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2002年4月号(B-brainコーナー)

インターネットイニシアティブ:保条英司 取締役 マーケティング本部 副本部長
既存IP網と一線を画すCDNで
有料コンテンツ市場の成長を促す

インターネットイニシアティブ(IIJ)は2002年4月から、大容量コンテンツをストレスなく送受信できる次世代コンテンツ配信網「CDNプラットホーム」の正式提供を開始する。インターネットインフラのパイオニアが描く新しいブロードバンド世界とは何か。保条英司取締役に、CDNプラットホーム構想の背景と今後の事業戦略を聞いた。

Profile

保条英司(ほうじょう・ひでし)
1996年株式会社インターネットイニシアティブ入社。2000年6月に同社取締役に就任し、営業及びマーケティング部門を統括。前職は、伊藤忠テクノサイエンスにて、Sun Microsystems社製ワークステーションのプロダクト・マーケティングを手掛ける。現在、アイアイジェイ テクノロジー 市場開発部部長、クロスウェイブ コミュニケーションズ営業企画部担当部長、イースト・コミュニケーションズ取締役、アジア・インターネット・ホールディング 取締役を兼務。1957年生まれ。三重県出身。

100万世帯を対象にスタート

――CDNプラットホーム事業を立ち上げるにいたった経緯について教えて下さい。

保条 きっかけは、昨年3月に当社が事務局となり立ち上げた「CDN JAPAN」でした。CDN JAPANでは、日本オラクル、シスコシステムズといったデータベース、ネットワーク機器ベンダーと組んでコンテンツ配信の次世代プラットホームを検証してきたわけですが、この活動を通じて現在のインターネット網の仕組みに限界を感じるようになったのです。
 現在のインターネットは、ライブ映像のような大量のトラフィックを流そうとした場合、各ISPが互いのネットワークを相互乗り入れするボランティア的な協力によってサービスが実現されています。しかしこれでは、ブロードバンドユーザー数が飛躍的に伸び続けている今日の状況をみる限り、早晩行き詰まると危惧したのです。
 これまでのネットワーク帯域の変化を数値的にみてみると、ダイヤルアップ接続では28.8kbpsが56kbpsや64kbpsに広がった程度でしたが、最近ではADSL環境で一気に1.5Mbpsや8Mbpsに、光ファイバー環境においては100Mbpsにも達しています。技術革新の激しい市場環境にあって、改めてブロードバンド環境に最適なネットワーク構築が求められているわけです。

――その答えがCDNプラットホームだったということですね。

保条 はい、1つの解決策です。CDNはそもそも、クライアントとコンテンツを配信するサーバー間のネットワーク並びにサーバーそのものの負荷分散が目的です。IIJはブロードバンド利用者が急増していく中でCDNがブロードバンドコンテンツサービスに欠かせないプラットホームの1つの解になると思い、これを企業やISP、コンテンツプロバイダー(CP)に提供していこうと考えたのです。
 IIJが打ち出したCDNプラットホーム事業というのは、ブロードバンドユーザー向けにコンテンツやサービスを提供されている企業にCDNを提供し、さらにコンテンツ管理に必要となる課金・決済等のソリューションも合わせて提供していこうというものです。そして、エンドユーザーに対しては、CDNへアクセスできるアカウントを無料で配布し、接続事業者のネットワーク環境に依存しない広帯域の安定した通信環境をお届けします。
 また、ビジネスユースでの企業展開については、すでにグループ企業であるIIJテクノロジーが先行モデルとなるサービスを提供しています。同社は「iBPS」(Internet Business Processing Service)というアウトソーシング型のネットワークソリューションサービスを手がけており、サーバー接続環境からディスクストレージ、決済・物流・CRMなどのアプリケーション、監視・運用・管理、サイト間連携技術など、システムのベースとなる部分をコンポーネント化して企業に提供中です。当社ではiBPSを、将来、CDNプラットホーム事業のサービスメニューとしても展開していけるのではないかと考えています。

数年間で数十億円を投資

――CDNプラットホームはどのように構築していくのですか。

保条 4月にCATV約30局、および東京都・愛知県・大阪府のNTT東西地域IP網で約100万世帯を対象にサービスを開始する予定です。そして、2002年7月までにCATV約40局、および政令指定都市級地域でのNTT東西地域IP網へ拡大し、さらに2002年12月にはCATV約100局、全国のNTT東西地域IP網、他のブロードバンドアクセス網へと展開し約600万世帯を対象に提供する予定です。
 昨年から進めてきたCDN JAPANでの検証で得られたCDNネットワーク構築のノウハウは、最大でも約30万世帯を対象に設計したものでした。つまり、この時のネットワークは、IIJの個人向けダイヤルアップ接続サービス「IIJ4U(アイアイジェイフォーユー)」とソニーコミュニケーションネットワークの「So-net」、CATV十数局のブロードバンドユーザーに限定した規模だったのです。今回、IIJが4月から立ち上げるCDNプラットホームはさらに大規模なスケールになることから、IIJ側でもバックボーンネットワークを大幅に強化する必要が出てきます。
 ブロードバンド市場の今後を予測した場合、ここ数年で、約3000世帯のブロードバンドアクセスにも耐え得るネットワークが必要になってくると考えています。政府は「e-Japan構想」の中で2005年に約3000万世帯にブロードバンド環境を提供することを国策として目標に掲げています。ブロードバンドユーザー向けのコンテンツ配信サービスが着実に増えてきている市場動向からいっても、2005年ごろには3000万世帯がストレスなく利用できるネットワークを用意する必要があると、感じているわけです。

