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2005年12月号

アイピーモバイル
代表取締役
杉村五男氏
日本初のTD-CDMAで参入
新市場開拓が我々の使命

11月9日、携帯電話事業への新規参入が決まったアイピーモバイル。日本で初めてのTD-CDMA方式によるデータ通信という新たな試みに向けた抱負を、直後の杉村五男代表取締役に聞いた。

Profile

杉村五男(すぎむら・いつお)氏
1967年日本電信電話公社(現NTT)入社。93年NTTPCコミュニケーションズ エンジニアリング本部ネットワーク設備課長を経て、95年リコーテクノネット入社。99年東京めたりっく通信で日本初のADSLを創業。同社代表取締役COO エンジニアリング本部長、東京ふぁいばあ通信代表取締役、ジェネロ通信代表取締役を経て、02年よりマルチメディア総合研究所代表取締役および現職

  2GHz帯での新規参入が認められましたね。

杉村 これまで取り組んできたことが認められ、うれしく思います。携帯電話事業への参入を目指してから5年かかりました。業界に詳しい友人からは、「電波をもらうのは難しいのでは」と言われたこともあります。
 当社が採用するTD-CDMA方式は、インターネットのモバイルへの移行・発展とともに活用されていく技術で、きっと日本でも受け入れられるはずです。

  同じく参入が認められたソフトバンクやイー・アクセスはADSL事業などの既存顧客を持っているのに対し、御社は不利ではないかという見方もあります。

杉村 2社と異なり、当面データ通信だけのサービスとなります。毎年、新しい技術を取り入れながら高速化を図っていくので、数年で差別化できます。
 当初は常時2Mbps、最大5.2Mbpsですが、翌年以降はMIMO(Multiple Input Multiple Output)の技術を導入して、最大22Mbpsのサービスを開始する予定です。

  ベンチャー企業のため、会社としての体力や事業の継続力を不安視する見方もあります。

杉村 すでに多くの投資家の方々に協力を取り付けました。現在は1回目の増資を終えたところです。筆頭はマルチメディア総合研究所で、あとはIIJテクノロジー、CSKプリンシパルズ、翔泳社、楽天ストラテジックパートナーズの4社です。
 投資額は5年かけて総額1500億円を目標にしています。全国の人口カバー率70%を達成するために必要な額で、基本的には単独でインフラを構築します。

  携帯電話事業を始めるにあたって、人材の確保も必要になりますね。

杉村 実験中から人材の確保に努めてきました。国内外のメーカーやキャリアで活躍している人材を広く集めています。心配にはあたりません。
 携帯電話の歴史は浅く、市場のなかで実践的に鍛えられている本当の現場的ベテランというと、実は20代後半〜30代前半が中心になります。無線分野に関しては、技術リーダー格のメンバーがほぼそろいましたので、これからネットワークデザインや運営、アウトソーシングなどを決める段階に入っています。設備からサービスまで、当社ですべてをまかなうことは考えておらず、インフラベンダーは国内外も含めて数社と交渉中で、調達の準備を進めています。端末メーカーも選定中です。

2012年に275万加入を目指す

  今、計画中の事業のイメージはどうなりますか。

杉村 まず、データ通信用カードのバリエーションを増やすところから始めます。モバイルPCやPDAなど既存の端末に埋め込まれた組み込み型のモジュールも普及させていきます。
 06年10月には東京でサービスを開始し、続いて大阪と名古屋で展開します。09年に単月黒字、11年に累損赤字を解消する計画です。
 データ通信端末の加入者は08年に100万、12年に275万を目指しています。カード型の市場は現在150万で、12年には600〜800万になると想定しています。すでに約9000万いる既存の携帯電話マーケットに比べると、新規参入事業者にも大いに可能性のある市場だと考えています。
 カード型や組み込み型のデータ通信は、現状では低速で使い勝手が悪く、料金が高いという問題があります。すでに飽和状態にある既存携帯電話マーケットでパイを取りに行くのではなく、こうしたボトルネックを解消し、データ通信で新しい市場を開いていていくことが、今回の新規参入事業者の役割だと思っています。

  カード型データ通信という照準はわかりました。どのような端末を想定しているのですか。

杉村 海外の動向を調査したところ、ポケットに入るような小型PCも出てきています。SDカードタイプなどもサービス開始時から投入していく予定です。将来は、ポケットPCが高速化し、もはやノートPCを持ち歩く必要がなくなるでしょう。
 それと他社にはない全く新しい携帯型として開発を進めているのが「パーソナルメディアゲートウェイタイプ」です。差込口すら不要で、端末がアクセスエリアに入っていれば使えます。
 市場では、Wi-FiとかBluetoothのインターフェースを備えたデバイスが増えています。デジタルカメラやプリンターなど何でも構いません。それが、このポケットに入る小さなパーソナルメディアゲートウェイを通過することで、TD-CDMAの全国ネットワークにつながるわけです。現在アイピーモバイルでは、Bluetoothと無線LANの2種類の開発を進めています。こうした商品を出すことで、市場全体のパイを大きくしていきます。
 従来のような、インフラから端末アプリケーションまでの垂直統合型という考え方では高価になってしまうし、その負担金を誰が払うのかというビジネスモデル上の問題にもなります。
 新規事業者として参入する際、メーカーを見つけて端末を作ってもらうのは大変なことで、そこまで競争するのは新規事業者としては大きな負担になります。むしろ、さまざまなデバイスをどんどん作っていただき、それらがパーソナルメディアゲートウェイを通ることでユーザーの使い勝手が抜群によくなるようになればよいと考えています。
 当社はTD-CDMAという新しい技術を使い、データ通信に優れ、安価で速いインフラを作れることが強みです。かっこいい端末を作ろうとか、いろいろな機能を入れようということは、あえて排除しています。

