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2001年5月号

日本アバイア:鵜野正康 代表取締役社長
IPテレフォニー市場開拓に向け
PBXからアプリへビジネスの軸足移す
SI・キャリアとの提携も積極推進

ルーセント・テクノロジーのエンタープライズ事業を受け継ぎ、独立企業として昨年10月にスタートを切った新生アバイアが、IPテレフォニー市場でスピーディな動きをみせている。日本法人の舵を取る鵜野正康社長は、「ブロードバンドアクセスの整備が強い追い風になっている」と強調。この機を捉えて、ハードからアプリケーションまで含めたトータルソリューションで、需要を一気に喚起させる考えだ。

Profile

鵜野正康(うの・まさやす)
1954年生まれ。公認会計士、インテグラン専務、USロボティクス社長、スリーコムジャパン副社長を経て、98年日本ルーセント・テクノロジーに入社。同年12月取締役ビジネス コミュニケーション システムズ事業部長。2000年8月日本アバイア設立に伴い、代表取締役社長に就任。

――御社は昨年10月、ルーセント・テクノロジーから独立し、エンタープライズ市場にフォーカスした企業としてスタートしたわけですが、どのような手応えをつかんでいますか。

鵜野 やはり、迅速な動きができるようになったということが一番にあげられます。特に新しい事業や製品投入などについては、ルーセント時代に比べて何乗というくらいにスピードアップできたと感じています。これは、大企業の一事業部から独立して動きやすい組織規模になったということもありますが、むしろ社員一人ひとりの責任感が増したことが大きいと思います。実際、企業文化もルーセント時代とは違ったものができつつあります。
 また、スピンオフのタイミングも、市場の流れに照らし合わせると非常によかったと思っています。それは、われわれが今後力を入れていくIPテレフォニーという市場がいよいよ開花する時を迎えようとしているからです。
 特に日本では強い追い風が吹いています。まず、政府が発表した「Eジャパン構想」によって、ブロードバンド化が推進されようとしていることです。これによって、クローズなネットワークやWANのバックボーン部分で進んできた高速・広帯域化がアクセス系のネットワークにも広がり、IPテレフォニーに求められるエンド・エンドでの高速インフラが整うことになります。
 それから、われわれが長年手がけてきたコールセンターシステムの需要が、企業のCRM(Customer Relationship Management)志向の高まりによってすそ野を広げ、年率30〜40%増という好調な伸びを示していることも大きなプラス材料になっています。そして、この市場もネットワークのIP化に伴って、さらに大きな成長を遂げるものと思われます。

――経営トップとして、この半年間重点を置いてきたことは何ですか。

鵜野 社内体制を固めるということもありましたが、それよりも重視してきたことは、エンタープライズ市場にフォーカスした企業としてわれわれ自身のビジネスモデルを変えていくということでした。
 われわれは従来、PBXをはじめとしたハードウエア中心のビジネスを展開してきました。もちろん、今後もPBX事業は柱の1つではあるのですが、IPネットワーク時代に向けて、軸足はアプリケーション、ソリューションに移していきます。そして、そういうビジネスではSIやアプリケーションベンダーとの密接な連携が非常に重要になります。そこで、われわれはルーセント時代よりもSIとの関係作りに力を入れるようになっています。

――その施策は、組織体制にどのように反映されているのですか。

鵜野 技術部隊に関してはプラットホーム系とアプリケーションを含むソリューション系、平たくいうとレイヤ3までを手がけるグループとレイヤ4以上を担当するグループに分けています。
 セールス部門については、音声系とデータ系を統合した代理店サポート部隊に加えて、SIなどの新しいパートナーを担当する専任グループを設けています。

――IPテレフォニービジネスでは、音声系とデータ系の統合もポイントになります。この点については、組織上はどうなっていますか。

鵜野 確かに、データ系と音声系ではカルチャーが違いますから、これらを一緒にするというのはなかなか手間がかかるものです。われわれもルーセント時代、そしてアバイアのスピンオフに向けた調整の段階で、多少なりとも苦労を味わいました。しかし、その問題はすでにクリアになっていて、それぞれのグループの中で音声系とデータ系のメンバーが一緒に仕事をこなしています。

