●今年6月、クアルコムのバイス・プレジデント兼クアルコムジャパンの社長に就任されました。そのいきさつを教えてください。
真野 大学卒業後、京セラに入社し、海外営業やコーポレート・ベンチャーキャピタル事業、M&Aなどに携わってきました。2000年に京セラがクアルコムの北米の携帯端末事業を買収してKyocera Wirelessになると副社長として現地に出向し、03年から社長を務めました。
06年半ばに日本に戻ったところ、携帯電話市場の閉鎖性を痛感し、これまでの経験を元にグローバルに事業を展開したいと思いました。その後、クアルコムから「日本市場の事業拡大に力を貸してほしい」と誘われ、移ることを決めました。
●実際に入社してみて、どのような印象を持ちましたか。
真野 京セラは買収後も北米のクアルコムのオフィスや従業員をそのまま引き継いでいたので、その意味ではクアルコムのことをよく理解しています。急成長を遂げ、まだまだベンチャー体質が残っている会社という印象です。
●山田純会長との役割分担はどうなっていますか。
真野 私は半導体部門を中心に、BREWやその他の事業運営に取り組んでいきます。山田会長は技術・製品動向、日本市場における新事業を担当します。一緒に経営に携わるような形になると考えています。
マルチモードチップが強み
●KDDIの小野寺正社長は先日の記者会見で、3.9Gについて「実質的にはLTEだと思ってもらっていい」と発言しました。クアルコムはUMBの開発を主導してきましたが、密接な関係にあるKDDIがLTEを選択することをどう思われますか。
真野 もともと当社はCDMAの技術を開発し事業を展開してきたので、CDMA2000を拡張したRev.AやRev.B、その先にあるUMBを伸ばしていきたいという気持ちはあります。しかし、半導体の事業としては、どちらの方向に進もうともまったく問題はありません。CDMA2000に活用したCDMA技術はW-CDMAの世界でも使われており、HSUPAやHSPA+でも当社の半導体は完全に先行しています。またLTEに関しては、UMBと同じOFDMA技術で開発は順調に進んでおり、端末向けのチップセット「MDM9000」シリーズを発表しています。
KDDIやその他の事業者がどちらの方向に進もうと、LTEと既存ネットワークのどちらにも対応するマルチモードチップを供給できることが当社の強みです。
いずれにしろ、当社ほどワイヤレスのモデムやインテグレーション、マルチモードの研究開発に投資している企業は他になく、LTEになっても先行していけると確信しています。
●ソフトバンクモバイルの松本徹三副社長は、次世代規格にHSDPAの次のステップでコスト面の負担が少ないHSPA+を採用する見通しを明らかにしています。
真野 HSPA+ではハチソン3G等と一緒にトライアルを実施するなど積極的に取り組んでいます。既存の3Gシステムと互換性があるHSPA+は、互換性のないLTEを選択するよりも投資効率の面で有利だと思います。
現在のところLTEに関する議論が目立ちますが、ネットワークのカバレッジなども含めてかなり長い間、3Gの拡張路線になると予想しています。しばらくはHSPA+とLTEが混在した形が続くのではないでしょうか。
●国内の携帯電話市場は販売台数が急に落ち込んでいます。端末メーカーにチップセットを供給する立場であるクアルコムも影響を受けるのではありませんか。
真野 これまでは通信事業者が独自のプラットフォームで独自のサービスを提供し、端末に新しい機能をどんどん搭載してきました。こうしたハイエンド端末を販売奨励金で安い価格で販売し、ARPUで回収していました。ところが、新販売方式の影響やARPUの低下からビジネスモデルが崩れています。
短期的には我々もしんどいところがありますが、“産みの苦しみ”のようなものではないかと思っています。
というのも、米国ではスマートフォンの需要が驚くほど伸びており、新規加入者の中でも大きな割合を占めています。タッチスクリーンやQWERTYキーボードを搭載した端末など、数年前には想像もできませんでした。それが今では、アップル「iPhone」やグーグルのAndroidを搭載した「T-Mobile G1」、RIM「BlackBerry」などが発売されています。また、国内では家電にモデムを付けたデジタルフォトフレームのような製品も人気が高まっています。
携帯電話だけでなく、デジタルデバイスも含めた2台目需要が期待できるので、長期的には悲観する必要はないと思います。
(聞き手・土谷宜弘)
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