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2009年5月号

総務省 総合通信基盤局長
桜井俊氏
NGNへの移行で競争政策も変化
官は民の取り組みを支援

世界的な大不況に直面するなか、
総務省では今後3年間の大方針
「デジタル日本創生プロジェクト」がまとまった。
国内の通信業界は大きな転換期を迎え、課題山積の状況だ。
桜井俊局長は「我々の役目は民の取り組みのための環境整備や支援」と語る。

Profile

桜井俊氏
(さくらい・しゅん)
1977年3月東京大学法学部卒業、同年4月郵政省入省。1999年通信政策局政策課長。2001年1月総務省情報通信政策局総合政策課長。同年7月同総務課長。02年1月大臣官房参事官。03年1月同秘書課長。04年1月同審議官。同年6月経済産業省大臣官房審議官。05年8月総務省総合通信基盤局電波部長。06年7月同電気通信事業部長。07年7月大臣官房総括審議官、08年7月総合通信基盤局長(現職)に就任

この3月に鳩山邦夫総務相の私的懇談会「ICTビジョン懇談会」で、「デジタル日本創生プロジェクト(ICT鳩山プラン)」の骨子がまとまりました。これはどのような内容なのですか。

桜井 ICTビジョン懇談会の緊急提言「ICTニューディール」などをふまえ、これから3年間に集中的に実施すべき施策となるものをまとめています。
 「100年に一度」といわれる経済危機の中で、ICT分野を新たな成長戦略の柱とし、ICT関連の設備投資を促進することで、今後3年間で数兆円規模の市場創出と30〜40万人の雇用創出を目指しています。
 具体的には、デジタル新産業の創出、霞が関クラウドの構築、ユビキタスタウン構想の推進などの9項目からなります。なかでも光ファイバーを中心とするブロードバンドの整備やモバイル環境における情報インフラの整備が経済対策としては大きな意味を持つと見ています。
 海外でも米国のオバマ大統領が経済政策の柱の1つとしてブロードバンド整備を掲げていますし、フランスなど欧州各国もブロードバンド整備に力を入れています。

総務省としては久しぶりの大型ビジョンになりますね。

桜井 6月を目途に2015年頃までを視野に入れた新たなビジョンを策定する予定ですが、ICT分野の包括的なビジョンを示すのは5年ぶりです。今回はインフラだけでなく、その上でコンテンツなどいろいろな情報通信産業サービスが花を咲かせるという内容になるだろうと考えています。

競争政策もNGNに移行

現在、日本の通信市場が抱える課題にはどのようなことがありますか。

桜井 第1に、レガシーな電話のネットワークからオールIPの次世代ネットワーク(NGN)への移行が進展しており、これまで電話網を中心として取り組んできた競争政策をNGNに移行する過程あるいは移行後をにらみ、どう変えていくかという問題があります。
 また、モバイル化が急速に進展しています。携帯電話が3.9GのLTEあるいは4Gとなり高速化が進むと、有線系ブロードバンドと遜色のないスピードを持ったシステムへと高度化します。日本がこの高度化をどのようにリードしていくかということとともに、モバイル化が国内市場の競争状況にどのような影響を与えるかということも非常に大きな課題です。

固定電話からNGNに移行する中で、従来の通信行政も変革を迫られており、今回の接続ルールの見直しで包括的に変わっていくのではありませんか。

桜井 そうですね。NGNについてはネットワークを4つの機能にアンバンドルするという内容の接続ルールを昨年から今年3月にかけて整備しました。これで開放的なNGNにするための制度的な取っ掛かりができたと思っています。その上で現在、包括的な見直しに着手したところです。

公開ヒアリングなどでは白熱した議論が展開されています。接続ルールの見直しはかなり大きな問題になっているように見えます。

桜井 通信事業者の立場によって接続問題に関する主張は大きく異なり、まるでオセロゲームのようです。我々としては利用者視点に立って、この問題に冷静に取り組んでいく必要があると考えています。
 もともと今まで積み上げてきた議論やルールもあるので、その上に現状に合わせてどのように変えていくべきかを付け加えていきます。

移動体分野では、携帯電話市場の飽和が近づいています。行政サイドの取り組みや今後の課題についてお聞かせください。

桜井 携帯電話が広く国民に普及し、これまでのような急激な増加はなかなか見込めなくなっています。スマートフォンや2台目需要、M2Mモジュールなど新しい分野を開拓していかなければなりません。
 我々としては新分野の開拓が可能になるような技術基準を作ったり、周波数を用意するなど、制度的な整備をしなければ次の発展はないと考えています。
 また、WiMAXや次世代PHSでは、いろいろな企業が通信サービスを提供できるようにMVNOの受け入れ計画の着実な実施を義務付けています。
 移動体の世界でも固定と同じように、水平的な分業の仕組みを作ってきました。それが今後どう展開されるか注目しています。
 このように新分野を開拓したりMVNOが活発に参入することで競争力が生まれ、利用者や社会により良いサービスを提供できるようになるだろうと思います。

国内の販売不振で端末メーカーは苦しんでいることから、もっと国際競争力を回復すべきとの指摘があります。

桜井 非常に難しい問題です。国内で市場の大きな成長が期待できないことから、今後は海外展開をしていくことが必要です。
 先進的な日本の携帯電話は「ガラパゴス」と揶揄されますが、携帯の高機能化は遅かれ早かれ世界的な傾向になると思います。そうなったとき、日本の端末メーカーにはそうしたニーズに対応できる能力があります。ただ、そうした高機能サービスはある程度、通信事業者と一体にならなければ実現できないので、各国の通信事業者との関係構築が重要ですし、販路の開拓などもメーカーにとって課題になります。
 そこで、メーカーの国際展開を支援するために、東南アジアを中心に海外で携帯システム普及のためのセミナーを官民が一緒になって開催しています。
 また、LTEや4Gなど新しい携帯サービスの開発や相互接続の検証をするための開発支援テストベッドを横須賀テレコムリサーチパークに整備することとしています。これも国際展開のための取り組みの一環です。

2010年にSIMロックの解除について最終的な結論を出すことになっています。この問題についてはどのように考えていますか。
(聞き手・土谷宜弘)
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