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2001年1月号

DDIポケット:岡田健 代表取締役社長
16カ月ぶりの新ブランド
feelH"投入で若年層を再開拓
携帯電話と同じ土俵で商品力競う

携帯電話躍進の影で580万加入という厳しい状況を強いられているPHS市場。50%超のシェアを持つDDIポケットも、1998年3月の350万加入をピークに伸び悩み傾向が続いている。そうした中、同社はインターネット対応機能を大幅に強化した新コンセプト端末「feel H"」を11月に投入。再浮上への意欲を強力に打ち出した。DDIポケットの岡田健社長に、新戦略の手応えとPHS事業再生の見通しを聞いた。

Profile

岡田 健(おかだ・たけし)
1968年3月京都工芸繊維大学工芸学部卒業。同年3月京セラ入社。94年2月大阪営業統括所長、同年11月DDI東北ポケット電話代表取締役社長、99年6月DDI東京ポケット電話代表取締役社長、第二電電常務取締役を経て、2000年1月DDIポケット代表取締役社長に就任。同年10月KDDI常務取締役。43年8月生まれ。

――11月25日に三洋電機から発売された新ブランド「feel H"(フィール・エッジ)」の端末が相当好調な動きをみせていますね。

岡田 ええ。店頭では品切れも目立つほど好スタートを切ることができています。ただ、いろいろな機能を盛り込んだことでソフトの調整に思いのほか時間がかかったことや部材の品薄から、当初11月8日の発売予定が2週間ほど遅れてしまいました。
 feel H"は、カラー液晶を採用したのに加え、音楽配信サービス、デジタルカメラユニットといった周辺機器との接続にも対応しています。H"元来の長所である通話品質や64kbpsのデータ通信速度、月額基本料や通信料金の安さなども加味すれば、携帯電話以上の魅力を備えた製品といえるでしょう。また、三洋製端末は、流行りの折りたたみタイプのデザインになっています。こうした点が、好調さの大きな要因になっていると思います。

――しかしながら、H"のリリースから今回のfeel H"まで新シリーズが出なかったことは、需要の拡大に多少なりともブレーキをかけたのではないかと思うのですが。

岡田 確かに、当社は99年7月にH"を投入して以来、16カ月間新しいコンセプトに基づいた商品を一切投入してきませんでした。ですから、H"の商品力が相対的に低下し、それが加入者数の伸び悩みに少なからぬ影響をもたらしていた点は、否定できないところだとは思います。
 ただ、携帯電話事業者と同じように年に2回3回とバージョンアップを図るようなことが、PHS専業の当社にできるかというと、採算面でみても非常に難しいといわざるを得ないのも事実です。そうした点からも、今回のfeel H"は、久々に打ち出した巻き返しのための戦略商品として、力がこもっています。近日中に東芝と九州松下電器、その後京セラからも端末が発売される予定ですから、売れ行きにも拍車がかかるだろうと大きな期待を寄せています。

音楽・画像配信は料金勝負

――feel H"の付加価値となる音楽配信サービス「Sound Market」も11月30日にスタートしました。出足はどうですか。

岡田 サービス開始からそれほど日がたっていませんが、45秒間無料の試聴サービスなどは非常に人気があります。特に若年層や女性ユーザー向けには、feel H"を選ぶ付加価値材料の1つとして効果があるようです。  そして何よりも、ダウンロードした楽曲の音質のよさは、ユーザーを惹き付けるに十分足るものです。実際に聴いてみると分かりますが、CDと遜色ないほどですよ。

――残る課題は、人気の音楽タイトルをいかに増やすかですね。

岡田 そうですね。これに関しては、著作権の問題や既存の音楽販売チャネルとの兼ね合いから、一朝一夕にはいきません。それでも、人気のJ-POPも可能な限り集めて、Sound Marketのサービスイン時点で900タイトルを用意することができましたし、今のインターネットビジネスの潮流をみても、音楽のネット配信が大きく広がっていくことは間違いのないところだと思います。

――音楽配信は、携帯電話をはじめとした他の分野でも注目されるサービスです。そうした中で、PHSならではの売りは何ですか。

岡田 やはり、64kbpsの高速通信によって、短時間かつ安価にダウンロードが行えることでしょう。
 例えば携帯電話と比べると、コンテンツ料金自体はそれほど変わらないわけですが、通信料金に大きな差が出てきます。当社のPHSは、60秒13円の通信料金で4分間のCDタイトルも約9分間でダウンロードできますから、現行の携帯電話に比べて料金面で非常に優位であるといえます。
 なお、もう1つの音楽の楽しみ方として、feel H"の基本機能である「feel sound」を利用したカラオケコンテンツもあります。5分程度のカラオケデータを手軽な料金で入手できますから、誰でも簡単に使えます。実は、私もこの機能を使って持ち歌を練習しているのですが(笑)、PHS端末の新しい使い道の1つとして、面白いなと感じているのです。

H"搭載型情報機器の普及を促進

――最近では、ノートパソコンなどにPHS機能を組み込む「H" IN」という新たな仕組みにも取り組まれています。この市場性をどのようにみていますか。

岡田 これからは、パソコンや携帯情報端末(PDA)が通信機能を持つ時代になるだろうとみています。もちろん、一方で携帯電話やPHSも情報端末としての機能を備えるようになり、両者がどんどん歩み寄っていくと思います。
 当社のH" INを活用した例としては、11月2日に富士通から発売されたノートパソコン「LOOX(ルークス)」シリーズがあげられます。LOOXは、H"の通信モジュールを搭載しており、H" INへの加入契約も業界で初めてオンラインサインアップを実現しています。
 さらに、他のパソコンメーカーへの展開についても前向きに検討を進めており、すでにいくつかのメーカーから打診を受け、現在準備を進めているところです。

