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2006年6月号
総務省
大臣官房技術総括審議官
松本 正夫氏
NGNで“脱インターネット”
国を挙げて標準化をリードする
「今のインターネットは、ユビキタス社会のインフラとはなり得ない。国民全体の利益のため、NGNを推進する義務がある」。NGNに本格的に取り組み始めた総務省の松本正夫技術総括審議官に聞いた。
Profile
松本正夫(まつもと・まさお)氏
1951年長崎県生まれ。京都大学工学部、同大学大学院工学研究科修士課程修了。76年に郵政省(現総務省)入省。91年電気通信局電気通信事業部データ通信課調査官、92年同電波部移動通信課デジタル移動通信推進室長、93年同監視監理課長、94年同電波利用企画課長、96年通信政策局宇宙通信政策課長、98年電気通信局電波部計画課長、2001年総合通信基盤局電波部電波政策課長を歴任。その後、北海道総合通信局長と近畿総合通信局長を経て、05年から現職
現在、総務省は「u-Japan政策」のもと、ユビキタス社会の実現に力を注いでいますが、その一環として「次世代IPネットワーク推進フォーラム」を設立するなど、NGN(次世代ネットワーク)にも精力的に取り組んでいます。なぜ総務省はNGNを重要視しているのでしょうか。
松本
振り返れば、政府が「e-Japan戦略」を掲げ、ブロードバンドインフラの基盤整備に本格的に取り組み始めたのは2001年のことでした。この目標は予想以上の早さで達成でき、今では「世界一安く、世界一速い」とまで言われるインフラができています。ただ半面、「インフラはできたが、利活用はなかなか進んでいない」という反省もあがっています。
そこで04年に総務省が掲げたu-Japanでは以下の2つの目標をあげました。1つは、国民の80%以上が、ICT(情報通信技術)のおかげで「生活が良くなった」「経済が良くなった」と実感できる社会にすること。もう1つは、同じく国民の80%以上が、安心してICTを利用できる社会にすることです。
翻って、現在のインターネットを見ると、信頼性やセキュリティなどに数多くの問題点を抱えています。ショッピングや動画配信など、さまざまなサービスがインターネット上で提供されていますが、通信事業者のネットワークとしては「十分なものと言えない」というのが実態ではないでしょうか。「ベストエフォート」といえば聞こえはいいですが、今のインターネットは“つぎはぎ”の“つぎはぎ”で、通信事業者にしても自社網から一歩外に出ると、何も分からない状態です。事業者が責任を持ってサービスを提供している状況とは、とても言えません。
ユビキタス時代のネットワークをどうするのか。この重大な課題への答えとなり得るのが、NGNであると考えられています。だからこそ、総務省もNGNに真剣に取り組んでいるわけです。
インターネットへの過大な期待
詐欺や情報漏えいなど、インターネット上の事件が報道されない日はありません。今後ますます生活におけるネットワークの重要性は高まりますから、どこかで抜本的に解決する必要があるわけですね。
松本
実は、現在起こっている問題は、日本でインターネット接続サービスの商用化が始まった時点で、すでに予見されていたことでした。
1991年、当時の郵政省は慶應義塾大学の村井純先生を座長に、インターネットの商用化問題についての検討会を開催しました。その時の報告書では、インターネットの問題点も指摘されていたことを覚えています。
インターネットはもともと、公衆サービスに使われることを前提に開発されたものではありません。こうした生い立ちのネットワークに「通信サービスのためのネットワーク」として過大な期待をするのは、そもそも限界があると言えるでしょう。
加えて、IP化やブロードバンド化の進展に伴い、動画や音声などのメディアもインターネット上で伝送されるようになりました。いわゆるオールIP化の流れですが、インターネット上で提供されるIPTVやVoIPが、地上波テレビや黒電話と同水準のサービスを実現することは難しいと言わざるを得ないでしょう。
他方、コストや保守の面からも、通信事業者は現在のネットワークの中心である電話網を維持していくことは、困難になりつつあると思います。
このような状況のなか、本当のユビキタス社会を迎えるためには、新しいネットワークへと脱却することが不可欠なのです。
日本に都合の良いNGN
現在のインターネットの主導権はシスコシステムズなど欧米のメーカーが握っています。NGNは日本のメーカーにとって、巻き返しのチャンスともなるのではないですか。
松本
総務省がNGNに力を入れる理由には、日本のネットワーク産業の国際競争力向上という意味合いも当然あります。NICT(独立行政法人情報通信研究機構)では、今年度から5年間にわたりメーカー等に委託し、数十億円規模の予算でNGN関連の研究開発を実施することとしています。NGNという新たな市場の中で、日本のメーカーもチャンスをつかんで欲しいと思います。
研究開発のほかには、どのような取り組みをしていくのですか。
松本
次世代IPネットワーク推進フォーラムを中心に、NGN標準化の日本案の作成や、相互接続のための技術基準の策定などを行っていきます。NGNを成功させるためには、(1)研究開発、(2)標準化、(3)相互接続、(4)技術基準、この4つにしっかりと取り組んでいく必要があると思っています。
総務省が自ら標準化作業に携わることは、これまであまりなかったことではないですか。。
