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2002年6月号(B-brainコーナー)

日本オラクル Eビジネス本部
ブロードバンドビジネス開発部 ディレクター:堀 亮一 氏
インフラのブロードバンド化で
“企業内コンテンツ流通”が加速する

「Oracle9i」で知られるデータベースソフトベンダー大手の日本オラクルは、過去2年間にわたり映像分野の大容量コンテンツ管理に取り組み実績を積み上げてきた。同社が次に目を向けるのは企業内に散在するすべての情報だ。企業内のパソコンに眠る情報を体系的に整理し、これをコミュニケーションやビジネスに役立つ形に置き換えようというのである。日本オラクルEビジネス本部ブロードバンドビジネス開発部ディレクターの堀亮一氏に、同社の事業戦略とデータベース市場の展望を聞いた。

Profile

堀 亮一(ほり・りょういち)
1987年明治大学経営学部卒業、大手電機メーカー入社。 通信機器の企画、マーケティングを担当。96年日本オラクル入社、インターネット関連事業、モバイルIP、デジタルテレビ等のシステム企画開発を行う。2001年6月ブロードバンドビジネス開発部ディレクター就任、情報通信・放送産業関連のシステム企画・提案を担当。63年生まれ。福岡県出身。

――堀ディレクターがみる「ブロードバンドビジネス開発部」の役割は何ですか。

 ブロードバンドビジネス開発部は、新規マーケットで当社のデータベース(DB)製品をきちんとポジショニングしていくことを使命としています。現在の目標は部署名が示す通り、ブロードバンド時代の企業ビジネスにおいてどうすればDB製品を活用していただけるのか考え、これをソリューションとして開発していくことです。
 オラクルにおける私のミッションは、常に新しいマーケットに対して当社の製品を提案していくことです。そのため、部署名は時流に合わせてお客様からみて一番分かりやすい名前を付けるようにしています。実は現在の「ブロードバンドビジネス開発部」は昨年6月に付けられた名称で、その前は「放送メディア事業開発部」、さらにその前は「新規ビジネス開発部」でした。

――今、最も注目している市場は何ですか。

 2年ほど前から、動画配信サービスに代表される大容量コンテンツ配信を中心としたマーケットの立ち上がりを予測し、そのための準備を進めてきました。ブロードバンド環境の整備によって、これまで流通することのなかった大容量のデジタルコンテンツが流れるようになれば、まったく新しいデータ管理の手法が求められるだろうと予測したのです。というのも、1995年にVOD(Video On Demand)の実験を国内外で実施していたのですが、この時にネットワークインフラの構成もさることながら、データ管理が非常に複雑になることを体験的に学んでいたのです。
 大容量デジタルコンテンツというと、一般に劇場映画やテレビ番組といった映像を連想しがちですが、高画質の静止画像や長時間におよぶ音声データも大容量のデジタルコンテンツです。そこには複数のデータフォーマットが存在しているわけで、フォーマットの数が増えれば増えるほど、データ管理の重要性も高まることになります。

コンテンツ周辺情報をデータ化

――大容量デジタルコンテンツの管理に、DBはどのように利用されているのですか。

 ニュース映像の制作過程を例にとると、撮影された映像素材にまつわる属性情報(メタデータ)を、ニュース映像製作に携わるそれぞれの現場で管理することができるようになります。メタデータというのは、ニュースを撮影している時点では撮影日時や撮影場所、カメラマン、ディレクターに関する情報などで、ニュース映像を編集している時点では編集日時やスタジオ、編集者といった情報を意味しています。そして、ニュース映像の配信時点では配信者は誰なのか、誰が見ることができるのか、といった権利情報の属性へと変化し、最後に視聴者が映像を見た時点では誰がいつどこで見たのか、といったマーケティング情報へと変化しています。
 このように、ニュース映像が川上から川下へと流れていく過程で、同じ映像でもそのメタデータは時々刻々と変化していきます。コンテンツ保持者にとってニュース映像は資産そのものですから、局面ごとにこうした周辺情報をきちんと管理できる仕組みこそが今後のデジタルコンテンツビジネスの肝であり、それを支えていくのがDBというわけです。
 もちろん、当社はDBの販売にとどまらず、NTTデータ、新日鉄ソリューションズ、電通国際情報サービスといったパートナー企業と協力して、コンテンツ販売に必要な課金処理やその後のマーケティングレポート作成までサポートしています。

