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2002年6月号

アライドテレシス 代表取締役社長:杉原智行 氏
95点の製品作りで価格と品質を追求
「ユーザー本位」こそアライド流の真髄

LAN機器メーカーのパイオニアとして1987年に設立されたアライドテレシスは、国内データネットワーク市場拡大の一翼を担うとともに、ハブからスイッチ、スイッチからルーター、さらには光ネットワーク機器とそのビジネス範囲を広げ、市場に確固たる「アライドテレシスブランド」を築き上げてきた。昨今、ブロードバンド化の高波が国内ネットワーク市場に押し寄せる中で、同社の次なる一手に業界の注目が集まっている。新たに同社の舵取りを担うこととなった杉原智行社長に、今後の戦略を聞いた。

Profile

杉原智行(すぎはら・ともゆき)
1991年7月アライドテレシス入社、98年6月ソフトウエア本部部長、99年3月取締役ソフトウエア本部長、99年4月取締役技術本部長、2000年3月常務取締役技術本部長を経て、2002年3月代表取締役社長に就任。1962年生まれ。

――御社は、昨年度の連結売り上げで前年比43%増の584億円という大幅な伸びを実現されましたが、この数値を実現した要因をお聞かせください。

杉原 まず、いち早く市場の動きを見越した製品の開発と市場投入を行えたことが大きかったと思います。
 例えば昨年のトピックスとして、キャリアによるブロードバンドサービスの本格的な開始に伴い、ADSLやFTTH市場の立ち上がりがみられましたが、私どもはその前年から対応製品の開発を進めてきました。
 実際にキャリア市場に対して、局用メディアコンバーター製品「MBMCシリーズ」や宅内用の「LBMCシリーズ」をはじめ、光ポートを保有したスイッチ製品、さらにWDMなどの光関連の製品群を投入し、実績を上げることができました。
 また、ブロードバンドサービスのアクセス系の部分でも、ブロードバンドルーター製品の拡充やレジデンシャルゲートウエー等の新製品の投入を進めてきました。
 一方、法人市場では、e-Japan構想の推進に伴う自治体や小中高校、大学等の教育関係が大きな伸びをみせました。ここでは一昨年末から出荷を開始した低価格なレイヤ3スイッチが数多く採用されています。
 また、ご存知の通り、企業は景気の冷え込みによる設備投資が停滞しましたが、逆に私どもの製品の売りの1つである「低価格」が受け、シェアの拡大が図れたと思います。
 こうした製品面での要因に加えて、人材面の充実、スキル向上も大きく寄与していると感じています。
 ネットワーク業界は慢性的な人材不足に陥っています。ハードウエアやソフトウエアの知識や技術に長けた技術者や、優れた営業センスをもっている営業マンは確かに存在しますが、ネットワークについての卓越した知識や技術も併せ持っている技術者、営業マンはまだまだ少ないのが現状です。そこで私どもは5〜6年前から新卒社員の積極的な採用を行うとともに人材育成にも力を入れてきました。ネットワークが分かって、かつそれぞれの要件を満たす社員を自らが育てていこうと考えたわけです。昨年はそうした若手の社員達が戦力の中核となったことで一挙に会社のパフォーマンスが向上しました。

メーカーが目指す100点満点に疑問

――御社の製品は、低価格で高いパフォーマンスを実現している点が顧客に高く評価され、市場に確固たる「アライドテレシスブランド」を築き上げています。製品開発においてどのようなことを念頭に置いているのですか。

杉原 実際には、機能面でメーカー間に大きな較差はみられないと思いますが、製品化に際してのポリシーは、「アライドテレシス流」を貫いています。
 それは、「早く作る」、「安く作る」そして「リーズナブルにハイコストパフォーマンスを実現する」の3つのコンセプトです。また、誤解を招く表現かもしれませんが、「メーカー本位の100点満点を目指さない」ということもいえます。
 100点満点の製品を作ろうとすると、開発に多くの時間を要してしまいます。特に95点から100点に辿りつくまでの過程が非常に長い。そこに多大な期間と労力をかけるなら新製品の開発にリソースをまわしたほうが効率的なはずです。また、そこにかかったコストは当然、価格としてユーザー側にのしかかってきます。そうはいっても70点のクオリティの製品では顧客には受け入れてもらえません。そこで、私どもは「95点の製品」を実現できるよう心がけているのです。100点満点ではないが、その分、価格はリーズナブルなものに設定している。
 もちろん、ポリシーとして100点満点を目指すという企業を決して否定するつもりはありません。ただ、その100点満点の製品はユーザーが求めるものなのか、企業の自己満足をユーザーに押し付けていないかと常々考えていたわけです。
 例えば、あれもこれもと多彩な機能を保有していたとしても、ユーザーが実運用に際して必要としないものが沢山あります。そして、100万円する満点の製品ではなく、95点で50万円の製品がほしいというユーザーは数多く存在するのです。
 そうした中で、私どもがみて欲しいのは、50万円の製品で比較した場合、どれだけのパフォーマンスとクオリティを実現しているかという点です。
 ですから、社員に対しても「自分が思っている満点と顧客が求める製品の満点は違うということをよく考えなさい」ということをはっきりと伝えています。