  ウィルコムの「W-SIM」のようなモジュールで提供する考えは。

杉村 それも1つの方法でしょう。基本的にはすべてTD-CDMAにつながるデバイスになります。
 サービス開始の翌年度には出したいと思っていますが、メーカーと相談しながらになります。今あるインフラと競合するという考え方ではなく、既存のものと融合したシステムが構築できるのではないでしょうか。

  KDDIの小野寺社長は「携帯電話はパーソナルゲートウェイとしてユビキタスネットワークを実践する」と発言しています。

杉村 それも1つの考え方でしょうが、パーソナルメディアゲートウェイというのは、個人個人がほしいものを持つという意味だと思います。
 そのためには、キャリアはかなりのボリュームを出さなければならないはずです。当社は端末1個を作り、あとはいろいろなメーカーから出ているデバイスを使ってもらうことが、本来のパーソナルメディアゲートウェイだと考えます。
 端末がシンプルになり、簡単につながっていくことがお客様に提供する商品であると考えると、支持されやすいのではないでしょうか。つまり、標準技術でつながるということです。
 すでに汎用技術でよいものがいろいろあります。こうしたものを提供することで、今まであきらめていた分野が再生するのではないかと思います。そこが他の新規参入事業者とのすみ分けになります。
 当社のように限られた人数とリソースでどこに集中するかというと、通信の質やインフラの安さです。それ以外は他社にお任せするオープンなシステムを作り、差別化していきます。

販売ではMVNOも

  他の新規2社は既存事業で販売チャネルを持っています。販売戦略および販売パートナーは。

杉村 ユーザーは法人と個人で半分ずつを考えています。メディアゲートウェイは個人で持ってもらいたいですね。カード型は当然、法人が多いでしょう。組み込み型はSIerやシステム関連の仕事をされている方でないと販売できないでしょう。
 独自にカード型を自社ブランドで販売するだけでなく、自分たちの商品と組み合わせて付加価値が高まるのであれば、売ってもらうというMVNO(仮想移動体通信事業者)的な販売戦略も考えています。アプリケーションや端末のオープン化とイコールだと思っています。
 SIには、「アイピーモバイルの新しいネットワークサービスやデバイスがあります。これを利用して、企業システムを自在に構築してください。一緒にビジネスを行いましょう」というスタンスです。また、特にコンシューマー向けには新しい販売方法として、インターネット販売も考えています。

海外ではADSLの代替

  海外ではTD-CDMAの普及はどういう状況ですか。

杉村 FWA(Fixed Wireless Access)で、卓上モデムという形でサービスインしている事例が多くあります。ADSLの代替というイメージですね。ニュージーランドでは、ダイヤルアップからの移行に適しているということで、無線ブロードバンド市場の4割を獲得しています。宅内のUSBのつなぎとしての使い方です。インフラが届きにくい地域で支持されています。

  TD-CDMAの実証実験ではNTTコミュニケーションズと協力していましたが、現在はどういう関係ですか。

杉村 実証実験は一区切りついていて、今後ISPとして使っていただくという話は出てくると思います。ネットワークの構築などではNTTPCコミュニケーションズに協力していただいているので、間接的にはお世話になります。

  WiMAXやiBurstとの連携は考えていますか。

杉村 WiMAXやiBurstと比較してまったく遜色がないと考えています。TD-CDMA技術では10MHz帯域を使うシステムが海外で実用化されており、当社が現行採用している5MHz帯域のシステムと比べて倍の速度が出ます。それを総務省で議論されている2.5MHz帯に導入するという話もあります。速度が速く、すでに実績もあります。
 WiMAXに関してはバックボーンとして使うなど、相互補完的な位置づけという考え方もあるかもしれませんね。

  携帯電話事業の成功に向けた決意をお聞かせください。

杉村 データ通信という全く新しい分野を切り拓きながら、TD-CDMAの技術を普及していきたいと思います。インターネットを活用した新しいビジネスの幕開けで、私たちのサービスは「インターネット第2章」と呼びたい。そのためには、スピードと価格が勝負です。5000円以下の定額制でないと、市場は拓けないでしょう。認可をいただき、改めて強い意思を固めているところです。
(聞き手・土谷宜弘)

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