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2001年10月号

松下通信工業:桂靖雄 代表取締役社長
携帯不況は短期で終わる
2002年度のV字回復目指し
「2つ折り」に次ぐ二の矢三の矢を放つ

巨大資本の東京電力グループがFTTHサービスに本腰を入れ始めた。同グループの一員として設立以来15年間、総延長約7万kmの光ファイバー網を駆使して通信事業に取り組んできたTTNetも、東電と一体でFTTHY/ブロードバンドコンテンツの実証実験による次世代を見据えたサービスの検証をしている。さらに同社では、アクセス系プラットホーム事業に加え、今後コンテンツ配信事業に乗り出し、ブロードバンド市場での躍進を狙う。同社の舵取り役、白石智社長に事業課題と今後のブロードバンド戦略を聞いた。

Profile

桂 靖雄(かつら・やすお)
1970年3月一橋大学経済学部卒業、同年4月松下電器産業入社。 松下通信工業・情報通信事業本部電波事業部移動無線営業部長、同社パーソナルコミュニケーション事業部長などを経て、97年6月取締役に就任。99年取締役コミュニケーションシステム事業部長、2000年専務取締役。2001年6月代表取締役社長に就任し現在に至る。モバイル・コミュニケーション・カンパニー社長も兼務する。47年9月、山口県生まれ。

――10月1日からいよいよNTTドコモのIMT-2000サービス「FOMA」が始まりますが、当初の計画から4カ月も遅れました。欧州ではIMT-2000の事業そのものを危ぶむ声があがっていると聞きます。世界的なIT不況で、携帯電話市場に急ブレーキがかかったということでしょうか。

 実はワールドワイドで見た場合、出荷台数、実売台数が共に落ち込んでいるのは欧州地域だけなんです。中南米を含む北米地域や、日本を含むアジア地域まで元気がないようにいわれていますが、最新のデータによれば2000年〜2001年度はいずれも横ばいの状態となっています。
 具体的には、欧州は出荷・実売ベースで30%ほど落ち込みましたが、日本は出荷ベースで1月当たり5%減にとどまり、実売ベースからいけば昨年と変わりありません。中国や南米にいたってはむしろこれから伸びていくといったところです。

――欧州が落ち込んだ理由をどう分析されますか。

 欧州と北米を比べてみれば分かることですが、欧州の移動体通信事業者がIMT-2000のライセンスを取得するために、数十兆円もの財源を使ってしまったことが原因だと考えています。つまり、通信事業者が新しい顧客を獲得するためのプロモーション費用やサービス費用を抑えてしまったことで、マーケットが少し冷え込んでしまったのでしょう。  米国はというと、そもそもIMT-2000のための周波数が確保されておらず、ライセンス取得のためのオークションそのものがありませんでした。以前に1.9GHz帯のPCS(Personal Communications Service)を導入する際にオークションが開かれましたが、この時期に影響は出ていません。
 また、携帯電話の売れ行きからいえば、欧州は日本でヒットしたiモードのようなデータ通信サービスが不発に終わったため、音声通話機能を中心とする現行機種から、インターネット接続が可能なデータ通信対応機種への買い替え需要が生まれなかったことも大きく響いていると思います。
 欧州はGSMと呼ばれる第2世代のネットワーク方式が大成功を納めたまではよかったのですが、データ通信方式にも標準化、統一化を求めたため、技術論が先行してしまいデータ通信サービスで一体何が楽しめるのかを、ユーザーにうまく伝えることができなかったのです。そうなると、ユーザーとしては今の電話機を買い替える必要がないということになる。
 最近では欧州の通信事業者もそのことに気が付き始めて、サービスサイドから何か仕掛けを打たなければ――という風潮になってきています。早ければ今年末にもと予測している人もいますが、私は2002年の半ばごろから、GPRS(General Packet Radio Service)を使ったいわゆる2.5世代のサービスが立ちあがってくるだろうと予測しています。  データ通信サービスの仕掛けがうまくいけば、欧州市場はそのままIMT-2000へとスムーズに移行していくでしょうから、決して悲観視してはいません。

――日本市場の今後はどう見通されていますか。

 このままのペースでいけば、今年度は日本市場全体で4500万台ほど出荷されるだろうと一般には予測されていますね。で2002年度はというと、日本の携帯電話普及率はようやく5割を超えたところで、英国のように7割を超えている国もあるわけですから、しばらくは横ばいのペースを堅持できるかと思います。  カラー液晶化が圧倒的に支持されたように、日本では高機能化がますます進んできていますから端末の単価もあがってきています。業界全体の売上げは今よりも増えていくだろうと期待しています。