IPインフラの整備でユニファイドメッセージが広がる

――アプリケーションビジネスとしては、どのような分野に力を入れていくのですか。

鵜野 まずは、これまでのビジネスでも積極的に動いてきたCRM分野です。具体的な戦略としては、当社が提供するコールセンター向けのミドルウエア「CRM Central」の上に、さまざまなアプリケーション製品を乗せていく形になります。すでにCRMパッケージを提供しているシーベルとアライアンスを結んでいますし、本社ではCRMアプリケーションベンダーの買収も検討を始めています。
 また、音声認識ソフトを有するニュアンス、スピーチワークスともグローバルな提携関係を結んでおり、当社の音声応答装置「CONVERSANT」などと彼らの製品を組み合わせて、トータルソリューションとして提供していきます。米国では、テキストベースの情報を音声で提供するサービスで導入実績をあげています。
 もう1つは、ブロードバンドアクセスの普及によって市場拡大が見込まれるユニファイドメッセージングです。従来のネットワークでは、データはデータ(PC)で受ける、音声は音声(電話)で受けるというパラレルの通信でしたが、IPネットワークになると、データを音声で受ける、あるいは音声をデータで受けるということが自由に行えるようになります。こうしたことを実現するビジネスアプリケーションが今後間違いなく登場してきます。
 また、ユニファイドメッセージング市場拡大の要因としては、モバイルとの連携も非常に重要だとみています。例えば、携帯電話でインターネットやEメールを利用する際のキー操作は、若い方は苦にならなくても、年輩の方になるとそうもいきません。しかし、こうした操作を音声で行えるようになれば、もっと多くの人がインターネットなりITなりを使いこなせるようになります。これも、今のPDCでは難しいですが、第3世代になれば実現可能になります。われわれとしても、ぜひそうしたソリューションを提供していきたいと考えています。

――しかし、ユニファイドメッセージング自体は決して新しいものではありませんし、具体的なアプリケーションも提供されています。さらに、これまでは期待外れに終わっている感がありますが。

鵜野 確かに、われわれも「INTUITY AUDIX」や、買収したオクテルのメッセージング製品を提供し、少なからぬ実績はあげていますが、その活用シーンはクローズなネットワークに限られています。というのも、ユニファイドメッセージングはあらゆるメディアを一元的に管理できるのが最大の特徴で、これはIPアドレスを使えば簡単にできるのですが、それには一般の電話網、つまりネットワークインフラがネックになります。それが、先に述べたようにブロードバンドアクセスの普及によって解消されるのです。

――すると、日本は絶好の機会にあるというわけですね。具体的にはどのような戦略で需 要開拓を進めていくのですか。

鵜野 この分野についても、われわれだけですべてできるわけではないので、やはりアライアンスを強力に推し進めていきます。その1つが、マイクロソフトとの「ドットネット戦略」に関する提携です。

PBXの財産は筐体ではなくソフトウエア

――従来からの事業基盤であるハードウエア、特にPBX製品でのIP対応も強化されていますね。このビジネスについてはどのような展開をお考えですか。

鵜野 ハードウエアビジネスで一番重視しているのは、既存システムをいかにマイグレーションするかということです。世界中で相当な数を出荷しているPBXを「IPになるから捨てて下さい」というのはお客様に失礼です。そこで、PBXの筐体はそのままで、ネットワーク側・内線側をIPに対応させられるカードを用意したのです。こうすることで、今までの電話機も新しいIP電話機も使えますし、ネットワーク側も従来の公衆網とルーター経由のVoIP通信を併用できます。
 その一方で、すべてIPテレフォニーにしようというお客様には、IP-PBXも提供していきます。昨年9月に発表した「ECLIPS」(Enterprise Class IP Solution)が具体的な製品群で、日本でも12月から順次発売しています。これを使えば、ルーターをはじめとした既存のデータネットワーク機器を生かして音声統合を実現できます。

――これらの製品を浸透させていくうえでの課題はありますか。

鵜野 IPテレフォニーの課題としてよくあげられるのはQoSです。これに関してわれわれは、標準規格であるIEEE802.1Q/1Pでの対応に加え、データネットワーク機器「Cajunシリーズ」向けのポリシーマネジメントソフト「Cajun- Rules」をECLIPSやDEFINITYとも連携させることで、セグメント別、時間別に優先制御設定ができるようにしています。
 もう1つの課題は、ディレクトリ管理です。実は、データ系と音声系の統合で一番遅れていたのはこの部分で、データ系はLDAP(Light Directory Application Protocol)という標準のフォーマットでネットワーク機器を一元管理できているのですが、PBXは各社が独自フォーマットなので、個々に設定・管理するしかありませんでした。そこで当社は、PBXのIP対応に合わせて、電話番号もLDAPで一元管理できるソフトウエア「Directory Gateway」をリリースしています。

