●基本料980円の「ホワイトプラン」が牽引役となり、13カ月連続で携帯電話の純増数トップを獲得するなど好調です。一方で、他社も通話無料や端末の割賦販売を導入し、料金面では横並びになりつつある印象です。今後、ソフトバンクの強みをどのように出していくのでしょうか。
松本 家族や法人などの限定条件がない自網内無料はまだ他社は追随出来ていませんよね。はっきり言って追随し辛いのだと思います。
我々の強みは、ドコモやauに比べてシェアが小さいことです。料金を下げて既存顧客からの収入は減っても、それ以上の加入者を獲得できれば得るものの方が大きい。一方でドコモやauは、料金を下げると失うものが大きく、シェアも十分大きいため得るものが少ない。つまり、我々のいろんな施策すべてに彼らが追随することは現実的に難しいわけです。今後もユーザーの声を聞き、シェアが低いからこそできる効果的な施策を追求していきます。
●端末の割賦販売を開始してからこの夏で2年が経ち、乗り換えを検討するユーザーも出てくると思います。これを期に顧客囲い込みへ比重を移すなど姿勢の変更はありますか。
松本 攻めの姿勢に変更はありません。我々の目標は「業界トップに立つ」ことですから、まずはシェアを増やして事業者格差を埋めていく路線はまだまだ継続します。もちろん、既存のユーザーをないがしろにするという意味ではないですよ。攻めに忙しくて守りがガタガタでは意味がありませんから、既存顧客に対するサポートもきっちり進めていきます。
●小口法人を中心とした法人向け契約が好調だと聞いています。法人戦略についてお聞かせ下さい。
松本 法人の重要度がこれから増すことは明らかですし、我々も当然力を入れていきます。一口に法人と言っても、IT意識が高くソリューションを求めるところ、電話だけでいいところ、大規模や小規模などさまざまなセグメントに分かれます。
大規模企業に関しては販売代理店とのパートナーシップで展開し、小口契約はソフトバンクショップを中心にすくい上げていきます。
ソリューションは、基本的にソフトバンクモバイル、ソフトバンクテレコム、ソフトバンクBBの通信3社で展開します。私がソフトバンクに来て驚いたのは、グループで取り扱っている素材の豊富さです。本当にいろんなことをやっているんですよ。文化も違うためインテグレートするのは大変ですが、素材の多さから、法人向けポテンシャルはソフトバンクグループが一番高いと思います。
“技”を取り揃える
●この4月、5月にかけてソフトバンクモバイルでは3件の通信障害が発生し、総務省から行政指導を受けました。加入者の急増で増加するトラフィックをネットワークは支えきれるのでしょうか。
松本 その際はユーザーにご迷惑をおかけしました。通信設備に持たせている二重化構造の部分でメーカーの作り方に問題があり、不幸にしてそれが同時期に違う箇所で出てしまったということです。決してトラフィックが増えすぎてネットワークが支えきれなかったというわけではありません。
トラフィック処理は非常に難しい問題で、音声とデータを切り分けて考える必要があります。音声は長年の経験から、加入者増や料金の変化によるトラフィックの変化はある程度読むことができる。それにきめ細かく対応していけばいいだけの話です。問題の本質はデータにあります。データのトラフィックはいきなり10倍や100倍になる可能性がある。しかもその変化はユーザーの行動の変化や新サービスの登場がきっかけとなり、いつ起こるかわからない。これは我々だけでなく他社も心配している問題でしょう。しかし、我々は元々インターネットからきた会社です。インターネットのトラフィックパターンをある程度理解しているという強みがあります。
●データのトラフィックという点では、LTEやWiMAXといったネットワークの高速化が現実論になってきました。ソフトバンクは高速化に関してどういう戦略ですか。
松本 もちろん我々も高速化のロードマップは持っていますし、最適のタイミングで導入していきます。ですが、皆さんに申し上げたいのは「高速化」という言葉だけに注目して、最大通信速度ばかりを話題にするのをやめて頂きたいということです。
世間ではよく「3.9G、4Gの時代になれば、自宅でPCでやっていることがすべてモバイルで出来るようになる」などと言われます。しかし、周波数という無線のリソースは限られているわけですから、あくまで出来ることが近づいていくという意味であり、PCと携帯電話で本質的にまったく同じことを実現するのは難しいのです。高速化ももちろん重要ですが、それだけではネットワークの問題は解決できません。
それではどうするか。私は、今後のネットワーク拡充のキーワードは“合わせ技”だと言っています。マクロセルの基地局を増設する、周波数を多く利用するといった“力技”ももちろん重要ですが、一方で発想の転換や新技術など多くの“技”を取り揃えなければなりません。どっちが重要ということではなく、それらの“合わせ技”が鍵なのです。
(聞き手・土谷宜弘)
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