●景気の先行き不透明感や新販売方式の影響により、端末の売れ行きが落ち込んでいます。現在の携帯電話市場についてどのように見ていますか。
富田 マスコミを中心に、市場がシュリンクして年間の端末出荷台数が4000万台を切るかどうかで大騒ぎしていますが、私は現状を悲観的に捉えていません。むしろ孫(正義社長)が唱えているように、「iPhone
3G」が発売された2008年は「モバイルインターネットマシン元年」という節目の年になると思います。
私はかつてNECでPCを担当していましたが、1980年代前半から90年代頃のPCはネットワークにつながらないスタンドアローンで、ワープロと表計算、データベースが「3種の神器」と呼ばれていました。その後、マイクロソフトの「Windows
95」が登場するとPCは事務便利機からインターネットマシンになり、世の中が様変わりしました。普及率もそれまでは30%程度だったのが急速に広まり、オフィスにも家庭にも1台はあるようになりました。
携帯電話に置き換えてみると、自動車電話に始まり、「もしもし、はいはい」のいわゆる音声通信を経て、インターネットマシンへと変わろうとしています。
これまでにもPCライクな「BlackBerry」やPDAなどはありましたが、CPUや回線速度の問題から普及が限られていました。ようやくインフラが整い高速化したことで、まさに音声通話主体の「携帯電話」から、モバイルインターネットマシンとしての「ケータイ」へと変貌を遂げようとしています。「もしもし、はいはい」機としての市場は成熟しましたが、「インターネットマシン」機としての市場はこれからです。
期間拘束付きの料金プランによる買い替えサイクルの長期化が原因で、携帯電話が売れなくなっているという見方もありますが、もっと長い目で見ると、時代の変わり目でいったん市場が停滞しているに過ぎないと思います。
●つまり、iPhoneのようにインターネットをメインで利用する端末がこれからの携帯電話市場を牽引するということですね。
富田 世界的に見ても、ハードウェアの雄でありPCやインターネットを牽引してきたIBMがPC事業を中国メーカーに売却しました。ソフトウェアの雄であるマイクロソフトはビル・ゲイツ氏が引退しました。さらにアップルのCEOであるスティーブ・ジョブズ氏は、PCから音楽を経て、今は携帯電話に関心の軸足が移っているようです。
これまで世界の英知がPCに集まっていましたが、もはやインターネットの中核はPCから携帯電話に移ったといえるのではないでしょうか。
インテルの共同創業者であるゴードン・ムーア氏の「ムーアの法則」によると、半導体の進化は2017年で止まるそうです。
しかし見方を変えれば、今後10年間は進化し続けるということであり、それをベースにしたハードウェアの上に載るソフトウェアやサービス、コンテンツもさらに発展することを意味します。携帯電話もモバイルインターネットマシンとしてまだまだ進化していくはずです。
iPhoneはインターネットマシンとして現時点で最も完成度が高い製品ですが、その1号機にすぎません。他社が本格的に追いつくまでにまだ時間がかかりますが、“iPhoneライク”な商品は09年前半には多く出てくるでしょう。携帯電話は本格的に新しい時代に向かうと思います。
●とはいえ、携帯電話の加入者は1億を超えており、市場が飽和しつつあることは否めません。
富田 携帯電話の利用はコンシューマーが大半ですが、法人利用は約10%にすぎず、法人市場が活性化しています。コンシューマー市場では音声通信は飽和している印象もありますが、企業向けでは「もしもし、はいはい」でもまだマーケットが存在し、さらにインターネットマシンとして法人市場に入れば、今持ち歩いているノートPCの代わりになり、いっそう普及します。
携帯電話は画面サイズが大きくなっており、機能も向上しています。PCがなくなることはありませんが、PCに置き換わる可能性は十分あります。私は出張でもPCは持たず、iPhoneだけなんですよ。
携帯電話は説明商品に
●携帯電話が「もしもし、はいはい」から「インターネットマシン」に変化すると、携帯電話販売店のあり方も変わってくるのでしょうか。
富田 携帯電話がインターネットマシンになると、端末と料金体系だけでなく、それを使って何ができるのか、という点までじっくりお客様に説明しなければならない「説明商品」になります。
販売店では今後、インターネットマシンを販売するとはどういうことなのか、従来の携帯電話を扱うのとはどこが違うのかを考え、変革していくことが求められます。今までと同じように、お客様の個人認証をし端末を並べて料金体系を説明しているだけでは発展がないでしょう。
(聞き手・土谷宜弘)
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