●社長就任に当たりどのような方針を立て、また社員にはどのようなメッセージを発したのでしょうか。
宮野 青木前社長の体制下で進めてきた路線から大きく変わることはありません。当社の強みである機動力を活かして、市場ニーズに対してスピーディーにかつきめ細かく対応する。そうした基本方針は踏襲していきたいと考えています。
ただし、いくつか取り組むべき課題があります。
まず第一に、海外進出が重要なテーマになります。これが私にとって一番大きな課題だと考えています。
社員にも「グローバルな視点を持とう」ということを伝えました。現在の国内事業を磐石化しつつ、さらに海外に出て行こうということを強調しました。海外で厳しい競争にさらされることが、当社の技術力・開発力・ソリューション提案力を鍛え、その結果として国内のお客様のお役に立てる、と考えるからです。
国内で事業を展開するうえでも、常にグローバルな視点を持つことが必要です。国内ユーザーの声を反映した製品を作ることは非常に重要ですが、それだけではグローバルネットワークを希望するお客様の要望を満たすことはできません。グローバルな視点がなければ、いずれ国内事業も厳しくなるでしょう。当社が強みを持つ光アクセスや光トランスポートの分野で積極的に海外展開を進めていきます。
そして第二に、日立グループ全体のパワーを今後の事業展開にどう活かしていくかという点も、大きなテーマになります。今まではどちらかと言えば「日立コミュニケーションテクノロジー単独で頑張ろう」というところがありました。ですが、日立の真価はグループのトータルパワーにこそあります。これを活かすことも重要な課題だと思っています。
●「日立の総合力を発揮する」という点は、日立製作所の古川社長も就任以来、強調されているところです。
宮野 通信ネットワーク事業においてもその方向性は変わりません。
通信ネットワーク事業は基幹ネットワークからPBXやビジネスホンまで全領域で展開しています。それらを有機的に結合していきたい。従来は箱ものの開発に偏っていましたが、今後はより広い市場ニーズに応えるためのソリューション開発に注力していきたいと考えています。
NGN本格化に向けて悲観なし
●通信市場は大きな転換点を迎えています。固定通信市場が数年来苦境にあり、移動体通信市場も成熟化という曲がり角にあります。この現況をどのように捉えていますか。
宮野 通信市場に閉塞感があるという見方もありますが、NTTグループのNGNがスタートしたことで、今後市場は大きく変化していきます。もちろん、一気に市場が盛り上がるというものではありませんが、やはり今後の市場動向を見るうえでNGNは重要なキーワードになります。
ネットワークのIP化はこれまでも進められてきましたが、ユーザーが享受していたメリットは、どちらかといえば通信コストの低減ばかりに終始していたと言えるでしょう。
一方、今後セキュアなIPネットワークが整備されていくと、もっと積極的にネットワークを活用しようというニーズが育ってきます。それに応えていくのが日立の課題でもあり、ビジネスチャンスでもあるのです。「閉塞する市場」というよりは大きなチャンスを前にしているというイメージで現状を捉えています。
●決して悲観するばかりでなく、NGNへの大きな期待をもっているということですね。
宮野 今までと同じ考え方で市場を見ていては、確かに成長は期待できないでしょう。“今までの考え”というのは、単なる箱もののビジネスに基づいたマーケットの捉え方という意味です。
そうではなく、製品に付加価値をもたらすソリューションを開発していくことで、成長につなげられると期待しています。
●今年1月に日立製作所から2010年度に向けたNGN事業戦略が発表されました。その中では、(1)サービス提供基盤(SDP)を従来の通信キャリアに加え、ビジネス、ライフ・コミュニティ分野へも展開していくこと、並びに(2)企業ネットワーク製品のNGN対応、(3)キャリアNGNを支えるアクセストランスポート製品のグローバル展開の3つが重点事業に挙げられています。日立グループのNGN戦略の中で日立コミュニケーションテクノロジーが果たす役割はどのようなものになるのでしょうか。
宮野 SDPの構築、ミドルウェアの開発は日立製作所のネットワークソリューショングループが行い、私どもはそれを支えるインフラの構築を主に担います。さらにその中で、ビジュアルコミュニケーションの分野にも注力し、通信機器・ソフトウェアの開発も含めてソリューションを進化させていきます。
映像系のサービスには、特に期待しています。最近はビデオ会議システムなどもずいぶん普及していますが、単に「会議」という目的に留まらず、ブロードバンドの利点を活かした新しい映像の使い方が出てくるはずです。また、ネットワークが広がり、多くの場所をつなげることでも新たなソリューションが必要になってくる。そうした、サービスを発展させる役割を当社が担っていこうと考えています。
また、販売戦略についても新しい取り組みを考えています。
当社はPBXやビジネスホンなどのお客様を多く持っています。一方、日立グループ全体で見れば、実にさまざまな業種にわたるお客様と取引しています。これらの関係を活かして、今まで取引のなかったお客様にもネットワークの新たな使い方を提案していく。そうした形で販売の間口を広げていきたいですね。
(聞き手・土谷宜弘)
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