――御社のDBを採用し、属性情報をビジネスに役立てているブロードバンド関連の企業は何社くらいあるのですか。

 現在、案件ベースも含めて70社ほどあり、毎週増え続けています。放送局や製作会社、ADSLなどのブロードバンドサービス事業者、それにデジタルカメラなどの映像機器を開発している企業などで幅広くご利用いただいています。ただし、当社が採用企業のシステム設計に携わるのは、要件定義やアーキテクチャの設計、最終的なDBのチューニングなど部分的で、多くは採用企業の現場をよく知るパートナーSIの協力を得ることでシステムを完成品にしています。

異業種間データをXMLで連携

――実際に企業が属性情報管理のシステムを構築しようとした場合、先の例でいけば、放送局も製作会社も揃って貴社のDBを導入していないといけませんか。

 そうではありません。最近ではXML(eXtensible Markup Language)と呼ばれるデータ連携に強いコンピューター言語を用いることで、仮に企業が独自のDBを運用していたとしても、互いのDBに格納されたデータを同一のものとして取り扱えるようDBを設計することができます。
 確かに、現状ではコンテンツ制作者側と配信者側とでデータ管理のシステムが大きく異なるケースがあります。しかし、XMLの登場によって、最近ではコンテンツ制作者のデータと配信者のデータを“同じ意味を持つデータ”として関連付けしてやることができるようになりました。お客様のシステムが他の企業のシステムと違っていても、当社としてはオープンな環境でデータを共有できるようなアイデア、技術を提供していけると自負しています。

――オラクルのDBならではの強みは何でしょうか。

 一言でいうなら「Oracle9i」という製品にあります。オープンシステムにおいて、大量のデータを24時間365日、高速に処理していなければならないような基幹業務分野で実績を残してきました。また、常に他社に先駆けた機能追加を行い市場の要望に答えてきました。
 われわれの事業部では、常に18カ月先のマーケットを見据え戦略を練っています。これまでもいち早くcIDfやCDN Japanといった取り組みを行い、マーケットをリードしてきました。例えばcIDfでは、コンテンツのメタデータ管理に役立つ「コンテンツID」を、DBでどう活用すべきかについて研究しノウハウを得てきました。コンテンツIDとは、インターネット上でデジタルコンテンツを流通させる際に問題視されている、コンテンツ保持者の権利保護を解決するための技術です。コンテンツに独自のIDを割り当て、これを「cID-RA」と呼ばれる非営利組織で管理していこうというものです。将来的には、ユーザーがcID-RAに問い合わせすれば、コンテンツ権利者に関する情報を引き出すことができるようになります。
 営業上、当社からDB導入を検討している企業に対して、率先してcIDf規格のID体系を採用するよう強制することはありません。しかし、企業が独自のID体系をコンテンツに割り振る場合には、cIDf規格にのっとった場合のID体系と比べ、どのような違いがあるのか教えていただけるようお願いしています。独自のID体系とcIDf規格との違いが分かっていれば、XMLを用いて他のDBとも連携をとることができるからです。

――CDN Japanでは、具体的にどのような成果を得ることができましたか。

 コンテンツ保有企業が安心してコンテンツを配信事業者にご提供いただける権利許諾システムを、何十万アクセスというトランザクションを想定したネットワーク上で実際に運用できた、という実績を残すことができました。権利許諾システムとは、コピープロテクトなどの著作権保護と合わせてコンテンツの配信先をきめ細かに管理できる仕組みです。過去にも何度か権利許諾システムを企業に提案してきたのですが、予算の都合やインフラの問題、実例がないことを理由になかなか契約にこぎつけませんでした。それが今はCDN Japanでの実績をベースに提案していけます。
 また、コンテンツ保有企業は権利許諾システムの提案に際し、どのコンテンツ配信事業者でどれくらいの事業収益があがったのか、どういったユーザーがコンテンツを見たのか、などのコンテンツの配信結果に関する情報を求めてきます。メタデータやcIDとDBの連携によってこうしたニーズに応えることができるようになったわけですが、これによりコンテンツ保有企業は各配信事業者のユーザーベースを考慮しながらコンテンツ販売価格を決定したり、配信事業者を選定するといったような、既存のビジネスプロセスに近い契約形態をインターネットビジネスに持ち込めるようになりました。

