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2006年9月号

クアルコム ジャパン
代表取締役社長
山田 純氏
メディアFLO事業化は2年後
スーパー3Gに802.20で対抗

クアルコムが携帯向けテレビ放送「メディアFLO」とモバイルブロードバンド「MBTDD-Wideband」という2つの新システムの日本導入に向け、アグレッシブな動きを見せている。山田純社長にその狙いを聞いた。

Profile

山田 純(やまだ じゅん)氏
1978年、東京大学工学部電子工学科卒業、松下通信工業に入社。自動車・携帯電話機器やデジタル移動通信システムの開発設計、米国での移動通信システム開発プロジェクトのリーダー等を経て、95年退社。同年より、米国アクセスライン・テクノロジーズの技術部長として、NTTおよびNTTドコモとの合弁会社ワンナンバーサービスの設立に参画した。98年、クアルコム ジャパンの設立に当たり入社。標準化活動、新技術開発、新商品開発、通信事業者および携帯端末メーカーへの技術支援、アプリケーションプラットホームBREWの日本導入推進などを担当、2005年3月代表取締役社長に就任、今日に至る

  携帯電話向けテレビ放送「メディアFLO」の事業化を日本でも推進していますが、現況はどうなっていますか。

山田 日本では、KDDIとの合弁会社「メディアフロージャパン企画」を通じて取り組んでいます。現在の主な活動内容は、日本における事業性の確認と周波数獲得に向けた戦略作りです。
 特に重要なのは周波数の獲得です。地上放送のデジタル化に伴い、現行のアナログ放送は2011年7月までに停波しますが、これで空くVHF/UHF帯の中には、まだ用途が決まっていない帯域があります。3月、総務省がその利用提案を募集したのを受け、私どもはメディアFLOを提案しました。現在、総務省の「電波利用方策委員会」および傘下の「VHF/UHF帯電波有効利用作業班」で、寄せられた100以上の提案について検討されています。
 委員会では、「マルチメディア放送」というカテゴリーを設けようという議論が進んでいますが、メディアFLOもこれに属するものと認識しています。
 実際の周波数割り当てについては、2011年以降に総務省がガイドラインを公表すると聞いています。当面は、その中にメディアFLOを位置づけられるように活動していくことになると思います。

  では、事業化は2011年以降ということですか。

山田 できれば、それよりも前倒しで実用化したいと考えています。メディアFLOが国民のニーズに合致するものだと認めてもらえるのであれば、「もっと早く導入できる方法を研究させていただきたい」と提案していくつもりです。

  具体的にはどんな方法ですか。

山田 UHF帯には各地域で未使用のチャンネルがあります。これを正式な周波数割り当てまで使わせてもらう可能性はないか、技術と事業性の両面から検討していきます。これは非常にチャレンジングなことですが、最も可能性のあるやり方です。

  ずばり事業化はいつ頃でしょうか。

山田 当社が決められることではないので何とも言えませんが、5年先では意味がありません。あと2年ほどで商用化への道筋をつけるつもりです。

2.5GHz帯にもシステム間競争を

  現在、広帯域移動アクセス委員会や傘下の作業班で、いわゆる「モバイルブロードバンド」のシステム検討が行われています。「本命」と目されるのはモバイルWiMAXですが、クアルコムが推進するIEEE802.20 MBTDD-Wideband(以下MBTDD-W)も有力候補の1つです。MBTDD-Wの現状はどうなっていますか。

山田 当社は、2.5GHz帯で70MHz幅あるいはそれ以上の周波数の割り当てが可能ならば、導入する技術を1つに限定するべきではないと主張してきました。最近になって、私どもの考え方は受け入れられつつあるとの印象を持っています。

  多くの事業者が支持するモバイルWiMAXにシステムを一本化したほうが、望ましいという考え方もあります。複数システムの導入を主張する理由はどこにあるのでしょう。

山田 少なくとも2つ以上の技術の導入を可能にし、事業者の選択に委ねるほうが合理的だと考えるからです。
 日本の携帯電話市場では、異なるシステムを採用した事業者がサービス競争を繰り広げています。結果、ユーザーは多大なメリットを享受しています。2.5GHz帯でもこうした環境を整えるべきです。
 当社が開発しているMBTDD-WはモバイルWiMAXと同じくOFDMAのシステムですが、これまで培った携帯電話の制御技術により、周波数利用効率、高速移動性、通信品質など多くの点でモバイルWiMAXを凌駕していると自負しています。
 モバイルWiMAXの商用サービス用機器は来年提供されると聞いています。MBTDD-Wはこれより遅れますが、それを待ってでも導入したいという事業者は必ず出てくるはずです。ぜひこうした事業者へのパスを確保しておいて欲しいと希望しています。

  MBTDD-Wの商用機器のリリースは、いつ頃になるのですか。

山田 来年前半には規格が固まり、ベンダーへの技術移転が可能になるでしょう。機器の供給開始は、おそらく2008年後半から09年にかけてになります。

  モバイルWiMAXより実用化は1年半遅れますが、勝算はあるのですか。

山田 もちろんです。モバイルWiMAXの標準化対象は、物理レイヤとMACレイヤに限定されています。
 実用的な移動通信システムとしてモバイルWiMAXを利用するためには、今後非常に多くの機能を開発しなければなりません。また、それと並行して標準化作業も必要になります。
 こうした点を考慮すれば、必要とされるすべての機能がすでに仕様化されているMBTDD-Wのほうが、実際には進んでいると言ってもよいと思います。

