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2001年2月号

ユーユーネット・ジャパン:杉山逸郎 代表取締役社長
高品質なグローバル基幹網と
次世代型データセンター提案で
企業顧客を前年比3倍以上に増やす

世界有数のISPであるユーユーネットの日本市場参入から丸2年を経ようとしている。この間、業界標準となったSLA(サービス品質保証制度)など高付加価値サービスを相次いで打ち出す一方で、このほど次世代のデータセンタービジネスモデル「インターネット・ビジネス・エクスチェンジ(iBX)」を市場投入した。このデータセンター事業戦略で日本のeビジネスの牽引役を担うユーユーネット・ジャパンの杉山逸郎社長に、今後の事業戦略を聞いた。

Profile

杉山逸郎(すぎやま・いつお)
1973年京都大学工学部卒業、横河・ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)入社。コンピュータ開発部長、情報技術研究所、アジア パシフィック システム オペレーション ゼネラルマネージャーなどを歴任。95年コンピュータ システム マーケティング本部長、97年コマーシャル事業統括本部長を経て、97年11月日本ネットスケープ・コミュニケーションズ代表取締役社長に就任。99年3月現職に。神奈川県厚木市出身。49年6月12日生まれ。

――最初に、御社の事業経営を取り巻く市場環境をどうみているのかをお聞かせ下さい。

杉山 当社の事業は大きく2つのビジネス領域からなります。1つはインターネット接続事業者(ISP)を中にはさんだ形でコンシューマーにインフラを提供する事業領域、もう1つは専用線やVPN(仮想内線網)を企業向けに直接提供する事業領域です。
 まず、ISP経由のコンシューマービジネスについては、これまでの伸びが一段落して踊り場にさしかかっているとみています。すなわち、アクセスラインが次のステップとしてブロードバンドに向かう過渡的な段階にあるという意味と、これまでのインターネットユーザー層からさらにすそ野拡大に火が付く手前に位置付けられるという2つの面で踊り場だろうといえます。とりわけ後者のインターネット市場はEコマースやコミュニケーションのツールとして、主婦層や高齢者層などで立ち上がるのは2001年の後半になると思います。そのためには魅力的なコンテンツが育つかどうかが鍵になります。

――もう一方の企業向け市場はいかがですか。

杉山 日本は米国に比べ、同規模の企業が使っている専用線のバンド幅が8分の1にとどまっているのが現状です。この差を縮めていくことが当社の使命でもあるのです。次のステップでグローバルVPNを表看板に、企業のイントラネット/エクストラネット構築の浸透を図りたいと考えています。2001年には、企業ネットワークとソリューションの融合という需要動向を踏まえ、コンサルティング提案から仕掛けていこうと狙っています。  現行の企業顧客は約400社ですが、ターゲットとして2001年に3倍以上の約1500社まで拡大する目標で取り組んでいきます。

――最近の企業ユーザーの需要動向としてどんな変化がみられますか。

杉山 設立2年目ですが、当初は多国籍企業ユーザーからはじまって、本来は次に国内大企業に向かうところが、直接ドットコム系企業が急伸している傾向がみられます。それらは各種コンテンツを企業に提供したりEコマースなどの新しいビジネスモデルの構築に取り組んでいる企業群です。

グローバルなインフラが強み

――ISP各社の競争が厳しくなる中で、御社の強み、差別化ポイントはどんな点でしょうか。

杉山 市場のベースになっている技術はIP技術ですから、他社と差別化できる点はそう多くはありませんが、やはり当社の背景にあるグローバルネットワークインフラを活用できる点がポイントとなります。これに加えて、データセンターに引き込むバックボーン回線の容量を1ラック当たりで他社の2倍程度に設定しており、その品質についても自負しています。
 第二にマーケティングの強みとして、データセンターをビジネスコミュニティと位置付けております。当社の役割は、各企業のビジネスのインフラになる回線容量の環境整備やモバイルやCATV向けのゲートウエー構築、DSLなどアクセス回線を提供することで通信基盤を提供するほか、その上でパートナーと連携してユーザー企業共通のアプリケーションプラットホームを活用してもらうことでビジネスソリューションを提供することが大きな柱と考えております。利用企業にビジネス機会を提供するのが基本です。
 当社は他社と比べ、通信インフラからミドルウエア、さらに業務アプリケーションまですべて1社が抱えて提供するISPと、インフラを素のまま安価で提供するISPの中間の立場をとっているのです。その理由は、自らのノウハウで提供するより業界トップブランドのパートナーと連携してベストソリューションを提供できるメリットがあるからです。ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)ビジネスを含む場の提供といえると思います。