――そのためにはユーザーが何を求めているのか、常にニーズをリサーチする必要がありますね。

杉原 おっしゃる通り、市場からの声は常に製品開発に反映させるようにしています。
 例えば、私どもは新横浜にコールセンターを保有しているのですが、そこにあがってきた顧客からのリクエストやニーズは、関係部署に月報として回覧し、それをもとに製品開発会議を行っています。
 また、4年前からSSE(Sales Support Engineer)を社内に設立し、技術者が営業担当者とともに直接ユーザーに訪問し、製品に対する多様なニーズをヒアリングして開発に反映させるような仕組みも構築しています。
 私自身もお客様のところに訪問し、製品化に際してアドバイスをいただいたりする機会を増やしています。

新体制ではハイエンド製品も視野に

――新しい経営体制のもとで今年はどのような領域にビジネスの重点を置いていくのでしょうか。

杉原 引き続きブロードバンド市場をメーンターゲットにビジネスを展開していきます。
 まず、キャリア市場に対しては光関連製品の拡充を進めていきます。現在、光メディアコンバーター、光関連スイッチ、WDMとひと通りラインナップを揃えていますが、夏ごろをめどに新製品も追加していきます。私どもの製品だけで光ネットワークを構築することが可能になりますし、それを採用していただくことで最適のパフォーマンスが実現できるものと考えています。
 法人向けについては「Centre COM8624XL」という低価格スイッチが非常に好評を得ましたが、後継機種の投入によりさらなる市場拡大を進めていきます。

――ルーター等既存の製品群については。

杉原 ルーターについては、今年はブラッシュアップの年と考えています。開発からだいぶ年月も経ちましたので、よりパフォーマンスの向上が図れるようCPUの高速化に加え、メモリの拡張などマイナーチェンジを展開していきたいと考えています。
 それから新しい戦略として、従来の私どものラインナップになかった「高額・高機能製品」の開発も視野に入れています。

ブロードバンド化追い風にアジア市場攻略

――御社は2002年の重要戦略として全世界での売り上げ拡大をあげていますが、海外戦略についてお聞かせ下さい。

杉原 各国・各地域の市場特性に合わせた製品開発と投入を推進していきます。
 特に、欧州市場ではレイヤ3スイッチ、ルーター、光スイッチの市場が継続して伸びると思っていまして、今年は北米でのビジネスも立ち上がりそうです。その分、全世界における日本の売り上げ比率は若干下がると思います。

――杉原社長が統括するアジア市場についてはいかがでしょうか。

杉原 アジア地域についてはこれからというのが正直なところです。ただし、日本と同様にブロードバンド化に伴うネットワークの拡充が急速に進められていますから、そこに私どもの製品を売り込んでいき、既存ベンダーが押さえている市場を「アライドテレシスブランド」に塗り替えていきたいと思っています。

ソリューションビジネスの拡充を推進

――御社では、製品販売のみならずソリューションビジネスの拡充も積極的に行っていますね。

杉原 はい。製品の提供にとどまらず、顧客のニーズに合わせてネットワーク設計から、工事、保守サービスにいたるまでトータルでのネットワークサポートを行っています。
 私どもの製品だけでネットワークが構成できるようになる中で、ユーザー側からコンサルティングや設計、さらには設置工事も行ってほしいという要望が増えてきています。こうしたニーズを取りこぼさないためにも積極的に取り組んでいます。ビジネスにおける割合はまだ大きくはないですが、今後、ますます需要は増えていくでしょうし、必須のサービスになっていくと考えています。

――アプリケーションの部分についてはいかがでしょうか。

杉原 多くのアプリケーションベンダーとのアライアンスも進めています。
 日本ベリサインとともに電子商取引を展開する事業者および企業を対象に、セキュリティ設計・構築の最適化を実現するPKI対応製品の提供、およびセキュリティ・コンサルティングを進めるほか、ECインフラ構築に向けた共同マーケティングをサイベースとともに展開しています。
 先述のネットワーク構築サービスを進めていくと、アプリケーションレイヤにおける提案は避けて通れなくなってきていますので、ユーザーのニーズに合わせて今後もアプリケーションベンダーとの提携は拡充していきたいと考えています。

――御社は「スイッチのアライドテレシス」、「ルーターのアライドテレシス」と市場の動向に軸足を合わせ、コンセプトを変化させてきましたが、「杉原新体制」のもと、今年はどのようなアライドテレシスを推し進められていくのでしょうか。

杉原 今年は「ブロードバンドソリューションのアライドテレシス」を全面に押し出していきたいと考えています。もちろん、そこでは製品だけでなくソリューションビジネスの領域に対してもこれまで以上に力点を置いていきたいと思っています。

(聞き手・伊藤秀樹)
 

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