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2004年11月号
アラクサラネットワークス
取締役社長
和田宏行氏
品質とサポートにこだわり
ルーター市場30%を取る
日立製作所とNECの合弁による新会社「アラクサラネットワークス」が設立された。
社長に就任したのは日立出身の和田宏行氏。
外資系が圧倒する市場だが、
国産メーカーの強みを活かし、シェア30%を狙う。
Profile
和田 宏行(わだ・ひろゆき)氏
1980年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程卒業、日立製作所入社。1998年日立コンピュータプロダクツINC.(米国法人)シニアバイスプレジデント、2001年エンタープライズサーバ事業部−IPネットワーク本部長、2003年IPネットワーク事業部長、2004年10月、アラクサラネットワーク設立と同時に現職就任
新会社設立の経緯について、お聞かせください。
和田
この業界は市場のスピードがあまりにも速いので、それについていくだけのエンジニアの育成や製品の開発資金といった面で、このまま各々が一社だけで戦っていくのは厳しいという声が現場からあがっていました。かねてから製品を共同開発することは決定していましたが、6月25日に両社合意し、設立に至りました。
基幹系ルーターの製造・開発は、日立・NEC両社のネットワーク事業にとって根幹の部分にあたります。現在はシスコやジュニパーといった海外製品が市場をほぼ独占していますが、日本のメーカーがこうした製品をきちんと作って継続的に提供していくことは、将来に向けて避けて通れないテーマです。
企業理念に「ギャランティード・ネットワーク」を掲げられましたね。
和田
これまでインターネットはベストエフォート型が主流で発展してきましたが、IPネットワークが企業の基準に据わる時代に移行していますから、セキュリティや環境の安定性といった面から、今後はギャランティー型への製品を主軸にしなければ生き残れなくなるでしょう。ブロードバンドの普及に伴い、日立もNECも新製品の開発・製造に力を入れてきましたが、今後市場はさらにその移行を早め、かつ成長を加速していくでしょう。そこで、誰でも快適に安心してネットワークが使える環境を「保証」していこうという意味を込めて「ギャランティード・ネットワーク」を掲げました。
品質保証を重視した布陣に
初参入にあたって、現状をどのように分析されていますか。
和田
国内のルーター/スイッチ市場は2003年度で3000億円規模とされていますが、当社がターゲットとするのは基幹系、ミドルレンジからハイエンドで、これは約2000億円市場です。
成長率を比べるとルーターよりもスイッチが上回ります。スイッチの機能が徐々に強化され、コストもルーターよりかからないからです。しかし、ブロードバンドが普及すると、より太いパイプが必要になるので、ルーターもハイエンドだけは伸びています。ルーターは1〜2%、スイッチは6〜7%の成長率ですから、トータルで来年度は2300億円前後の市場になるでしょう。私たちの狙う市場は確実に伸びると思っています。
競合他社への対抗策をお聞かせください。
和田
まずは高品質、高機能の製品をタイムトゥマーケットで提供していくことです。QoS、IPv6、マルチキャスト対応に加え、障害発生率といった点にも自信を持っています。従来は開発パワーが足りなくてどうしても時間的に遅れていたのですが、2社のリソースが集まったので、迅速に市場に提供していけます。加えて、国産ベンダーならではのサポート体制を訴求していきます。
なるほど、製品重視、品質重視という日本製品の特徴を手厚いサービスで後押しするのですね。それを実現する組織体制について、教えてください。
和田
製品を企画し、開発し、販売するというサイクルをマーケティング、営業、製品開発、基盤技術開発、カスタマーサポートの5本部を設置することでカバーしました。
マーケティングと聞くと、営業・販売面の支援と捉えられがちですが、当社の場合は「技術のマーケティング」です。ここで製品の基本仕様などを企画した後に、製品開発本部と基盤技術開発本部に持っていきます。プロダクト全体の設計は製品開発本部が担当し、ボードの実装技術やハードウェアまわりの先端技術、コアテクノロジーを基盤技術開発本部が支えます。生産はEMS(外部へ設計・生産を依頼する)の方向で考えており、当面は日立に依頼します。
組織面で特にご注目いただきたいのは、品質保証部が社長直轄であるという点です。これは企業理念を実現するための配置です。品質保証は、三権分立のように設計・製造・販売の各組織から独立していなくてはいけません。品質管理にかかわる報告は、すべて私が直接チェックします。
顧客であるキャリア/ISPと、エンタープライズ分野向けには、それぞれどのような体制でサービスを提供していかれますか?
