今年10周年を迎えたユニアデックスは、通信業界では大手ネットワークインテグレーター(NIer)として知られていますが、それは一面に過ぎませんね。
高橋 当社は1997年、日本ユニシスのサポート部門とネットワーク構築部門が分社化して誕生しました。
オープン系への移行が始まっていた当時、メインフレームの保守料は、ハードウェアの低価格化に伴い、下落する一方でした。将来を考えれば、ユニシスのメインフレームの保守だけでは成長していけません。そこでユニシスにこだわらないベンダーニュートラルな事業展開をしていこうと分社化したわけです。
最初はユニシスからの仕事が100%でしたが、当社独自の顧客比率が毎年高まり、現在ではおよそ6割となっています。
サポートサービスとネットワーク構築がユニアデックスの2本柱ですが、サポート事業の概要はどうなっていますか。
高橋 全国にサポート網を構築するのは大変なことですから、外資系ベンダーは営業網を持ってもサポート網は持ちません。ですから最初に手がけたのは、外資系ベンダーのサポートサービスの受託でした。
例えば、どういったベンダーのサポートサービスを受託しているのですか。
高橋 現在、取引額が最も大きいのは大手PCメーカーのサポートサービスです。ここのサーバー関係の保守は基本的に当社がやらせていただいています。また、ストレージ系では日本ネットワーク・アプライアンスやEMC。最近はOSやミドルウェアなどソフトウェアの保守も増えています。約900名のソフトウェアSEを擁しているのは、我々の大きな特長の1つです。
マルチベンダーの強みを活かし、ユーザー企業にワンストップのサポートサービスも提供しています。
高橋 ユーザー企業からすれば、メーカーごとにサポート窓口が別々というのは大変面倒です。マルチベンダー化が進む中、ワンストップでサポートしてほしいというニーズが高まるのは当然のことです。
しかし、自社製品を抱えているベンダーは、なかなか他社製品のサポートには手を出せません。他方、「ユニ」の冠こそ社名に付いていますが、設立当初からベンダーニュートラルなサービスベンダーを目指してきた我々は違います。
この10年で、オープン化、マルチベンダー化は一気に進展しました。うまく時流を捉えましたね。
高橋 お蔭様で、この10年は大変順調に事業を拡大していくことができました。ただ前述の通り、サポート事業の収益性は、ハード価格の低下に伴い、厳しくなってきています。サポートサービスは、当社最大の基盤ですが、今後伸びていく世界ではありません。
では、どうやって伸ばしていくのか。そこでもう1つの柱として我々が展開してきたのがネットワーク構築です。この10年、いかにネットワーク系のビジネスを拡大していくかに注力してきました。1日でも早く、NIの世界でNo.1の座を獲りたいと考えています。
無線IPは「石の上にも3年」
その取り組みの1つとして挙げられるのが、2001年から開始したIPテレフォニー事業ですね。
高橋 シスコシステムズのIPテレフォニー製品を扱い始めたのは、国内では一番早かったと思います。「IPテレフォニー市場は必ず成長する」と、他のNIerに先駆けて参入しました。
最近は、無線IP電話ソリューションにも大変な力を入れています。
高橋 「これからは無線の時代に入っていく。無線に賭けていこう」と決断したのは3、4年前です。現在はネクストジェンのSIPサーバーを採用し、「AiriP(アイリップ)」のブランド名でワイヤレスIP電話ソリューションを提供しています。
また、ワイヤレスIPC事業部という専任の部署も昨年作りました。
いわゆるモバイルセントレックスに火をつけたのは、NTTドコモが2004年11月に発売した「FOMA N900iL」です。非常に大きな注目を浴びたわけですが、話題先行で各社とも実績はなかなか上がりませんでした。
高橋 ええ。多くのユーザー企業は様子見という状況が2年ほど続きました。
「どうして、こんなに良いソリューションをお使いにならないのか」と、ずいぶん悩みましたね。
しかし、昨年の秋口から、相当な数の案件が決まってきています。「石の上にも3年」と言いますが、マーケットはいよいよ本格的に立ち上がり始めました。
今年度、どのくらいの売上をAiriPで見込んでいますか。
高橋 「50億円は目指せ」と言っていますが、現時点で重視しているのは金額よりも案件数です。なぜなら、このマーケットは今後、もっともっと成長していくからです。先々を考えれば、今は市場でのプレゼンスを高めることの方が重要です。
そこで狙っているのは、中堅ユーザーの案件を数多くとっていくことです。売上金額だけを考えれば、大手ユーザーを狙った方が効率はいいのですが、それではプレゼンスは上がりません。まずは金額よりも案件数ベースでのシェアを上げることが大切です。