コンテンツ事業者支援を提案

――御社のデータセンター事業の現状と今後の見通しをお聞かせ下さい。

杉山 最初のセンターがオープンしたのが2000年1月、2番目が同4月末で約450ラックの9割が実際に稼働しております。1社で複数ラックを利用していますので利用社数は20社程度です。さらに同年11月に3番目のセンターを新たに開設し、合計約5000uのスペースに1600ラックの収容能力が備わったことになります。
 現状のデータセンター需要は供給過多のように思われがちですが、実際にラックに電源が入って使える状態のものは意外に少ないのです。しかし、2001年4月ごろから淘汰が始まり、付加価値を提供できないデータセンターは叩き合いの競争が始まるでしょうね。夏以降の稼働を見込んでいる引き合いについては、すでに価格破壊が始まっているというのが実態です。

――そうしたデータセンター事業で具体的には今後どのような内容のビジネスが広がっていくのですか。

杉山 現在すぐにも使いたいというニーズは、やはりドットコム企業やコンテンツ事業者の需要です。当社のターゲット顧客に適合しているために立ち上がりが好調なのですが、いずれは既存の企業がSIやメーンフレーマーに委託してきた情報ネットワークシステム業務がデータセンタービジネスに集約されると見込まれます。
 データセンター需要が軌道に乗り始める時期は、ASP需要の立ち上がりと相関関係にあると思われます。ということは中小企業、SOHOにASPサービスが浸透する時期です。

――今後ISPが手がけるASP事業の守備範囲をどこまでと考えていますか。

杉山 当社の場合はマネージドサービスまでを指しています。その上のアプリケーション領域のASP事業は、当社の利用顧客とのパートナーシップで提供する方向です。また、マネージドサービスといっても、顧客のコンテンツ領域におよぶデータ加工処理サービスにまで絡むネットワーク管理を手がけるつもりはありません。
 もう一方で、当社がデータセンター事業におけるビジネスモデルとして描いているのが、次世代ソリューションデータセンターモデル「インターネット・ビジネス・エクスチェンジ(iBX)」というコミュニティの場の提供です。これは当社のバックボーンインフラとデータセンター設備を基盤に、コンテンツ事業者がゼロからシステム構築を行う際に、ビジネス標準のスタートアップを支援するサービスです。
 例えばiBXのサービスメニューの1つである「コンポーネントASP」では、クレジットカード決済サービスをはじめとする各種決済サービスや、商品の配送などの物流ゲートウエーサービスも提供します。また、ファイアーウォール、VPNなどの「セキュリティマネジメント」も用意します。
 これらの提案をコンテンツ事業者が採用することで、これまで優れたアイデアやビジネスモデルを持っているにもかかわらず、資金や人材面などの問題がネックとなって事業が思うように進展しなかった事業者は、初期投資を抑えることができ、ビジネス実現までのリードタイムを短縮することが可能となるのです。

――iBXは、いわばISP事業の踊り場を乗り切るためのデータセンタービジネスモデルというわけですね。

杉山 おっしゃる通りです。さらには、iBX採用によってビジネスが立ち上がった後も、コンテンツ事業者はそれを継続させるためには顧客を獲得しなければなりません。そこで当社はアフターフォローの営業支援を行うマーケティングプログラム「.comUUnities(コミュニティーズ)」を用意し、エンドユーザー獲得の支援まで提案していきます。

日本独自のパートナー戦略も

――iBX事業を展開するうえで、ビジネスパートナーとの連携のポイントをお聞かせ下さい。 杉山 基本的には米本社と同じ歩調でグローバル戦略全体の流れですが、日本の場合はSIがユーザー企業に密着してきた経緯がありますから、ある程度は米国のパターンとは異なるパートナーシップが必要だと考えています。コンポーネントASPの場合はNTTソフトウェア、ビジネスインキュベーションサービスではサンブリッジとともにドットコム企業にサービスを展開します。
 他方で、今後データセンターを軸に新たなビジネスモデルが生まれると同時に、データセンター間の連携が加速すると見込まれています。例えば、Aデータセンターで課金・決済のコンポーネントを利用し、Bデータセンターで顧客情報管理などのコンポーネントを利用するといった具合に、事業者は必要に応じて複数のデータセンターのコンポーネントを組み合わせながら最適なビジネスを実現することになるでしょう。
 こうしたケースに対応して、当社のバックボーンがデータセンター間の高速・高品質な接続に大きな効果を発揮するのはもちろんのことですが、バックボーンインフラに加えアプリケーションまでのブロードバンド時代のオープンビジネス・フレームワークを提供するのがiBXの大きな役割だと考えております。