企業のファイル管理にも応用

――大容量コンテンツの配信以外に、新規のDB市場をどのように予測していますか。

 ある統計によれば、現在DBによって管理されているデジタルコンテンツの数は、市場全体の2%程度だといわれています。テレビのデジタル放送化が周辺企業に与える影響をみても想像つくように、私もDBを用いたコンテンツ管理はこれからまだまだ増えていくだろうと思っています。
 結局、データというのは単独で存在していてもあまり価値がなく、他のデータと関連付けされることでさまざまな価値を生み出していくものだと思います。つまり、データが持つ属性、メタデータを元データと共に管理することが重要なのです。われわれは、このデータとメタデータの関連付け作業を“構造化”と呼んでいますが、構造化は何もデジタルコンテンツの配信管理に限られたものではなく、企業のパソコンに保存されたファイル一つひとつにも当てはまる話だと考えています。あらゆる企業が、DBの次の市場になってくるとみています。

――具体的には、どのようなDB活用法を企業に提案していくお考えですか。

 例えば、現在あるグループウエアの使い方でみた場合、ユーザーはいつどこで会議が開かれるのか、あるいは開かれたのかを知ることはできますが、会議で議論された資料や会話の中身まで知ることはできません。もし、会議に提出された資料が構造化されDBに格納されていれば、これをグループウエアと連携させることによって、ユーザーは会議の開催日時に加え、そこでやり取りされた資料を見ることもできるのです。会議風景をビデオに撮影して、映像データとして格納することも可能です。
 当社としては映像分野で培ったノウハウをもとに、とにかく今は一人ひとりのパソコンに分散されたデータを構造化してDBの中に入れてしまいましょう、とアプローチしています。一度構造化してしまえば、あとは必要に応じてそれらを引き出すアプリケーションを用意すればいいわけです。また、ファイルをDBに格納する際、自動的に属性情報を生成する便利な機能も新製品のOracle9iでは標準装備しており、これをお薦めしています。

――DB市場は今後どこまで広がっていくと期待していますか。

 WDM技術やギガビットスイッチの登場により、インターネットのバックボーンは広帯域化の一途を辿っています。ユーザーは相手との距離やデータ量を意識せずにデータをやり取りできるようになりました。インフラの制約が取り払われたことで、われわれもよりシンプルにシステムを設計できるようになりました。そしてデータを取り出すデバイスも、今ではIPをベースに、パソコンやPDA、携帯電話から情報家電へと多様化してきています。
 これにより、あらゆるデータの属性情報がネットワークを通じて管理されるようになれば、ユーザーはいつでも好きな時に好きな場所で、必要とする映像や音声、その他の情報を引き出すことができるようになるはずです。そうなると、まさに世の中にあるすべてのデータ管理手法にDBが用いられ、情報化社会に大きく貢献することができるに違いないと期待しています。

(聞き手・田中大介)

用語解説

●cIDf
content ID forum:東京大学の安田浩教授の提唱により1999年8月に発足した、デジタルコンテンツに固有の「コンテンツID」を付与することでコンテンツの著作権管理や流通促進を目指す団体。幹事企業はNTT、NHK、電通など
URL:http://www.cidf.org

●cID-RA
コンテンツIDを管理する組織、レジストレーション・オーソリティ(Registration Authority=RA)をさす。例えば、cIDfでは非営利組織としてcID-RAを設置する構想を打ち出している

●CDN Japan
デジタルコンテンツ配信プラットホーム構築およびビジネスモデルの検証を目的に、2001年3月に設立された非営利の任意団体。会員企業は日本オラクル、IIJ、シスコシステムズ、イーエムシージャパン、伊藤忠テクノサイエンス、サン・マイクロシステムズ、ソニーコミュニケーションネットワーク、日本ヒューレット・パッカード

●CDN
Content Delivery Network:コンテンツ配信に最適化された仕組みを持つネットワーク。ユーザーはネットワーク内に複数設置された最寄りのキャシュを介してISPやコンテンツプロバイダーのサーバーに最適なルートで接続できる
 

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