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2004年12月号

岩崎通信機
代表取締役社長
石橋義之氏
IP/レガシー互換製品の投入で
黒字経営の継続を必ず果たす

岩崎通信機は今年5月、
新たな中期経営計画「IWATSU 530.3C」を発表した。
黒字継続に向けて意欲を見せる石橋義之社長に、
早くも走り出した中期計画の中味、とりわけIP化への対応策を聞いた。

Profile

石橋義之(いしばし・よしゆき)氏
1942年4月生まれ。67年4月、岩崎通信機入社。91年6月、岩通アメリカ社長就任。5年後に帰国し、96年4月製版営業部長、97年7月製版事業部長就任。99年6月取締役製版事業部長、02年10月常務取締役製版事業部長を経て、03年6月代表取締役社長就任

  昨年6月、中期経営計画「START21」の最終年度の期中に社長に就任されたとうかがいました。厳しい状況下でバトンを受け取られたにもかかわらず、黒字転換を果たされましたね。

石橋 2003年度に「抜本的経営改善計画」を追加施策として盛り込んだことで、最終的に連結営業利益12億円にまで実績を戻すことができました。
 ただ、利益率は約3%にとどまっていますので、さらに構造改革が必要であると感じました。そこで今年5月に、2006年度を最終年度とする新しい3カ年計画として、「IWATSU 530.3C」を策定しました。

   新中期経営計画はどのような内容なのですか。

石橋 縮小均衡型経営からの脱却ということで「事業構造改革による成長の実現」「高収益体質への転換」「企業体質の改革及び意識改革」の3つを基本方針に掲げています。これをもとに、「IP事業のビジネスモデルを推進し、当社の成長事業基盤を確立する」「新規事業の育成強化」「利益創出体質の確立」など8つの経営政策と、これらを22項目に細分化したアクションプランを策定しました。
 例えば、当社が新しい事業モデルのコンセプトとして掲げている「xMessaging Service Company」の、「x」を明確にしていくことも、その1つです。
 そして、これらのプランを具体的な行動に落とし込んでいくため、社長に直結するクロス・ファンクショナル・チームを新たに設置しました。

  クロス・ファンクショナル・チームとは、どのような構成になっているのでしょうか。

石橋 30歳代の社員を中心としたメンバーで構成しています。総勢41名です。将来、当社を背負っていく若手に、長年の“ぬるま湯体質”を払拭してほしいと期待しています。
 8つの政策ごとに、数名の担当者を割り当てました。7月から実質的な活動を開始し、3カ月ごとに報告会を開いています。この10月に第1回の報告会が行われましたが、すぐに実行できそうな優れた企画もいくつかありました。

新製品で「電話からIPへ」を加速

  ビジネスホンを主軸とする情報通信事業についてうかがいますが、現在の市場環境と、御社の事業の現状をどのように捉えていますか。

石橋 「電話からIPへ」の潮流が着実に大きくなり、もはや止められない状況にあるのは、業界の誰もが認識しているでしょう。当社ではこの動きを捉え、2002年夏から、VoIPプロトコルの主流となったSIPを採用して、ビジネスホンをはじめとしたIP対応製品の拡充を進めてきました。
 現在、中小企業をメインのユーザー層とする当社のビジネスホンについては、“IP化”率が約8割といったところです。これを2006年度には、9割前後にまで引き上げたいと考えています。

  IP対応製品が完全に主力となるわけですね。製品面ではどのような強化策を打っていくのですか。

石橋 従来からのビジネスホンでは、中・大容量の「ActetoU」で内外線ともIP化を完了しました。小容量クラスの「TELEMORE-IP」も、外線側をIP対応にしています。また、市場を賑わしているIP電話サービスへの対応については、“4キャリア対応”という特徴を打ち出しています。
 他方、昨年10月にはSIPサーバーをベースとしたVoIPシステム「NetSpeak」を発売しました。当社としては、従来にない製品ジャンルであり、ターゲットも中・大手企業を視野に入れています。
 さらに今年6月には米シラントロシステムズ社と提携し、同社のホステッド型PBXを「NetSpeakファミリー」に加えました。これによって、カバー容量を大きく広げるとともに、セントレックス型の企業ネットワークを構築したいというお客様にも対応できるようになりました。
 そしてこの12月には、新しいプラットフォーム製品である「TELMAGE」を発表しました。これは主装置内にTDMスイッチとソフトスイッチを兼ね備えたシステムです。完全なフルIPネットワークでも、回線交換型のネットワークでも、両方の混在環境でも1台で対応することができる“コンバージドシステム”であることが大きな特徴です。これによってお客様は、「電話からIPへ」の移行をより柔軟に行えるようになります。

国内民需の課題は“低い利益率”

