●IP化による市場環境の変化に対応した競争ルールを整備すべく、これまで数々の施策を行ってきたわけですが、まず情報通信政策と通信市場の現状について、どのように評価していますか。
寺 ネットワークサービスについてはブロードバンド、特に光が著しく普及しました。技術の進歩とともに着実な進展を遂げています。料金についても競争政策の成果により、非常に安価で良質なサービスを利用できます。
これまで「新競争促進プログラム2010」に基づくさまざまな施策を打ち出してきましたが、関係者の皆様にもご理解をいただいて、政策的にも上手く進められていると思います。
NGNについても、接続ルール・光ファイバー接続料の問題などの課題がありましたが、とりあえずすべり出すことができました。正直に言って“ほっとしている”ところでもあります。
全般的に見て、国内の通信市場は概ね良好に推移してきていると言えるでしょう。
●課題として重要視している点は何でしょうか。
寺 まず、これまで勢いよく伸びてきた移動体通信市場が大きな変革期を迎えている点が挙げられます。端末数が1億台を突破し、“伸びの時代”から、今後は“質の時代”に変わります。政策的にも新たな取り組みが必要になるでしょう。
また、ICT国際競争力強化の側面から我が国の情報通信市場を捉えるという視点が、やはり必要になります。
「3.9Gは移動体通信版のNGN」
●固定通信市場ではNGNがいよいよスタートして、IPネットワークへの移行が本格的に始まります。同時に移動体通信市場も大きく変化する。新たな視点と戦略が求められているのは確かです。
寺 これまでもIP系のサービスは数多く出てきましたが、NGNの登場によりIPへの移行が本格化します。
その一方で、移動体通信でも2010年頃を目処に3.9Gの導入が進んでいきますが、その中身はNGNと同様、ネットワークのIP化です。3.9G導入は携帯電話ネットワークのIP化、「移動体通信版のNGN」として捉えています。
今後の携帯電話ネットワークの進展をこのように想定していますが(図表)、最終的に3.9Gと4Gの二層構造になります。その時点では、既存の800MHz帯や2GHz帯などはすべて3.9Gに置き換わり、すべてがIP化することになります。
固定通信市場におけるNGNのスタートと時期をほぼ同じくして、移動通信市場では3.9G導入の検討が進んでいます。幸いに、1.5GHz帯という空き地も準備できました。
現状は、固定・移動ともにIP化に向けてのスタートラインに立っている状況と言うことができます。
●2020年代までの長いスパンでネットワークの進展を考えた場合、3.9G導入は大変重要な意味を持つということですね。
寺 ポイントは2つあります。
1つは、携帯電話ネットワークのIP化において非常に重要な位置付けを持ったネットワークであるということです。「3.9」などという名称のお陰で過渡的な位置づけのように感じられますが、4Gとの二層構造において3.9Gは移動体通信のベースとなるものです。
使用する周波数帯は、3.9Gまではだいたい2GHz以下になると思いますが、4Gでは3GHz帯の高周波数帯を使う見込みです。その場合、ビル陰の影響などを大きく受けるため、4Gのエリアカバーの方法は、当面の間、所々につながらないエリアが出てくる「レンコン型」のような形態になると思います。3Gのように完全にエリア内をカバーする形にはならないでしょう。
ですから、おそらくは3.9Gが全体をカバーし、より高速なサービスを求める利用者が4Gを使うというように、状況に応じてサービスを使い分ける形になるのではないかと考えています。その意味で、3.9Gの位置付けは大変重要なのです。
また、もう1つの視点として、3.9G導入は国内のベンダーが海外に進出する機会とも捉えています。
●3G導入時にも、日本企業が世界に出て行こうという機運が高まりました。不首尾に終わりましたが、3.9Gは再挑戦の機会とも言えますね。
(聞き手・土谷宜弘)
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