●auの携帯電話契約数が長年の目標だった3000万加入を達成し、大きく一区切りがついたと思います。今後のauが目指すものはどう変化していくのでしょうか。
煖エ この1年は、3000万という大きな目標に向けて量的拡大をずっと続けてきた時期でした。そういう意味では、数を狙える真ん中寄りの商品ばかりで、あまり特異性のある“尖った”商品が出せなかったという反省があります。「お客様満足度No.1」をうたって、やや守りに入った印象を持たれてしまっても仕方がないところがありました。
今回、3000万という1つの通過点を超えたので、ここからはもう少しユーザーがauに求める先進性、本来の“auらしさ”をもう1度取り戻す時期に来ていると考えています。
●確かに、市場がauに期待するものは、第2のドコモではなくフロントを走り続ける挑戦者としてのauだと思います。その点で言えば、今回の夏モデルの発表会では、少しauらしさを取り戻した印象を受けました。
煖エ そうですね。他社とは少し違ったアプローチで表現できたのではないかと思っています。ただ端末を並べて見せるのではなく「au Smart Sports」や「フルチェン」「ナカチェン」といった新たなサービスを同時に打ち出し、そのコンセプトと端末を紐付けて見せている。そこが我々の強みであり特徴だと思います。
今回の夏モデルのメッセージは2つあります。まず1つは「新しいライフスタイル軸」の提案です。今の携帯電話ユーザーの一番のボリュームゾーンは、最新機能を求める先端ユーザーではなく、そもそも機能に対してあまり関心がない人たちです。僕たちは「携帯無関心層」と呼んでいるんですが、メールとWebができて、デザインが格好よければそれでいいという人たちがどんどん増えてきているんですね。
そうした人たちをサービスに結び付けていきたいというアプローチをずっと続けていて、その一番最初が「音楽」だったわけです。これは非常にうまくいき、「音楽が携帯電話で聴けるんだ」というところから携帯電話に興味を持ってもらえた。この音楽に関しては他社もある程度追いついてしまったので、次は「スポーツ」という新たな座標軸を出したわけですね。これはまた先陣を切ってやっていけると思います。
●ユーザーのライフスタイルに合わせて、いろいろなトリガーを置くということですね。
煖エ その通りです。携帯電話の機能に興味がない人でも、興味があるものをトリガーにした瞬間に入ってきてもらうことができる。
そして、もう1つのメッセージは、「ユーザーさんが価値を認める入り口が多様化していく時代」だということです。今はもうauやドコモ、ソフトバンクという事業者ブランドだけで携帯電話を売っていく時代ではありません。そのメッセージをこめたのが携帯電話のインターフェースをさまざまな価値観に合わせて変化させられる「ナカチェン」です。すでにPCの世界ではブラウザのトップページをグーグルにしたり、mixiにしたり、ユーザー自らが窓口を選択している。それと同じことを携帯電話においても実現できるわけです。
こうしたサービスが盛り上がるかはコンテンツプロバイダー(CP)さんの反応でわかります。「ナカチェンをやります」と言ったところ、多くのCPさんが勢いよく手を挙げてくれた。サービスに対する期待の表れだと思います。
新しい価値追求する時代
●夏モデルから「シンプルコース」を刷新し、新たに端末の割賦販売を導入されました。販売代理店側からの抵抗はありませんか。
煖エ 以前から端末の割賦販売はやると申し上げていましたし、状況が整ったので我々も入れようということになりました。価値あるものをきちんと価値を持って提供しようと思うと、確かに割賦販売の有効性は高いです。
我々が特に「フルサポートコース」と「シンプルコース」のどちらかを強く打ち出していくことはありませんが、店頭持ち帰り0円や基本料金980円の「シンプル980」などのインパクトもありますし、新機種の販売ではシンプルコースの割賦販売の比率が上がってくるとは思います。
シンプルコースの方が粗利の確保はしやすくなるはずですので、販売代理店からの抵抗というのは今のところありませんね。
●世間ではすでに個人市場は飽和に近づき、成長は鈍化してくると言われていますが、どう考えていますか。
煖エ 端末・サービスの2年契約が主流になり、流動性が下がるのは間違いないと思います。我々もいろいろな手は打っていますが、どうしてもコンシューマー系の総需要は落ちてこざるを得ないでしょう。
ただし、これまで我々が手付かずだった中小法人マーケットを中心に法人契約が伸びてきていますので、そこと合わせて市場の流動性を確保していく姿勢です。すでに中小法人向け組織を全国に拠点展開するなど体制は整えています。
●数を追う時代は終わったということでしょうか。今後の競争のステージはどう変化していきますか。
(聞き手・土谷宜弘)
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