●SaaS/クラウドコンピューティングが企業に与える最も大きな変化とは何でしょうか。
宇陀 一言で言えば、スピードとコスト、そしてクオリティが大きく変わるということです。今までできなかったことが、非常に短期間かつ低コストでできるようになります。
従来のシステムとSaaSとで、なぜスピードが違うのか。それは「簡単に直せる」からです。
今までのITは、いったん作ったものを後で直すにはコストもかかり、非常に大変です。そのため開発も慎重に進めていかざるを得ません。
一方、我々のサービスはすでに百数十万人のお客様に使われており、お客様からの数多くの要求に応えるため、年に3回、これまでの9年間で27回のバージョンアップを繰り返してきました。つまり、大抵の機能はすでに網羅されており、利用開始後に「これが必要だった」となっても、ものの5分で機能を追加できます。
だから「とりあえずここからやろう」という形でスタートできる。そこが最も大きな違いですね。
●企業にとってITがさらに身近なものになりますね。
宇陀 今までは、ITを使って何か新しいことができると思い付いても、システムベンダーに見積りを頼んで、稟議プロセスを踏んで契約して、その後ようやく開発と、数カ月もの期間がかかっていました。負担が大きすぎるために実現できないことも多かったでしょう。
他の分野で、そういったことがあるでしょうか。テレビを見るために電気をどうしようかなと考える人はいません。行きたい場所にもクルマや電車ですぐに行けます。でも、ITではまだ、考えた挙句に止めてしまうということが多い。情報を集めて新しいことを考え、思い付きをすんなりと実行できるようになっていけば、ITをもっとビジネスに活かすことができます。
ITもこれまで、その時代ごとに大きく貢献してきました。しかし、ブロードバンドが普及し、コンシューマーWebの世界で技術が大きく進化したことで、これからの法人のITは、まさにガラっと変わるでしょう。
「大不況」も追い風
●SaaSのほうが優れているとなると、今後、ほとんどの企業向けアプリケーションはクラウド側に移行していくのでしょうか。
宇陀 すべてのアプリケーションについてクラウドのほうがいいとは言いません。ですが、かなりの部分は移行していくでしょう。
従来の“手作り”のシステムの良さは否定しませんが、こう考えてはどうでしょうか。自家用車を持っている人も、移動にはタクシーや電車などさまざまな手段を使います。
それと同様に、すでに社会基盤になりつつあるITも、より賢く使うための選択をすることが重要です。
●クラウドへの移行は、どのくらいのスピードで進展していくと考えていますか。
宇陀 技術的、経済的な要素から「こっちのほうがいい」と判断しても、心理的になかなか移行できないことがあります。だから、移行は緩やかに進んでいくと考えていましたが、最近、大きな変化が見られます。
経済の大混乱で、どの企業もコストリダクションを厳しく追及するようになり、その中で、新しい選択肢も検討すべきだという会社が圧倒的に増えてきました。
先日もあるお客様から「コスト削減のためなら、何でも提案を受ける」と言われました。従来のシステムベンダーに相談すれば「それでは、値段をもう少し下げましょう」と対応してくれるでしょうが、そのレベルでは要求を満たせないというのです。まったく新しいモデル、テクノロジーで現状を変える必要があると。
現在の企業が抱えている課題は、もう「10%下げます」では対応できないものだということです。コストを2分の1、3分の1にできるようなアイデアが求められているのです。
そのような発想が広がっていくことで、我々にとってチャンスが出てくると思っています。
●ユーザーの意識も大きく変化しているということですね。では、現在までの国内でのSalesforce
CRMの導入状況を教えてください。
宇陀 海外と比較しても、過去数年間、日本のほうが伸び率が高くなっています。実は、ちょっと日本では難しいかなとも思っていたのですが、大手企業のお客様にもすんなり採用していただき、安心感が広がったことが大きかったですね。
日本のマーケットの特徴は、まず各業種のリーディングカンパニーが導入し、そこから裾野が広がっていくという点にあります。すでにほとんどの業種のトップクラスで、部分的にせよ採用いただいています。官公庁についても、中央省庁、地方自治体でもテスト的にではありますが採用されるケースも出てきました。
景気後退が追い風になっていること、さらにSaaS/クラウドの認知度向上も合わせて、導入に一気に勢いがつく、その手前に来ていると感じています。
(聞き手・太田智晴)
続きは本誌をご覧下さい