――IP化の進展によって、今後PBXという製品はどうなっていくでしょうか。

鵜野 今の筐体がこのまま残るということはないでしょうが、コアの技術、すなわち音声のスイッチングソフトは残っていきます。われわれも今、UNIXで100万ラインくらいあるPBXのプログラムをWindowsNTとLinuxに移植しようと作業を進めています。すると、PBXで築き上げた99.999%といわれる高信頼のソフトウエアを音声モジュールとして、サーバーやデータネットワーク機器に短期間で組み込むことができるようになります。
 このように考えると、今までのデータ用スイッチが音声も取り込んで本当のIPスイッチになるというのが、PBXの将来の姿だといえます。ただ、そういう世界が完成するには、まだまだ時間がかかると思います。

中小企業・一般オフィスにも本格アプローチを開始

――御社がターゲットとする企業ユーザーは、大手から小規模までかなり広い層にわたります。しかし、これまでのビジネスは、大手企業を中心にCRM分野で実績を伸ばしてきた感があるのですが。

鵜野 それは否定できないところですね。米国ではAT&T時代からPBXだけでなくビジネスホンも手がけていますが、日本には機能や使い勝手の面でビジネスホンを持ち込むことができず、PBXだけを販売してきました。そのPBXさえも、大規模コールセンターの市場では高いシェアを獲得しているものの、一般オフィス市場では国内メーカーに対する競争力をなかなか確保できない状況にあります。つまり、これまでのわれわれのビジネス領域は非常に狭かったのです。

――すると、今後の課題はいかに中小クラスの企業を開拓していくかということになりますね。

鵜野 そうですね。ただ、この市場については一昨年9月に岩崎通信機と包括的な提携を組み、英国で開発したCRM向けの「INDeX」、一般オフィス向けには「OfficeGate」の提供を開始しています。これらは今のところ第1世代ですが、今後はIP対応を含めて国内メーカーに負けないような機能を追加し第2、第3世代へと進化させていきます。
 これに加えて、当社自身での本格的な一般オフィス攻略にも力を入れていきます。その核となるのがECLIPS、すなわちIPテレフォニーソリューションです。

――勝算はいかがですか。

鵜野 もちろん、やるからには絶対に勝ち抜いていきます。ただ、勝ち負け以前に、まずはIPテレフォニーという新しい市場を日本で立ち上げることが重要です。そのためには、他社とのアライアンス、場合によっては国内の競合メーカーとも手を組んで、技術を開示し一緒にやっていくことも必要だと思っていますし、その時には、ある部分で当社のブランドにこだわらなくてもよいと思っています。提案先によっては、われわれよりも国内メーカーのほうが、話が通りやすいこともありますからね。
 そうして、実際の製品ベースで1位にならなくても、われわれが提供する基礎技術で市場が大きく広がれば、間違いなく勝ち組になれます。

通信キャリアと手を組み企業ユーザーを攻める

――ところで、この3月に日本テレコムが提供する大規模・複数のコールセンター向けサービス「NBCS」(Network Based Callcenter Service)について、日本ユニシスを含めた3社で提携を結ばれましたね。他のアライアンス戦略とは趣を異にするものですが、御社の中ではどのような位置付けのビジネスになるのでしょうか。

鵜野 NBCSには、ネットワーク回線、企業向けのシステム、アプリケーションの提供も含めたSIをトータルで提供する必要があります。そこで、それぞれの役割を果たす3社が手を組んだわけです。
 われわれは、NBCSを使ったソリューションとして、PBXやCRM関連のシステムを提供していきます。したがって、企業がターゲットであるということでは他のビジネスと変わりありません。
 ただ、重要なポイントといえるのは、われわれは企業向けビジネスを展開していくうえでのパートナーとして、通信キャリアをはじめとしたサービスプロバイダーとの結び付きも重視しているということです。
 例えばコールセンター市場の今後を考えると、当然ながらIP化に伴って進化し、電話にもFAXにもEメールにも一括して対応するという形になっていくでしょう。そして、これらのメディアはすべてIPネットワークを介してやり取りされるわけですから、インフラを提供する通信キャリアが一元的にバックアップしていくという流れは強まるものと考えられますし、そこに当社のビジネスチャンスもあるとみています。

――サービスプロバイダーと連携したビジネスとして、今後期待できそうなものはありますか。

鵜野 関心があるのはホスティングサービスです。これは、どこかのスペースに大型のPBXを設置し、その機能を複数のユーザーに貸し出すというものです。いわばデータセンター+ASPの音声版ですね。もちろん、このサービス自体は、サービスプロバイダーなどが提供することになり、われわれは大規模なシステムを供給していくことになります。米国では少しずつ動きが出始めていますから、日本でもビジネスにならないものかと考えています。

(聞き手・大谷聖治)
 

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