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Interviewインタビュー

2024年7月号

宇宙通信政策の最新動向
日本の勝ち筋を丁寧に

扇慎太郎 氏

扇慎太郎 氏
(おおぎ・しんたろう)
2000年東京大学経済学部卒、同年郵政省(現総務省)入省。2020年8月、内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター企画官。2022年6月、総務省情報流通行政局参事官付企画官。2023年7月、総務省国際戦略局宇宙通信政策課長(現職)

総務省
国際戦略局 宇宙通信政策課長
扇慎太郎 氏

低軌道衛星コンステレーションを用いた衛星通信サービスを筆頭に、ICT市場における宇宙システムの重要性が急激に高まっている。また、宇宙での人類の可能性を広げていくうえでも、通信が果たす役割は非常に大きい。こうしたなか、政府は宇宙通信市場の現状をどう捉え、どんな政策を進めているのか、総務省 宇宙通信政策課長の扇慎太郎氏に聞いた。

宇宙通信の重要性が高まっています。

扇 背景には、人類の宇宙での活動範囲が広がっていることがあります。これまでの地球近傍から、月、さらにその先の深宇宙での活動も増えてきました。また、安全保障の面でも、宇宙システムの重要性は高まっています。
 その中で、我々の生活においても、衛星通信はより身近なものとなってきました。例えば今年1月の能登半島地震では地上網が断絶し、Starlinkが災害対応や被災者の方の通信手段の確保に役立ちました。非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)と地上系ネットワークの融合が大きな動きとなっており、その結果として、宇宙を経由して通信する場面が増えています。
 通信は電力と並んで、宇宙活動の基盤となるものです。通信できないことには、何も始まりません。宇宙活動が発展していくうえで、通信が果たす役割は非常に大きいと思っています。
 世界の宇宙市場の規模は現時点で50兆円から70兆円くらいと言われています。このうち衛星通信の市場は1兆円くらいですが、2030年頃には約3兆円に拡大するという予測もあります。総務省としても、これまで以上に力を注いでいかなければならない分野だと考えています。

宇宙基本計画と宇宙戦略基金

具体的には、どのような政策を進めていくのでしょうか。

扇 宇宙政策と宇宙通信政策は不可分一体です。まず政府全体の宇宙政策について説明しますと、日本は今、宇宙活動において世界の先頭集団の一角を占めており、引き続き世界をリードしていくための取り組みを強化していこうとしています。そのための方針を具体化したのが、昨年6月に閣議決定した「宇宙基本計画」です。

「今後20年を見据えた10年間の宇宙政策の基本方針」とのことですが、どんな方針が盛り込まれたのですか。

扇 目玉の1つが、産学官一体での取り組み強化です。米国のNASAや欧州のESAといった海外の宇宙開発機関を見ますと、民間企業の開発を支援してビジネスにつなげていく取り組みに積極的です。
 従来、宇宙機関中心だった宇宙開発のプレイヤーが、民間へと広がり、大きな産業変革が起きつつあります。
 一方、日本は、欧米と比較すると、今まで民間の支援も行っていましたがJAXA中心になっていたと思います。そこで、JAXAが蓄積してきた知見を活用し、JAXAが産学官の結節点となって、大学や民間事業者などが行う研究開発に複数年度にわたって資金的な支援を行う「宇宙戦略基金」を創設しました。宇宙に特化した基金は今回が初めてです。

宇宙戦略基金は、令和5年度補正予算で3000億円の予算を確保しました。また、10年間で総額1兆円規模の支援を行うことを目指しています。

扇 これまで、政府全体の宇宙関係予算が年間6000億円程度でしたので、3000億円という予算規模は非常に大きいといえます。
 宇宙戦略基金による技術開発支援には、大きく3つの「出口」が設定されています。
 1つは「市場の拡大」です。日本の宇宙関連市場規模は現在約4兆円ですが、市場開拓や市場での競争力強化を目指した技術開発を支援することで、2030年代早期に8兆円へ拡大することを目標としています。
 2つめは「社会課題解決」です。例えば気候変動問題の解決など、宇宙を利用した社会的利益の創出を目指した技術開発を支援します。
 3つめは「フロンティア開拓」で、月や火星など、まだ市場ができているわけではないものの、宇宙における知の探究活動の深化・基盤技術力の強化に役立つ研究開発を支援します。
 今年3月には、宇宙政策委員会が、日本の勝ち筋になるような具体的な技術を「衛星」「宇宙科学・探査」「宇宙輸送」「分野共通技術」の4分野に整理しながら見極め、その開発のタイムライン等も示した「宇宙技術戦略」を新たに策定しました。宇宙戦略基金の予算要求や執行においては、この戦略を参照していくことにしています。
 総務省も、令和5年度の宇宙戦略基金の予算3000億円のうちの240億円を活用し、市場の拡大、社会課題解決、フロンティア開拓という3つのゴールに貢献する技術開発を支援していきます。

4つの技術開発テーマ

例えば、どのような技術開発を支援するのですか。

扇 政府全体の方針として、当面の事業開始に必要な経費を措置することになっており、総務省では、今後取り組むべき技術開発のうち、具体的に開発が進みつつあり、速やかに支援に着手すべき4つの技術開発テーマを設定しました。1つは「衛星量子暗号の通信技術の開発・実証」です。

理論上、絶対に破ることができない量子暗号通信ですが、光ファイバでは伝送距離を延ばすのが難しい点が課題ですね。

(聞き手・太田智晴)
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