  ターゲット市場を国内民需、NTT向け、海外向けに分けるとすると、それぞれの課題と今後の展開はどのようになるとお考えでしょうか。

石橋 まず、NTT向けのビジネスが縮小していることが、経営上の大きな課題になっているのは事実です。昨年度の実績で見ると、情報通信関連事業の総売り上げ229億円のうち、NTT向けは70億円で約3分の1を占めています。ひと頃は、それだけで200億円を上まわる規模の実績を上げていたのです。
 この事業分野に関しては、今後大きく回復させるというよりも、現状をいかに維持していくかがポイントになります。そのためには、今までのように「クライアントから出される製品仕様に忠実に応える」というだけではなく、当社から魅力のある製品を積極的に提案していくことがますます重要になると考えています。

   すると、伸ばすべきところは国内民需と海外ということになりますね。

石橋 そうです。国内民需については、この上期、小容量クラスの製品を中心に予想以上の実績を上げていますから、この勢いをさらに加速させたいと思います。
 ただ、利益率が非常に悪い状況にあるという点が大きな課題です。中期経営計画で基本方針の1つに掲げた「高収益体質への転換」は、ここに重点が置かれているといっても過言ではありません。そこで、今後はチャネル政策も含めた利益率改善のための手立てを打っていくことにしました。
 一方、現在売上額17億円程度の海外向け事業については、拡大路線を突き進みたいと考えてます。これまでは、当社が現地法人を構えている北米に特化してきましたが、今後は欧州や中国など、大きな需要が見込める地域へと積極的に進出していきたいと考えています。
 この点では、さまざまな製品の基盤技術がIPにシフトしてきたことで、システム開発において国内外の“共通化”が図りやすくなりました。これが、海外展開の追い風になっています。

広い視点でチャネル拡大を図る

  販売面での収益改善は、具体的にどのような策をもって進めていくのでしょうか。

石橋 ビジネスホン販売を生業としてきた従来からの通信機器販売店向けには、IPビジネスに関する知識やスキルを向上していただくための教育活動をさらに強化していきます。加えて、営業活動にかかる負荷をできる限り軽くできるような“効率的な提案方法”を数多く作り出していきたいと考えています。
 それには、現場を知っている販売店の知恵がどうしても必要となります。そこで、私自らが販売店の方々と積極的にコミュニケーションを図るよう努めています。
 また、東京地区では、IPビジネスに積極的な販売店の方々と一緒に「販促部会」を開いています。実際にこのミーティングの中では、ユーザー企業のニーズや新商品のアイデアなど、いろいろと情報やご意見をいただいています。今後は、こうした活動を他の地域にも広げていければと考えています。

  中期計画の中では、「販売チャネルの再編」という文言もありましたが、これはどういう意味ですか。

石橋 販売店の方々とは、これからの時代も共に歩んでいきたいと思ってはいます。ただ現実的には、IP化の波に乗って事業を拡大できている販売店がある一方で、IP化についてまだまだ疑問を感じており消極的な姿勢をとっている販売店もあります。そして、両者の温度差が徐々に大きくなってきています。こうした二極化傾向の中では、どうしてもチャネルの見直しを図る必要に迫られてきます。
 例えば、NetSpeakに代表される新しい形のシステムの場合は、コンピューター系のシステムインテグレーターを介してエンドユーザー企業に提供するケースが多くなります。したがって、この部分については、新規のチャネルを開拓・強化していくことになります。
 さらにいうなら、「もっと広い視点でチャネルを拡大したい」と思っています。例えば、通信事業者との連携です。ビジネスホン製品のIP電話サービス対応も1つの方策です。通信サービスとの組み合わせによって当社の製品が流通していく仕組みも、チャンスがあれば積極的に作っていきたいと考えています。

3年間で黒字体質を確立する

  中期計画の中には、「情報通信、電子製版、産業計測に次ぐ“第4の柱”となる事業を育てる」ということも謳われています。具体的にはどのような事業になるのですか。

石橋 正直なところ、まだ固まっていません。ただ、当社の屋台骨である情報通信分野の中から、新たな柱が生まれてくるのではないかと期待しています。

   このところの展開を見ると、「サービス事業」が第4の柱になるのではないかとも思えるのですが。

石橋 当社の販売店でもあるエフティコミュニケーションズと合弁で設立したインターネット接続/コンテンツサービス会社「アイエフネット」のことですね。確かに、当社はこれまでは“モノを作って売る”というメーカー事業に徹してきましたから、継続的に収入を得られるサービス事業は、有力候補の1つになり得るでしょう。そういう意味で、アイエフネットの事業強化を両社協力のもと進めていきたいと思います。

  最後に、御社の3年後の企業イメージを聞かせてください。

石橋 中期計画の名称にある「530」は、「3年後に売り上げ500億円・経常利益30億円にする」ということを意味しているのですが、私としては、この目標を達成するだけではなく、「コンスタントに黒字を出せる企業体質」を作り上げたいのです。
 そのためには、きめ細かく分けたアクションプランの1つひとつを完遂しなければならないと、肝に銘じています。
(聞き手・土谷宜弘)
 

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