――FOMAをはじめとするIMT-2000サービスの立ち上がり次第では、出荷台数の大幅な上方修正も期待できますか。

 中長期的に見れば、IMT-2000サービスそのものはブロードバンド化の流れを汲んでユーザーに支持されていくでしょうね。
 ただし、数を売るにはサービスエリアの拡大が必要条件になると思います。通信料金や端末機能も重要ですが、これは新しいサービスには必ず付きまとう問題ですから。サービスエリアが東京・川崎・横浜のように一部地域に限定されている間は、ユーザーにはなかなか受け入れてもらえないでしょう。

セパレート端末開発に着手

――端末の小型化、軽量化、省電力化でPDC市場をリードされてきたわけですが、FOMAでは小型カメラを内蔵したビジュアルタイプの開発にも先陣を切って取り組まれています。IMT-2000の携帯電話をどのようにイメージされていますか。

 端末の設計は、まずどのようなサービスがユーザーに支持されるのか考えなければなりません。その意味で、私はIMT-2000の特徴の1つであるブロードバンドを生かした"画像"を扱うサービスがキーになってくるだろうと予想しています。ですから、端末は動画像配信サービスなどに対応した製品が主流となるでしょう。
 メーカーである当社には、"画像を処理する技術"と"画像を見せる技術"が求められ、その力量が試されることになります。画像を処理する技術とは、無線部分での伝送技術や画像データの圧縮技術などで、画像を見せる技術とは、液晶部分やこれを搭載する端末形状そのもののデザインということになります。
 一番大切にしていかなければならないのは、画像を見せる技術だと思っています。マン・マシン・インターフェースと言ってもいいかもしれません。キー操作以上に映像表現の機能を優先しようとした場合、「果たして現在の携帯電話の形状でいいのか」という問題に直面しますが、これがまさにマン・マシン・インターフェースの問題です。

――市場ではインターネット接続に対応したPDAなどが発売されていますが、これは画面サイズも大きく、動画像再生には最適のツールです。携帯電話もPDAのような機能を具備し、端末形状もこれに近づいていくということでしょうか。

 PDAタイプの携帯電話も1つの市場として存在するでしょうが、ポケットの中に入れて持ち歩くという使い方と、大きな画面で映像を見るという使い方は相反するところがあります。
 かといって、現在の携帯電話では不十分なわけですから、アンテナ部分と画面部分を切り離した、いわゆるセパレートタイプの動画像専用端末もあり得るでしょうね。携帯電話サイズであってもメモリー容量の増設など可能ですから、例えばスポーツニュースのダイジェスト版なら問題なく動くでしょう。
 現在のPDCのように、端末1台につき電話番号が1つ必要となるとユーザーの料金負担もばかになりませんが、IMT-2000ではUIM(User Identity Module)カードの採用で、ユーザーはUIMカードを他の端末に付け替えることで電話番号を共有できるようになりますから、PDAタイプにセパレートタイプと市場は細分化していきますよ。

――セパレートタイプの発売はいつごろになりますか。

 今ここで発表するわけにはいきませんが、アンテナ部分と画面部分をつなぐ有力な通信手段としてBluetoothに着目し、現在開発を進めていることは間違いありません。ただしこれも、早晩「1Mbpsの伝送容量で十分なのか」という議論に直面すると思いますよ。"2つ折りタイプ"に続く主力製品となるかどうかは分かりませんが、セパレートタイプが今後の商品開発競争の焦点となるでしょう。

プラットホーム設計でNECと協力

――今年2月、NTTドコモから発売されたJavaアプリケーション対応の主力製品「デジタル・ムーバ P503i HYPER」が、ソフトウエアのバグが原因で全面回収されるという騒ぎがありました。ますます高機能化するIMT-2000の商品開発では、こうした問題が再び起こらないとも限りません。どのように対処されていきますか。

 元来ソフトウエアのバグは、慎重に開発を進めたからといって完全に取りきれる性質のものでもありません。莫大な規模の開発体制で誕生したパソコンの汎用的なOSの中にすら存在するくらいですから、携帯電話といえども同様の難しさがあります。
 そもそもP503iが問題視されたのは、バグの存在もさることながら、バグの発生によって電話帳に登録されているデータや、ユーザーが有料で購入したiアプリ、iメロディまで削除されてしまうという、ソフトウエアの安全設計に対する配慮のなさに問題があったのだと受けとめています。バグによって携帯電話がどの程度のダメージを受けるのか、逆にどの程度のダメージなら許されるのか――ユーザーに対する気遣いが不十分だったわけです。
 しかし、このまま膨大に膨れ上がるソフトウエア開発の仕事を人海戦術でこなそうとしていては、バグそのものを減らすことができません。所詮は人間の仕事ですから、バグが発生する確率はますます高まるばかりです。そこで、OSやミドルウエアのようなプラットホーム開発を専門とする組織「モバイルマルチメディアプラットホーム開発センター(mmPF)」を6月1日に発足しました。
 松下通信工業1社にとどまらず、松下グループ全体の開発リソースを集結することで、より短期間に効率よくソフトウエア、さらにハードウエアの基盤構造を固めていこうというわけです。現在は150人体制で、基本のアーキテクチャーをどうすべきか、日々議論を積み重ねているところです。

