 PHSが採用するマイクロセル方式は、周波数の有効利用の王道です。この方式を完成させたのは当社しかなく、明らかにアドバンテージがあります。実効速度の速いワイヤレスブロードバンドはPHSが一番だと信じています。
我々はモバイルインターネットを切り拓いてきたパイオニアであり、マイクロセル方式や高い周波数利用効率を可能とするスマートアンテナや空間多重などの技術を現行PHSですでに実現しています。その優位性を継承し、さらにOFDM(直交周波数分割多重)やMIMOなど高速化技術を組み合わせ、発展させたものが次世代PHSです。
次世代PHSでモバイルインターネットがブロードバンドになることで、既存のマーケットが広がっていきます。また、高速のワイヤレスブロードバンドを広いエリアで提供することで、そこから新しい需要を創出したいと思っています。
携帯電話の登場により、固定電話だけの時代と比べて通話時間や保有台数が3倍になりました。同様に、インターネットブロードバンドがモバイル化して家庭でも使えるようになれば、新しいビジネスモデルが生まれる可能性があり、マーケットの拡大が見込めます。
(聞き手・太田智晴)
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