――アクセスラインはどう整備されていくのですか。

杉山 ドットコム企業を活性化させるにはネットワークサービスの高速・大容量回線の調達がポイントになります。当社は半年先の需要を見据えDSL、CATV、光ファイバー、次世代モバイルも含めてオールマイティに取り込んでサポートしていく考えです。とりわけ携帯電話およびPHSは有力なラストワンマイルのアクセス手段として期待しています。他の手段との料金差を付加価値提供によってどう解消するかが普及の鍵になります。

SIとの連携で販路開拓

――営業面についてはどのような戦略をお考えですか。

杉山 基本的に売り上げの9割が直販営業で、これまで2年間はUUNETのサービス品質とブランドイメージを高めることに注力した直販体制で売り込んできました。これまで多国籍企業へのアプローチからはじめて、ドットコム企業、大企業へと営業展開を拡充してきた経緯がありますが、2001年は営業展開におけるパートナービジネスの比重を拡大していきたいと考えています。
 具体的なパートナーのイメージとしては、量販チャネルと当社製品・サービスをバンドルして販売できるSIチャネルの2つの販路を考えています。SIとの連携では明確な付加価値が必要になりますから、まずASP事業に焦点を当てて連携していきます。量販チャネルのパートナーには、T1の1.5Mbpsを目玉商品として扱ってもらう仕組みづくりが鍵になります。

――政府のてこ入れによるIT市場の活性化が御社のビジネスに追い風になりそうですが、いかがですか。

杉山 各種の市場開放施策と財政支援は歓迎していますが、一方でIT投資で全国を光ファイバー化する方針は、容量が過剰な基幹網よりもラスト・ワン・マイルに絞って予算措置でも講じて光ファイバー化を急いでほしいと思います。
 ニーズが高いエリアとまばらなエリアと区別して、競争原理が働く民間主導で進める地域と事業者のインセンティブが働かない地域のアクセス網に対して、光ファイバー、DSL、CATV、無線など各種技術を戦略的に駆使してブロードバンドネットワークを構築していただきたいですね。

2001年度は200%伸びも

――今後の事業展開の方向性としてどんな経営ビジョンを描いていらっしゃるのでしょうか。

杉山 当社設立2年目となる2000年度の売上高伸び率は400%で、2001年度は150〜200%の見込みです。内訳は50%強がコンシューマー系のダイヤルアップISP事業ですが、2001年度の売り上げの牽引役になるのがデータセンター事業と期待しています。企業イントラネット/エクストラネット需要が本格化すればコンシューマー系とのシェアは逆転する見込みです。今後早い時期に事業の売り上げ構成比をダイヤルアップ、データセンター、グローバルVPNで1対1対1を目指したいと考えています。

――ISPの経営は規模経済を追求する方向と、地域ISPのように割拠する方向がありますが、御社の立場はどちらを目指すのですか。

杉山 コンシューマー分野でみますと、インフラ提供を重視するISPとコンテンツに軸足を置こうとするISPに分化するのでないかと思われます。やはり規模を求めるISPとしては潤沢なインフラが背景になければなりません。UUNETはその方向で進もうとしているのです。その場合、自社回線にどれだけのトラフィックが流れるかが事業経営の指標になり、一方のコンテンツに軸足を置こうとするISPのほうは、魅力あるコンテンツでどれだけ加入者を獲得するかがISPの価値を決定し、市場競争で生き残るポイントになります。
 さらに注目されるのは通信キャリア系のISPの動向です。大手キャリアでは目下、事業別に機動力を持たせ、経営資源の効率を最大限に高める経営戦略に乗り出しているところが目立っていて、家庭向け電話通信事業などとデータ通信事業などの中核事業や成長分野を集約する企業ユーザー事業領域に組織再編する方向にあります。キャリアはインフラからコンテンツまで総合的な事業戦略を目指しておりますが、基本的にインフラ提供ビジネスはQoS(サービス品質)を含め他社と差別化するのがきわめて難しいでしょう。そうなると価格競争に打ち勝つだけのプライスコントロールが鍵になるわけです。通信キャリア系ISPの体力がどこまで続くかが注目されます。
 その意味で、コンテンツ事業のほうがハイマージンのビジネスになっていくと考えられますね。ただし、2001年の段階ではアクセスサービスの多様化が進展することから、通信キャリア系ISPが価格競争に突入するにはまだ猶予が与えられているといえます。

(聞き手・大谷聖治)
 

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