和田
エンタープライズ市場ではスイッチの需要が多いと思いますが、キャリア市場はまた違うので、コアエッジ型のルーターとLANスイッチとにそれぞれシステム開発部隊をわけて設置しました。従来はどちらにもひとつのチームで対応していたのですが、やはりお客様によってそれぞれ要件も、コストサイズも違うので、分けることにしました。
販売・SIパートナー開拓に注力
新会社を立ち上げ、新製品を発売するにあたって、日立やNECの製品と競合しないのでしょうか。
和田
日立の「GR/GSシリーズ」とNECのネットワーク製品の一部(IPシリーズ)も、今後弊社からOEM提供を行ないます。同時にアラクサラの独自製品としてAXシリーズを発売します。
すると当面の営業・販売ルートは、日立とNECの既存チャネルに加え、今後アラクサラとして新たな販路を獲得する必要がありますね。
和田
ええ、当面は日立・NECルートが8割、残りの2割はビジネスパートナーを経由することになりますが、これを将来4対6にしていく計画です。そのためには、国内外の新たなビジネスパートナーを開拓する必要があります。
日本には大手ネットワーク・インテグレーターが40社程度あります。今は具体的な社名は控えさせていただきますが、何社かと密に連絡を取って、パートナーの獲得に取り組んでいます。
弊社は企業ユーザーにソリューションを提供する会社ではなく、メーカー、製品事業会社です。製品を企画・開発して、売るという連鎖がスムーズにつながるようにしたいと考えています。ですから営業活動については、ビジネスパートナーの要求を吸い上げ、あるいは一緒に課題を深掘りさせていただいて、フィードバックすることを大きな特色にしたいと思います。これは新会社でなければできない事業スタイルです。日立・NECはソリューションベンダーだからです。
パートナーの数を増やすのか、それとも販売パートナー1社あたりの売上金額を伸ばすのか、どちらに主軸を置かれますか。
和田
どちらかというと後者ですね。まずは国内シェアのアップが目標となりますが、販売店の数を増やすには限界がありますので。また、売上における販売パートナー経由の売上の比率を上げていくために、アジアを中心に海外へのアプローチも推進していきます。
御社の販売パートナーとなるための条件は何ですか。
和田
技術力や販売力はもちろんですが、なにより弊社の製品をよく理解し、企業理念にご賛同いただけるかどうかを重視します。日本のインテグレーターが抱えている課題に対し、当社でなければ解決できない解を提供していきたいと思います。これまでのノウハウもありますし、特に海外製品のインテグレーターはさまざまな悩みを抱えておられるので、一緒に紐解いて差し上げたいですね。具体的なことは1月末の製品出荷までに発表しますが、ヒントだけ申し上げるとすると「サポート」です。
確かに、ネットワークベンダーの一番の課題はユーザーサポートですね。製品を導入する寸前まで商談が進んだのに、サポート面でストップしてしまうケースも少なくありません。「国産メーカーならではのサポート」という強みは、デバイス以上に大事ですね。
和田
この点については当社は、スタートアップの会社でありながら確固たる素地がありますので、非常に面白い会社だと思います。日立・NECで培ったノウハウを継承していきます。特に、日立のビジネスパートナープログラムは好評を得ていたので、NECのノウハウを取り入れながら、新しい製品事業会社としての支援プログラムを整えていきます。教育プログラムやインセンティブプランもひと通りそろえる予定です。認定資格などを取得していただくケースもあるでしょう。サポートの品質を保証するためです。販売パートナーの教育体制が一番大切であり、そこで国内シェアを拡大できるかどうかが決まると思っています。
1年で売上を大幅に増やしたい
今後の経営計画についてお聞かせください。
和田
現在、日立とNECとをあわせて国内シェアは約10%、売上は約300億円ぐらいですが、1年間でシェアを7%引き上げ、売上を大幅に増やしたいと考えています。5年くらいを目処に国内シェアを30%とし、IPO(株式公開)ができればと考えています。
初年度からハードな目標ですね。達成できる見込みはありますか。
和田
来年1月末から、アラクサラブランドの最初の製品となるハイエンドスイッチ「AX7800Sシリーズ」3製品、ミッドレンジスイッチ「AX5400Sシリーズ」2製品、ハイエンドルーター「AX7800R」3製品を順次出荷していきます。また、先ほど申し上げたOEMの提供もありますので、十分可能性はあると考えています。
IPOを計画されたのは、日立・NECから早期に経営面で独立することを考えてのことでしょうか。
和田
目的としては、事業を拡大するための資金調達です。確かにアラクサラには2つの大きな親会社があるわけですが、会社の存在意義が市場に認められ、株式公開をして存続していかなければなりません。単なる製品工場ではなく、独立独歩の経営を指向していきます。
IPOという目標を新しいコーポレートとして掲げると、社内に方向感が出ます。「何年か出向できている」というのではなく、「この会社で命がけで仕事する」という気持ちに変わっていくのです。
また、資金面については、経済産業省による次世代高速通信機器技術開発プロジェクトに対する補助金として23.3億円が決まっていますので、製品の品質向上に活かしたいと考えます。
当面の重点ポイントをお聞かせください。
和田
まずは国内シェアを確保していくことです。そのうえで、海外ではアジアや欧州へ事業を展開していきたいと考えています。海外諸国は、日本の技術に大きな期待を抱いています。たとえば自動車にしても、国産は壊れにくい。同様にルーターにも品質が求められていますので、品質を重視する国で生まれたメーカーであるということをしっかり発信していきたいと思います。
(聞き手・土谷宜弘)