●NGN(次世代ネットワーク)は業界の高い関心を集めていましたが、3月末の商用サービスが「スモールスタート」だったこともあり、やや存在感が薄いように感じます。
江部 フルIPのネットワークは、ソフトウェアで動くものなので、予期せぬバグが発生することを、ある程度覚悟せざるを得ません。このため、思い切って一気に展開するという方法は採りにくかったのが実情です。
また、ネットワークは線ではなく、面的に拡がっていないとユーザーにとって使い勝手はよくありません。NGNは電話の世界とは違って、コンテンツプロバイダーなど、いろいろなプレーヤーが係わっています。彼らにとっても、面的にある程度の規模で拡がっていないと、ビジネスになりにくいのです。
さらに、オペレーションの問題もありました。例えば「フレッツ 光ネクスト」をお申し込みいただいたお客様に対して、「Bフレッツ」と同程度の期間で開通させるには、それなりの体制を整えなければなりません。
こうした準備期間が必要だったために、スモールスタートという選択をしたのです。
●NGNのエリア展開については、東西会社とも2010年度に現在のBフレッツ、フレッツ光と同等にまで整備すると宣言しました。
江部 東日本会社としては、既存の地域IP網との二重投資を避ける意味でも、可能な限り早く展開したほうがよいと考えています。
具体的には、計画を1年前倒して、09年度中にはエリア展開を終えたいと思っています。
この7月から、本格的にエリア拡張を開始しましたが、今のところ予定通り順調にきており、今後の手応えも感じています。
ひかり電話はPSTNと同等に
●エリアが整備されれば、次はNGN普及のための取り組みが重要になります。サービス面では何が牽引すると考えていますか。
江部 個人向けのサービスではまず、「ひかり電話」が挙げられます。今回はNGNの信頼性に加え、輻輳時のトラフィック制御など、NTTが長年培ってきた電話のノウハウを移植して作り込んでいますので、従来のひかり電話と比べて信頼性は随分高まっており、PSTN(公衆電話網)にかなり近づいたレベルでのサービス提供が可能になるでしょう。
●映像系のサービスへの期待も大きいです。
江部 9月14日付けで、東西合計で光の契約数が1000万件を超えましたが、高速アクセス網を持つお客様がそれだけいるということは、市場にとって大きな意味を持ちます。
インターネット上のコンテンツも、映画などの動画配信サービスだけでなく、企業の広告も動画が出てくるようになり、容量がどんどん大きくなってきています。今後「やはりアクセス網は光だ」という流れはますます加速するでしょう。
また、リアルタイムコミュニケーションも、電話に代表される音声だけのものだけでなく、映像コミュニケーションも選択肢に入ってきています。
このような時代にネットワークに求められるのは「一旦繋がったら絶対に途切れない」信頼性です。NGNはそのための機能を有していますので、NGN上での映像系サービスは、今後の個人向け市場でも極めて有望だと思っています。
●付加サービスについてはどのように考えていますか。御社はNTTドコモとの一体営業はできませんが、他社は「FMC」(Fixed Mobile Convergence)に注力し始めています。
江部 今、競合他社が進めているのは、単なる固定電話と携帯電話の割引サービスであり、FMCとはいえないと思っています。
確かに当社は法律上難しいという事情はありますが、例えば公衆無線LANサービスの「フレッツ・スポット」は、フレッツユーザーに外出先でもインターネット接続サービスを提供できるという意味でFMCだと考えています。現在の課題は利用スポットを探し難い点で、それを解決するサービスの提供が必要と捉えています。
このように、いろいろな方法でFMCサービスを提供することが可能なので、それを考えていきます。
付加サービスの充実という意味では、光はポテンシャルとしてかなり能力のあるアクセスラインですが、現状はまだまだその能力を100%活かし切っているとはいえませんので、そういう新しいサービスをどんどん投入していく方針です。
(聞き手・土谷宜弘)
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