――CDNプラットホームの整備にかかる設備投資はどの程度になるとみていますか。

保条 予測できる範囲で、今後数年間で数十億円単位の投資になるとみています。正確に試算できないのは、ブロードバンド環境がある程度広まった段階においては、ユーザーの利用の仕方が今と違ってくるからです。例えば、ピアツーピアのコミュニケーションや企業間でのテレビ会議などが一般的になれば、トラフィックの流れ方も変化し、それに合わせて必要な機材も今とは違ったものになるでしょう。

6000社の既存顧客にアピール

――IIJグループにとってCDNプラットホーム事業はどういう位置付けですか。

保条 当社の中核事業であるインターネット接続サービスやデータセンタービジネスは、これまでインターネットのバックボーンをベースに成り立ってきました。それが今回、次世代バックボーンと目されるCDNプラットホームを新たに構築していくわけですから、これは大きな変化です。今、インターネットの世界におけるバックボーンの概念そのものが大きく変わる局面にあり、当社もこの変化の波に乗ることで、事業を発展させていきたいと思っています。  また、ブロードバンドコンテンツをストレスなく配信できるネットワーク環境が整備されないと、有料コンテンツ市場は成長しません。CDNプラットホームが、ユーザーにきちんとコンテンツを届けてお金をとれるプラットホームとして成熟することで、当社のビジネスもまた成長することができるのです。

――では、CDNプラットホームと既存のインターネット網との関係はどう変化していくのでしょう。

保条 私どもは、CDNプラットホームをインターネット網とは捉えず、ブロードバンドのインフラをベースに構築された“クローズドなIPネットワーク”と捉えています。ISPを中心として今まで発展してきた既存のインターネット網とは別のネットワーク網という位置付けです。当社の提供するCDNプラットホームは、既存のインターネット網を通さないことで大量のトラフィックを正確に、スムーズに流すことが可能となるネットワークであり、今後コンテンツを配送するために必須のインフラとして成長する可能性を秘めています。そして、このクローズドなネットワーク上で、ブロードバンドコンテンツ配信や各種ネットワークサービスが立ち上がれば、少なくとも通信と放送の融合を促す端緒になるはずです。
 ただ、CDNプラットホームの中ではIPを使っていますから、これをインターネット網と捉える方もいるかもしれません。また、ユーザーの視点からみれば、CDNプラットホームと既存のインターネット網は接続しておいて、快適なブロードバンドコンテンツの利用の他に、今あるインターネットサービスを利用できる環境も用意してほしいというニーズが今後出てくる可能性もあるものと思っています。

――CDNプラットホーム事業のサービス展開についてもう少し詳しく教えて下さい。

保条 大きく2つの拡張を考えています。1つは、冒頭に説明したような、CDNプラットホームを提供するためのアクセスラインとの協調です。例えば、「フレッツADSL」ですでにブロードバンドユーザーを獲得しているNTT東西の地域IP網への接続にとどまらず、イー・アクセスやアッカ・ネットワークスといった大手ADSL事業者との連携も視野に足回りを広げていこうと考えています。
 もう1つは、コンテンツを配信する仕組みを増やすことです。CDN JAPANでは、ストリーミング再生ソフトにWindows Media Playerを用い、通信速度を300kbpsと1Mbpsの帯域に限定していましたが、これをRealPlayerでも再生できるようにしたり、ライブやダウンロード等の仕組みを用意していくことも検討しています。

――販促面での展開はどうされますか。

保条 IIJグループでは、当社が提供するインターネット接続サービスの法人顧客がすでに6000社以上にのぼっています。まずは、こうした既存の顧客企業に対して訴求していこうと思っています。
 インターネットインフラ構築のパイオニアとして、ブロードバンド時代の新しい通信の形を示していきたいと思います。

(聞き手・土岡正純)

用語解説

●CDN
Content Delivery Network:コンテンツ配信に最適化された仕組みを持つネットワーク。ユーザーは、ネットワーク内に複数設置された最寄りのキャッシュを介してISPやコンテンツプロバイダーのサーバーに最適なルートで接続できる

●CDN JAPAN
デジタルコンテンツ配信プラットホーム構築およびビジネスモデルの検証を目的に、2001年3月に設立された非営利の任意団体。会員企業はIIJ、日本オラクル、シスコシステムズ、イーエムシー ジャパン、伊藤忠テクノサイエンス、サン・マイクロシステムズ、ソニーコミュニケーションネットワーク、日本ヒューレット・パッカード

●IIJテクノロジー
IIJグループで、企業情報システムやインターネットビジネスシステムのコンサルティング、構築、運用・管理・保守を担当する。資本金は17億円、社員数は180名(2001年6月末現在)。
http://www.iij-tech.co.jp/
 

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