●2007年度上期の携帯電話販売実績は340万台と、前年同期に比べて90%近く伸びました。好業績の要因はどこにありますか。
佐相 上期は「らくらくホン」の売れ行きが好調だったことに加えて、「F904i」と「F704i」も期待どおりの台数が売れました。
富士通の端末は「個別に見るといいが、『売り』がない」と言われてきました。そこでここ数年、「メリハリ」をキーワードに商品作りをしてきました。06年2月に発売したデザイン端末「F702iD
Shosa(所作)」は、手になじむ形状や和風テイストなど、わかりやすいコンセプトに方向転換した尖兵となりました。
●らくらくホンは他社が注目していなかったシニア層に焦点を当てたマーケティングの成功といわれています。
佐相 携帯電話普及率でシニア層が空白地帯になっていたことから、この世代に話を聞き、どのような機能の優先順位が高いかを調べました。それらの機能を技術で裏づけし、プロダクトとして具現化しました。
さらにドコモ様と共同で、敬老の日や母の日などのプレゼント商品としてプロモーションを展開しました。女優の大竹しのぶさんをイメージキャラクターに起用したこともうまくいきました。
マーケテインングの4P(Product、Price、Promotion、Place)というコンセプトがありますが、技術開発とプロモーション、セグメント開発がうまく機能したことが成功につながったと思います。
●らくらくホンを手がけたことで学んだことはありますか。
佐相 いろいろありますが、その1つがセグメントの明確化、商品のわかりやすさです。
通話相手の声の速さを実際よりゆっくり聞こえるようにする話速変換技術も「ゆっくりボイス」とわかりやすく言い換えるようにしています。
先日、らくらくホンを取り上げたテレビ番組で「何の変哲もないデザインの携帯電話」と紹介されたのを見て、成功したと思いました。シニア層向けには、技術的にとんがったものより、無難なものが受け入れられるからです。
ものづくり体制を整備
●社内における開発体制も刷新されたと聞きました。
佐相 従来、プラットフォーム作りや商品企画と端末開発は組織的に分散していたのですが、開発とマーケティング、プラットフォームと各組織をきちんと分け、責任を明確化しました。
一昨年には事業部門の企画部隊と、営業部門のマーケティングを事業本部の中に統合しました。開発とマーケテイングがお互いに緊張感を持ちながら取り組むことで、しっかりしたものづくりの体制が出来上がりました。
●90xシリーズや70xシリーズでは、他社にはない先進的な機能も取り入れています。
佐相 90xシリーズではディスプレイを左右に90度傾けることで機能を呼び出したり、横画面でワンセグを視聴できる「ヨコモーション」を採用し、70xシリーズでは防水機能を搭載しています。
防水は、10人中10人が必要とする機能ではありませんが、特に女性の間ではベスト5に入るほどのニーズがあります。セグメントとしては小さいけれど、あえて挑戦したことで成功しました。
端末開発で協業を進める
●最近の携帯電話端末市場を見ると、端末機能だけでなく、デザインや操作性などもますます重視されるようになっています。富士通におけるデザインへの取り組みはどのようになっていますか。
佐相 AVやIPテレフォニー、コマース、SIP端末、モバイル業務端末など、端末の方向性はいろいろあります。その中で、デザインはコンシューマー向けとして大きな要素になります。当社は社内にデザイン研究所を持っており、外部デザイナーも起用しながら注力しています。
ただ、一般的に富士通はデザインに力を入れている会社というイメージを持たれていないことも自覚しています。指紋認証やユニバーサルデザインなどの強みを打ち出しながら、デザインとの両輪で取り組みます。
●携帯電話は高機能化が進み、メーカーにとって開発費の負担が大きくなっています。
佐相 開発コストに関しては、マネジメントが可能です。
(聞き手・土谷宜弘)
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