●通信建設工事業界の現状をどう捉えていますか。
燗 通信建設にもいくつかのジャンルがありますが、当社の主要業務である通信キャリアのインフラ建設についていえば、曲がり角に来ています。
携帯電話キャリアは、昨年度は番号ポータビリティ(MNP)があったことで、各社がかなりの設備増強を図りました。しかし、それも一段落し、将来的に「Super
3G」や「4G」のインフラがどうなるかはまだ分かりませんが、当面のインフラ整備という意味では峠を越えたと思います。
一方の固定系では、FTTHの加入者は伸びていますが、サービスを支えるネットワーク基盤の整備はほぼ完了しています。ですから工事分野的には、高い技術力を要して単価の高いものから、マンションの中の大量開通工事がメインになるというように、工事の数は増えても売上に大きく寄与するには難しい構造になっています。
つまり、固定系も携帯系も、通信キャリアのインフラ建設市場は大きな構造変化の時代に入ったと見ています。
●厳しい市場環境ですが、御社は4年連続増収増益と好調で、特に昨年度は対前年度比で大幅な増収増益を達成しました。
燗 昨年度はMNPの影響で、当社の収益の大きなウエイトを占めるNTTドコモからの工事発注が相当ありました。
当初は10月のMNP開始までの特需と受け止めていましたが、キャリア各社の競争が激しく、当社の予想に反して下期まで受注増が続きました。このため、昨年度の売上も近年では突出したのです。
しかし、先ほど述べた理由で、今年度は曲がり角に来ているといえます。MNP関連の設備投資が一段落したNTTドコモも、今年度の設備投資計画は前年度比で約2割減としています。当然、当社の売上にもかなり影響してくるでしょう。
●大きな構造変化の時代に入ったといわれましたが、通信建設工事業界としてはどういう方向に進むのでしょうか。
燗 全社が同じベクトルに向くということはないと思います。全国展開しているところもあれば、地域に根ざしている会社もあります。また、通信キャリア以外のインフラ建設に強い会社もあれば、当社のようにここ数年ITソリューション系ビジネスにも注力してきたところもあります。つまり、各社が持つコアコンピタンスとベクトルがまったく違いますので、多岐にわたっていくと見ています。
●御社はどの方向に進みますか。
燗 NTTグループのキャリアビジネスは、長年にわたる積み重ねで大きな信頼を得ていますので、引き続き信頼に応えられるよう、継続して注力していきます。
ただ、これまでのようにインフラ建設だけに留まるのではなく、もっと周辺にも分野を広げていきます。
相手があることなのでまだ具体的なことは明かせませんが、周辺といっても、すでに誰かが手掛けているビジネスに参入するという発想ではありません。NTTグループがさらに競争力をつけられるよう、当社にインフラ系だけでなく周辺も含めてフルアウトソースしてもらい、結果としてNTT側の発注コストが下がるというような提案・提言をしていきたいと考えています。
もちろん、当社が周辺ビジネスの実力をつけないと任せてはもらえないので、われわれも実力向上を図っていきます。
社内改善運動で成果
●NTTグループの設備投資が減っている状況下では、従来の業務フローの改善も必要だと思います。
燗 これは、工事の発注を受ける会社として当然のことであり、常に継続していかなければならないことです。
施工方法の改善、施工技術やツールの開発といった上流工程の改善もありますが、やはり作業現場の改善が必須です。当社は2年前から「トヨタ生産方式」を通信建設業に取り込めないかと考え、「コムシス式カイゼン」という呼称で生産性向上のための運動をかなり積極的に推進しています。
昨年度までは、現場をいくつか決めて試行的に実施してきましたが、今年度は全エリアで全社的に、例えば総務や財務部門も含んで改善運動を展開しています。コムシス式カイゼンの成果は定量化できるところまで来ましたので、今後はさらに強化していきます。
●コムシス式カイゼンで成果が出た具体例を教えて下さい。
燗 在庫回転率がかなり改善しました。無線ICタグを利用した倉庫管理システムを導入するなどして、約3カ月あった在庫回転率が1カ月を切るところまで来ました。
リアルタイムマネジメントも象徴的な成果です。われわれの工事現場は面的に広がっていますが、これらの現場を1カ所に集約している工場のようにマネジメントできる仕組みを作れないかと考えました。
そこで当社が開発した、携帯電話のカメラで画像を撮影するだけで特定のサーバーへ画像を自動的に転送するシステム「ガッテン君」を活用することにしました。
当社のマネジメントシステムの画面には工事の班単位で当日の予定が出ます。そこで各班は現場に着いたらまず写真を撮ります。撮影した写真には自動的に日時のデータが記録されてマネジメントシステムに自動送信され、画面に表示される仕組みです。各班には作業終了時や次の現場への移動直後など、変化がある度に写真を撮影するよう徹底しています。
こうすることで、面的に広がっている各現場の実態をきちんと把握したうえでリアルタイムでマネジメントができるというわけです。
(聞き手・太田智晴)
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