とはいえ、ユニシスにしてもユニアデックスにしても既存顧客は大手企業が中心であり、中堅企業市場では決して強くはありません。
どうやって中堅企業市場を開拓していくかが課題でしたが、KDDIさんとの包括提携がその大きな突破口になると期待しています。KDDIさんは数多くの中堅ユーザーを抱えていますから。
一層進展する“一体化”
今年2月19日に発表した包括提携のことですね。両社が共同で、通信サービスからLAN構築、保守運用までをワンストップで提供していくということですが、ユニアデックス側の狙いは何ですか。
高橋 コンピューターと通信は今後、ますます一体化していきます。
そうした中、通信サービス、ルーターなどの宅内機器、サーバーは、いずれワンストップで提供されていくことになると考えています。しかも、その際にはPCまで含めて「月額いくら」という形になっていくでしょう。ユーザーは、ルーターやサーバーを所有することが目的ではなく、利用できればいいわけですからね。
今、データセンターが伸びているのも、こうした流れの反映ですが、サーバーやアプリケーション、ストレージなどがデータセンターに集約化されていく中で、一層強みを発揮していくのは、回線を持っているキャリアだと思います。SaaS(Software
as a Service)の提供は当然のこと、キャリアは今後必ずサービス提供事業者になっていきます。
となると、キャリアと対抗していくのか、あるいは手を結ぶのか―。SIerやNIerは今、その選択を迫られているのです。中途半端な選択では生き残れないという危機感を抱いていました。
一方、KDDIさんも、これからはLANなど宅内系まで含めてワンストップで提供していかなければ、固定通信事業は伸びていかないという認識をお持ちだったと思います。
両社の認識がマッチングした結果、今回の包括提携につながったのです。
中継系サービスを中心に固定通信事業を展開してきたKDDIは、確かに宅内工事に弱みを抱えていました。多くのNIerがいる中、KDDIはユニアデックスのどこに魅力を感じたのだと思いますか。
高橋 一番はシステム構築力だと思っています。ネットワーク、サーバー、ストレージまで、すべてのエンジニアが揃っているNIerはユニアデックス以外にはおそらくいないはずです。
また、全国にサービス拠点を有している点も、大きな魅力として映ったのではないでしょうか。
NTTグループをはじめ、他のキャリアとも今まで協力関係にあったと思うのですが、何か変化はありますか。
高橋 それは以前と変わりません。今は1社ですべてを提供できるわけではありません。我々の強みを活かせる部分があるのであれば、KDDIさん以外のキャリアとも、個々のビジネスにおいてはもちろん協力し合います。
KDDIとの共同事業はこれまでなかった新しい試みなわけですが、どのくらいのビジネスになりそうですか。
高橋 KDDIさんは、回線料金を除いた売上額として2010年までに年間200億円以上を見込んでいます。当然、我々も相当大きな絵を描いています。
ネットマークスとの相乗効果
最後に、日本ユニシスが現在進めているネットマークスのTOBについて聞かせてください。ネットマークスも御社と同じNIerであり、グループ内で競合することになりませんか。
高橋 実は、ネットマークスさんとは以前から補完関係にありました。
営業力のあるネットマークスさんは、非常に大きなユーザーベースを有しています。ただし、コンピューター業界出身の当社とは異なり、サーバーやストレージの技術者はあまり擁していません。そこで我々が協力していたのです。
ネットマークスの営業力とユニアデックスの技術力―。兄弟会社となることで、今後補完関係はさらに高まり、グループ全体の収益性は一層向上していくものと期待しています。
ワイヤレスIP電話ソリューション市場の本格的な立ち上がり、KDDIとの包括提携、ネットマークスとの相乗効果と、今年は大きな飛躍が望めそうですね。
高橋 もう1つ、力を注いでいることがあります。
それは今、ユーザー企業の間で最もニーズが高い運用管理です。各種トラブルや問い合わせの統合一括窓口として、マネージドサービスセンターを江東区東雲に作り、ネットワーク監視、ヘルプデスクなどのアウトソーシングサービスを提供しています。さらには、お客様先に常駐しての運用代行も実施しています。
この運用管理サービスとワイヤレスIP電話ソリューションは、ぜひとも急成長を実現させたい。そのうえで、KDDIさんと一緒に、通信サービスとコンピューターが一体となった新しいICTソリューションを作り上げていく。それが今年の目標ですね。
(聞き手・土谷宜弘)