――同様の目的を掲げ、8月21日にはNECと携帯電話分野で業務提携を結ばれていますね。この狙いはどこにあるのですか。

 実をいうと、mmPFの設立を決めてこれから検証を始めようという時に、NECとの正式な合意にいたりました。  IMT-2000では世界市場が舞台となるわけですが、そうなると海外事情も見据えたプラットホーム開発が必要となります。これは当社にとってもNECにとっても大きなテーマでした。そこで、FOMAで培った経験を生かして、両社が共同で解決する方が賢明だと一致したわけです。
 さらに、共通のサービスに対応するため、端末側に同じ機能を追加する必要が生じた場合、この機能をサポートするアプリケーションについては一部共通化することもあるかもしれませんね。

――商品の差別化が困難にはなりませんか。

 NECとの提携によって、両社のブランドが統合されるというわけではありません。あくまでプラットホームを中心に共通化できる部分は歩み寄りますが、既存の開発路線はそのまま走り続けることになります。mmPFがNECとの窓口機能をつとめることになっても、自社製品の開発は別のラインで動いていくわけです。

松下電器との連携も視野に再編

――携帯電話が顕著な伸びを示したこともあって、モバイル関連事業に注目が集まっていますが、松下通信工業といえばカーマルチメディアやコードレス電話などの事業も展開しています。今後これらの事業をどのように舵取りしていきますか。

 もともと当社は、1958年1月の設立当初から、個々の事業部が1つの会社のように機能するという社風がありました。今後もその姿勢は変わらないと思います。
 ただ、同じ顧客に対して各事業部が異なるシステムを提案するなど、事業部どうしの横の連携が上手く機能していないといった問題も抱えていました。そこで、6月28日付けでカンパニー制を導入し、8つあった事業部を再編・統合し4つの"カンパニー"としてくくり直したのです。
 カンパニー制によって誕生したのは、携帯電話やビジネスホン、FTTH事業などを扱う「モバイルコミュニケーションカンパニー」、カーナビゲーションシステムなどのカーマルチメディアやカーエレクトロニクスを扱う「カーマルチメディアカンパニー」、セキュリティシステムなどの業務用AVシステムやコードレス電話、計測機器などを扱う「AV&セキュリティカンパニー」、そして官公庁や自治体向けの社会インフラ、法人向けの情報システム事業を扱う「システムソリューションカンパニー」です。
 カンパニー制を導入するにあたっては、まったく障害がなかったわけではありません。例えば、監視システムは、技術的にはAV&セキュリティカンパニーで扱う商品でも、営業的には社会システムとしてシステムソリューションカンパニーで扱う方が妥当ではないか――といったところです。8つの事業とそれぞれの商品を4つのカンパニーに振り分けることは難しく、小異があるのは承知の上です。
 ただ私としては、それでもカンパニー制を採用することで各カンパニーの社長に大幅な権限委譲をし、日常の経営活動の範囲内では自由にビジネスができるスピード経営を実現したかったのです。4カンパニー内で扱う事業、商品の見直しは必要に応じて改めることもやぶさかではないと思っています。
 また、4カンパニーどうしの連携に加えて、松下グループ全体との連携も一層強固なものとしていきたいと考えています。携帯電話にしてもカーナビゲーションシステムにしても、世界市場で勝負するのに「パナソニック」ブランドで築きあげた販売チャネルを利用しない手はないでしょう。開発分野においても、先のセパレートタイプの携帯電話なら動画像再生部分を松下電器のテレビ開発部隊と協力するといった連携も可能なはずです。  事業分野に応じて、時に松下電器が主体となって、時に松下通信工業が主体となってグループとしての一体感を強めていくつもりです。

――大胆な経営改革の先には、2001年度から2003年度までの新3カ年経営計画「創生21計画」で掲げた数値目標があるかと思います。これは実現できそうですか。

 創生21計画は今年初めに打ち立てたものですが、2000年度の実績値をベースに、2003年度でモバイルコミュニケーション事業で1.7倍、ITS事業で1.5倍、セキュリティ&セーフティ事業で1.3倍、公共・社会システム事業で1.4倍の事業規模を達成しようというものです。
 今期は中間期業績の当期純利益予想がマイナス185億円と厳しい状勢に置かれていることも確かですが、私は社長に就任してからまだ3月と経っておらず、創生21計画の旗は下ろしていません。携帯電話海外市場の復調、端末開発体制の見直しなど、2002年度のV字回復を目指して取り組んでいきます。

(聞き手・大谷聖治)
 

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