ハンドオーバーができない

  6月、御社はモバイルWiMAXの性能に疑問を投げかけるデータを公表しました。

山田 われわれは当然モバイルWiMAXの評価を行ってきました。結果、現在検討されているモバイルWiMAXの技術仕様では、広域エリアを効率的に、しかも十分な移動性をもってカバーするのは難しいという結論に達したのです。そこで、このデータを公表し、広く検証してもらおうと考えました。

  何が問題なのですか。

山田 今回取り上げたのは、制御チャンネルの到達距離の問題です。モバイルWiMAXに採用されているOFDMAは、周波数ホッピング技術を用いて、耐干渉性を高めています。この技術により、隣接基地局と同じ周波数が利用できるわけです。ただし、制御チャンネルのように帯域が限られていると、周波数ホッピングの効果はほとんど得られません。
 ですから、異なる3つの周波数を制御チャンネルに用い、セルまたはセクタごとに使用するサブキャリアを替えることで干渉を避ける手法が、モバイルWiMAXでは標準仕様になっています。
 ところが作業班に提出されているモバイルWiMAXの仕様は、これも標準仕様の1つですが「制御チャンネル繰り返し利用を1にして周波数利用効率を高める」というものです。果たしてこれで本当に十分な性能が出るのかは疑問です。
 最新のWiMAXフォーラムの仕様書に基づいたシミュレーションを米国本社に依頼したところ、周波数繰り返し利用を1波にした場合、基地局に比較的近い部分、セル面積にして25%以外では、干渉のため十分なデータスループットが得られないという驚くべき結果が返ってきました。残りの75%のエリアでは発着信に支障が出るのです。また、セルエッジで制御チャンネルが使えませんから、ハンドオーバーもできません。
 制御チャンネルを3波繰り返し利用する仕様でのセルカバー率は95%ですから、パラメーターの調整次第では実用になる可能性はあります。しかし、このセルカバー率を満たすためには制御チャンネル用の周波数が3倍必要ですから、データチャンネルが圧迫され、周波数利用効率はHSDPAや1x EV-DOを下回ってしまいます。HSDPAとEV-DOが1.0bps/Hz強なのに対し、WiMAXは当社の計算によれば0.76bps/Hzです。これでは何のために新システムを導入するのかわかりません。
 私どもはモバイルWiMAXを実用的なシステムにするには制御チャンネルの大幅な仕様変更が必須になると考えています。MBTDD-Wの場合は制御チャンネルに耐干渉性の高いCDMAを用いているので、この問題は生じません。

  システム選定の段階でこのような問題が浮上するというのは信じがたいのですが、モバイルWiMAXを推進するベンダーなどからの反論はないのですか。

山田 1社からだけありました。非公開の場でモトローラから「セル(セクタ)におけるユーザー端末の信号対干渉波電力比の分布が違うため、数値が異なっている」との反論を受けました。これに対し、当社は詳細な回答をしましたが、その後の返答はありません。
 韓国では6月からWiBro仕様のモバイルWiMAXサービスが始まっていますが、ハンドオーバーで苦労していると聞きます。こうした先行事例をしっかりと評価してから、日本のモバイルブロードバンドについて判断しても遅くはないと思います。

802.20の標準化は大丈夫

  6月にIEEEの役員会が、MBTDD-Wの標準化作業を行う802.20委員会の活動を10月まで中断すると発表しました。標準化ができなければ日本への導入は困難になります。

山田 確かに活動停止の影響は小さくありません。しかし私はこの状況は、かえって良かったと思っています。
 中断の背景を簡単に説明しましょう。当社と京セラが802.20委員会に規格提案を行ったのは昨年末ですが、提案発表が行われた11月会合から、急に802.20委員会の参加者が増えてきました。同時に役員会に、さまざまな苦情が申し立てられるようになってきたのです。役員会としても看過できなくなり、下されたのが今回の決定です。

  WiMAXを推すメーカーなどの妨害工作があったということでしょうか。

山田 そう見ています。IEEEの各委員会には個人で参加できますから、ある企業が人をたくさん送り込み、投票権を得て、論議を左右することも可能です。役員会では今から802.20委員会で本当に何が起きているのかを調査します。ですから今後は露骨な妨害は難しくなるでしょう。
 委員会は10月1日まで休止し、その後準備期間を置いて11月13日から再開します。すでに技術内容に関する合意は、ほぼ得られており、その後の作業はかなりスムーズに進むと考えています。

  ところで、802.20委員会に提案したMBTDD-W/MBFDDを、3GPP2でも標準化する考えがあるようですが。

山田 同じものというと語弊がありますが、われわれの802.20委員会への提案内容をベースに、3GPP2の「EV-DO Rev.C」という方式について検討していくことでコンセンサスが得られつつあります。

  NTTドコモが開発中の「スーパー3G」もMBTDD-Wと同じくOFDMAベースで下り100Mbpsを実現する技術です。Rev.Cは「スーパー3G」に相当するものだと考えていいのでしょうか。

山田 技術的には若干違う部分もありますが、コンセプトは非常によく似ていると思います。携帯電話市場では、これからも最先端のシステム競争が続くことになるでしょう。
(聞き手・土谷宜弘)

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