●2007年12月21日、見事に2.5GHz帯BWA(広帯域移動無線アクセスシステム)の免許を取得されました。モバイルWiMAXによる、オープン性の高いワイヤレスブロードバンドネットワークの構築が期待されています。
田中 我々は「Broadband always with you」という経営ビジョンを掲げており、4つの「ANY」を実現する事業モデルを目指しています。携帯電話の場合、「Anytime」(いつでも)、「Anywhere」(どこでも)、「Anyone」(誰でも)の3つのANYがある程度実現できていますが、我々ワイヤレスブロードバンド企画では、携帯電話の10倍の速度のブロードバンドの世界で、これに「Any
Device」(どんな機器でも)を加えて実現するつもりです。
WiMAXの世界では、端末は基本的にオープンベースのものになり、さまざまなメーカーから特徴のある端末が登場してきます。さらに、常に端末がネットワークに繋がっている「常時接続」での利用が基本となります。
現在、携帯電話でもPC向けデータ通信カードは多く発売されています。しかし、ユーザーに広く受け入れられているかというと必ずしもそうではありません。法人で言えば、3Gのデータ通信速度はストレスなく仕事を行えるレベルに届いていませんし、個人も、例えばYouTubeなどの動画コンテンツを、自由に安く広い範囲で使えるようになっているかといえば、そうではありません。
当社は、本当に快適なワイヤレスブロードバンドの世界をモバイルWiMAXで可能にしたいと思っています。
●当初はPC向けデータ通信ユーザーをコア領域としていく計画ですね。
田中 はい。まずはいわゆるアーリーアダプターと呼ばれるアクティブなPCユーザーがターゲットです。しかし、PCはまだ持ち運ぶには大きく、重く、外出先で使うのにユーザーフレンドリーであるとは言えません。
そこで、株主でもあるインテルが提案しているUMPC(Ultra-Mobile PC)やMID(Mobile Internet Device)にも並行して取り組みます。
UMPCとは、PCと同じOSを使用し、どちらかというと企業ユーザーのモバイルユースに最適化された、省電力でありながらPCとまったく同じことができる小型PCのこと。
MIDとは、小型化されたモバイルインターネット専用端末のことを指します。スマートフォンとの違いは、インターネット端末としての能力の差です。スマートフォンではPCとまったく同じように閲覧できるサイトは非常に限定されますし、画像系のアプリケーションを利用しようとしてもうまく動かない場合があります。MIDはPCと同じような処理能力を持ち、フルにインターネットが利用でき、省電力にも優れた端末です。
現在、スマートフォンに対して「何かが違う」と感じているユーザーは多いのではないでしょうか。私は、PCにデータ通信カードを挿して利用する市場と携帯電話がカバーする市場との間がぽっかりと開いてしまっていて、その隙間を埋めるのがUMPCとMIDと思っています。
これらのデバイスもWiMAXの商用時には発売される予定です。つまり、09年の夏ですね。前述したようにオープンなビジネスモデルということですので、我々のブランドではなく、各メーカーから発売される形になると思います。
もちろん、データ通信カードのような当初のコアとなる製品も我々から提供していく予定です。
●PC領域だけでなく、広告やテレマティクス、情報家電などのアドオン領域をはじめとした新しい市場開拓に対する期待も大きいと思います。
田中 PC領域以外の方面でもすでに皆様は幅広くご興味を持っていらっしゃるようです。まだ免許を頂いたばかりで、これから会社を作る段階にも関わらず、デバイスメーカー、SIベンダーをはじめ、BtoBtoCとしてWiMAXを使いたい企業など多様な企業からお問い合わせを頂いています。その反響の大きさに我々自身も驚いています。
内容としては、やはり従来は有線でしかできなかったことをワイヤレスで置き換えたいという相談が多いです。おそらく、これまでもワイヤレスでやりたいことがたくさんあったのにそれを可能にする手段がなかった。3Gでは実現できなかったということではないでしょうか。
常時接続でADSL並みのスピードが出て、安価で定額を実現するモバイルWiMAXならばそれを可能にできるというわけです。ワイヤレスブロードバンドの市場の幅広さを、免許認定後に改めて実感しています。
●世間では「3.9Gや4Gといった既存の携帯電話の延長のデータ通信と何が違うのか」という疑問の声も聞こえてきますが、まったく別物と考えるべきなのですね。
田中 はい。モバイルWiMAXを、ただ携帯電話より早いデータ通信ネットワークと捉えては見誤るのではないでしょうか。
例えば、携帯電話は当初、固定電話を外でも使いたいという発想から生まれましたが、今では、メールやインターネット、カメラ、おサイフなど、初期の頃からは考えもつかない機能を持ち、発展を遂げています。WiMAX市場も、きっと我々の想像を超えた広がりを見せていくと思っています。
我々は、PCをワイヤレスで利用する市場が我々のビジネスのコア領域であると考え、そこでかなりのビジネスを期待して事業プランを作ったのですが、最近は、我々より世間の方々のほうがもっと色んな使い方の発想を持たれているんじゃないかと感じています。我々は、本当に新たな市場を切り拓く覚悟でWiMAXに取り組みますし、新たな市場の存在を確信しています。
(聞き手・土谷宜弘)
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