●昨年11月に日本法人社長に就任してから間もなく1年ですが、日本のICT市場の現状について、どのような感想を持っていますか。
オーバービーク コンシューマーとB2Bの2つの観点から見てきましたが、興味深いのは新しいテクノロジーに対する姿勢が、この両者で大きく異なることです。
日本のコンシューマーは、新しいテクノロジーに世界でも最も積極的です。一方、企業はというと、中レベル程度に留まっているのが現状です。しかも面白いのは、同じ人間でもプライベートのときと仕事のときでは異なること。個人としては大変積極的なのに、オフィスの中に入ると突然そうでもなくなります。
●とてもよく分かります(笑)。
オーバービーク しかしながら最近、B2Bについて前向きな変化が見られるようになりました。理由はいくつかあります。
まずは、グローバル化の波が日本経済に訪れていることです。中国、欧州、米国などで起きている変化を国内にも持ち込もうというトレンドが見られます。
2番目は、「ビジネスアーキテクチャを変えなければならない」という危機意識の高まりです。国内およびグローバル市場で競争優位性を確保していくには、Web2.0やクラウドコンピューティング、SaaSといった新しいモデルが不可欠です。
3番目は、先進的なSMB(中小企業)の影響です。先ほど日本のコンシューマーは積極的に新しいテクノロジーを導入するという話をしましたが、これは一部のSMBについても言うことができます。Web2.0アプリケーションを取り入れたSMBに、大手・中堅企業が影響を受けるということがすでに起きています。
●Web2.0やクラウドコンピューティングなどのキーワードに象徴される新しいICTソリューションの導入が、日本でも活発になりつつあるわけですね。しかし、その本格化には、まだ時間がかかりそうな気もするのですが。
オーバービーク 失礼ながら、私の意見はちょっと違います。
古い世界から新しい世界にどう変革していけばいいのか――。確かに、そのやり方について迷っている企業は多いと思います。しかし、多くの日本の方とお話しするなかで、私はあることに気付きました。
世界のさまざまな国でビジネスを経験してきましたが、日本企業は結論を出すまでには少し時間がかかる傾向があるものの、一度結論を出すと、そこからの実行・展開というのは、ものすごく早いのです。
ご存知の通り、シスコはたくさんのパートナーとエコシステムを築きながら事業を展開してきましたが、日本企業の抱えるニーズに応えるため、国内の複数の大手ベンダーと戦略的アライアンスに関する話し合いを進めています。具体的な内容は近く発表できると思いますが、大企業にもSMBにも、きちんとしたソリューションをデリバリーできるベースができつつあります。ですから、「これはいける」と私は自信を持っています。
APIがさらに活用しやすく
●ビジネスアーキテクチャを変革するためのソリューションの1つとして、ユニファイドコミュニケーション(UC)を以前から提案してきましたが、改めてシスコのUCの特徴について教えてください。
オーバービーク シスコは「The Net- work As The Platform」というビジョンのもと、「プラットフォーム」という切り口でUCに取り組んでいる点が競合他社とは異なります。シスコの場合、1つの水平的なプラットフォームの上で、メールやインスタントメッセージ、プレゼンス、ビデオ会議などのアプリケーションを実現しています。ですから、ネットワークの上に縦割りでアプリケーションを載せるというやり方では難しいことも簡単に行えます。
●具体的には、どんなことですか。
オーバービーク 例えば、携帯電話で通話していたが、オフィスに到着したのでビデオ会議に切り替えたいというシーンを思い浮かべてください。こんなときは、携帯電話の接続を一度切り、それからビデオ会議を立ち上げるという形を通常は取ると思います。しかしシスコなら違います。通話中の電話をPCやビデオ会議システムなどに転送すれば、その新しいデバイスに合わせて自動的にスケールアップ/スケールダウンするのです。
また、こんなことも可能です。今度は携帯電話でプレゼン資料をダウンロードしながら、自分のデスクに戻ってきたとします。すると、その人がデスクに戻ってきたことを位置情報で知ったシステム側が「今、携帯電話でダウンロード中のプレゼン資料をどうしますか。PCで見ますか」と聞いてきます。そこで「はい」と答えれば、シームレスに携帯電話からPCへと転送されるのです。
(聞き手・土谷宜弘)
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