――NTTドコモは、コンパクトフラッシュ(CF)カード型PHS(P-in Comp@ct)で、PDAなどに対応していますが、あのような形態も視野に入れているのですか。

岡田 もちろんです。H" INで組み込み型PHS市場に先鞭を付けたわけですから、この分野でユーザーやベンダーからの高い評価を得ることが重要だとは思っています。ただ、ユーザーのニーズはいろいろあって、状況に応じて使い分けたいという場合には、取り外しのきくCFカードやPCカード型PHSのほうが便利でしょう。

128kbps専用プランを提供

――インターネット接続サービス機能が強化されたfeel H"や、情報端末に搭載されるH" INの普及は、データ通信に強いH"を訴求するチャンスでもありますね。

岡田 そもそも、H"のデータ通信機能は他社に勝る最大の長所です。全国どこでも上り下りともに64kbpsデータ通信が行えるのは、当社をおいて他にないわけですからね。

――データ通信サービスをさらに強化するため、来年度には128kbpsの高速パケット通信サービスを投入すると聞いています。どのようなプランをお考えですか。

岡田 モバイルでも固定でも、今よりもずっと使い勝手のよい端末、そしてリーズナブルな専用サービスプランを提供していく計画です。
 具体的には、128kbpsの高速パケット通信に対応した、PCカード型PHS端末を2001年度の早い時期に発売する予定です。
 さらに、64kbps回線交換と32kbpsのパケット通信が自動的に切り替わるサービスも提供します。これにより、ユーザーはインターネット接続時の状況に応じて、最適な通信料金で利用できるようになります。
 対応する端末形態については、まずはカード型端末から導入すべきと考えており、H"やfeel H"向けのコンテンツ配信に加え、音楽や映像といった大容量コンテンツ配信でも、PHSをパソコンに装着してインターネット接続回線として利用できるようにします。

――今後のデータ通信サービス事業をどのように見通していますか。

岡田 当社の調査では、11月に1回でもデータ通信を行ったユーザーは、330万人弱の加入者数のうち33万人にのぼります。実はこうしたユーザーが毎月2万人ずつ増えてきており、当然ながらこれに伴い、データ通信の収入も急激に伸びているわけです。
 この傾向はますます強まっていくでしょうし、目標としても、2〜3年以内には音声と同規模の売り上げにしたいと考えています。

KDDIと法人営業で連携

――ところで、10月1日にDDI、IDO、KDDの3社が合併してKDDIが誕生しましたね。これは御社の事業戦略にどのような影響を及ぼしますか。

岡田 KDDIは今後、全国体制を築き上げたauのcdmaOneサービスを強力に推進していくことになるでしょう。しかし、当初の立場としては、NTTドコモと違い携帯電話とPHSでそれぞれ事業会社も異なるわけですから、これまで通り切磋琢磨しながら、互いに市場拡大に貢献していければと考えています。
 今回の合併による大きなメリットの1つにあげられるのは、やはり法人営業の面で連携を図れるようになったことですね。というのも、KDDIは旧KDDが以前に国際通信サービスを提供していた関係もあって、大口の法人顧客を多数抱えているのです。
 法人ユーザーは、保守メンテナンスなどのサービス面やコスト面での要望がシビアですが、解約が少なく長期的な利用を見込める点でキャリアにとってメリットが高いのです。  そこへKDDIと組んでアプローチできるわけですから、当社にとってKDDIの誕生は法人ユーザーの市場開拓に向けて大きな武器になりそうです。
 もちろんKDDIとしても、モバイルでデータ通信を必要としている顧客に対して当社の商品を提案できるようになるわけですから、相乗効果は高いと思いますよ。

――現場レベルでの営業体制について教えてください。

岡田 支店・営業所の多くは、10月1日を前に、すでにKDDIの法人営業部門と当社の法人営業部門を同じビル内に集めることで、密接な連携関係を築き上げています。人数的には、当社の法人営業担当は全国で100〜150名体制で臨んでいます。 IMT-2000の登場で

PHS再評価へ

――2001年5月にNTTドコモが先陣を切って、携帯電話でIMT-2000時代の幕が開こうとしています。これはPHSサービスにどのような影響をもたらすでしょうか。

岡田 確かに、技術的には素晴らしいものなのかもしれません。しかしながら、技術的に優れているのと、商用的に広くあまねく受け入れられることは、決してイコールとは限らないとも思うのです。
 そして、PHSサービスからみれば、データ通信分野における新たなライバルの登場が、むしろPHSをハード的にもソフト的にも再評価してもらえるチャンスになるのではないかという期待もあり、IMT-2000のサービス開始は歓迎と理解するようにしています。

――市場競争が激化していくなかで、今後の目標加入者数はどれくらいに設定していますか。

岡田 2000年度は、残りの期間で採算分岐点である350〜360万加入まで引き上げたいと思っています。
 そして来年度については、これは競争環境がさらに激しくなるので予測が難しいのですが、さらに50万上乗せして、400万加入突破を目指したいですね。
 幸い、加入者増の大きな阻害要因となっている解約率も低下してきています。すでに、東名阪などでは携帯電話と同じレベルにまで改善してきております。
 つまり、2年前の高い解約傾向からようやく脱却し、がむしゃらな新規顧客獲得をしなくとも純増に転じる黒字構造ができ上がりつつあるわけです。
 そうした環境の好転に加えて、H"、feel H"、H" INと魅力的な商材を揃えることができましたから、400万加入の突破は十分に達成できる目標だと思います。

(聞き手・藤井宏治)
 

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