松本
電気通信事業がNTTとKDDの独占だった時代には彼らがその役割を担っていました。しかし今日では、NTTだけのNGNではなく、他の事業者もNGNを構築したり、そのネットワークを利用します。したがって、標準化には利害関係者の意見を集約する機能が求められ、フォーラムがその役割を担っていきます。
第3世代携帯電話の標準化では、国際的に大きな議論が起こりました。NGNの場合も同様の戦いがあるのでしょうか。
松本
NGNの場合、そうした問題はあまり起こらないと考えています。というのも、NGNはどこか1社の技術で成り立つようなものではないからです。
ただ、日本にとって望ましいNGN、そうでないNGNというのはあり得ます。なぜなら国によって、既存のネットワークインフラは大きく違っているからです。
ですから「日本にとって都合の良いNGNとは何なのか」と、国内のコンセンサスを作り、これをNGNの標準化を進めているITU-T(国際電気通信連合の電気通信標準化部門)の作業に反映していくことが大切です。
その意味で、NGNの標準化を推進していくことは、日本の利益を確保していく上で非常に重要であると言えます。
相互接続性が最も重要
総務省が標準化に関与する意義は、そこにあるのですね。もう1つの「技術基準」とは何ですか。
松本
技術基準とは、ネットワークの相互接続性や安全性を維持するために電気通信事業法に基づき定める技術的な基準のことです。PSTNからNGNへの移行にあたって、新たな技術基準の策定が急務となっています。まずは07年末までに音声通話に関する技術基準を定める計画です。
ITU-Tでの標準化作業との関係はどうなっているのですか。
松本
NGNの構築を促進するためには、NGNで何ができるのかというサービスイメージをユーザーに示す必要があります。ITU-Tの標準化をただ待っているわけにはいきません。NTTは「07年からNGNのトライアルを開始する」とアナウンスしていますから、国際標準が決まった時点で、ソフトウェアのアップデートなどで対応する形になるでしょう。日本がNGNの標準化をリードするためにも、先行して取り組んでいくことが重要だと考えています。
電気通信の標準化は長年ITUが推進してきましたが、インターネットの隆盛に伴いITU対IETF(Internet Engineering Task Force)という見方をする人も出てきています。
松本
もはやITUだけが情報通信分野の標準化機関の役割を担う時代でないことは確かでしょう。NGNはオールIPの世界ですから、インターネットに長年取り組んできたIETFと連携していくことは当然だと思います。実際、IPv6のセキュリティやドメインの割り当てなどに関しては、IETFを尊重して動いています。
ただ、IETFに全面的に依拠することにはならないと思います。得意分野ごとに棲み分けていく形になるはずです。
具体的には、どのように棲み分けるのでしょうか。
松本
ITUが、しっかりと取り組む必要があることは2つだと考えています。1つは「ネットワークの信頼性や品質をいかに確保するか」という問題です。これはまさに電気通信、ITUの世界です。
もう1つは相互接続性です。ネットワークは互いにつながって初めて価値が生まれるものです。相互接続性をきちんと担保できる標準仕様を作ることこそ、ITUの最大の役割だと私は考えています。ITU-Tの局長に立候補されたNTT取締役第三部門長の井上友二さんも同様のお考えをお持ちでした。
相互接続性は通信の要ですね。
松本
各国がバラバラにNGNを構築すると、誰が不利益を被るのか。筆頭にはユーザーが挙げられるでしょう。各々が国際標準に基づかずに独自で展開した場合、提供できるサービスには制限が出てくる可能性があります。「外国とはつながらない」という事態もあり得るでしょう。また、各国ごとに違った機器を作るとなると、開発・製造コストが膨らみ、最終的な消費者価格もアップします。
さらに、メーカーは市場が狭まり、ネットワーク上でさまざまなビジネスを展開するサービスプロバイダーは通信事業者ごとに異なる仕様に合わせなくてはなりません。
つまり、すべての人の利益が損なわれることとなります。
ITU-TでのNGNの標準化は現在、どこまで進んでいるのですか。
松本
今はNGNの概念を整理している段階で、08年までにNGNのリリース1あるいは2が策定される見込みです。ただ、具体的なパーツまでは、まだ議論は進んでいません。
NGNの最大のポイントは、トランスポート層とサービス層をきちんと分離し、トランスポート層に関しては通信事業者がきちんと責任を持てる形にすること。そのうえでVoIPやIPTVなどのサービス層は、誰でも使えるようにオープンにすることです。
ITU-Tが責任を持ってやり遂げなければならないのは、クオリティや相互接続性といったトランスポート層の標準化です。
07年には、いよいよNGNのトライアルが始まります。NGNは通信をどう変えていきますか。
松本
私は、NGNは今のインターネットを置き換えていくものだと考えています。エンド・ツー・エンドのクオリティが保証されず、セキュリティにも不安がある現在のインターネットは、来るユビキタス社会において満足できるネットワークとはとても言えないのです。
これは、これまでインターネットを支えてきた事業者やベンダーの共通の認識でしょう。だからこそ、世界中の事業者やベンダーが今、果敢にNGNに取り組んでいるわけです。
(聞き手・土谷宜弘)