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2009年6月号

富士通 経営執行役常務
川妻庸男氏
企業ネットワークの将来像提起
UCでビジネスは大きく拡大する

企業ネットワークはクラウド時代に向けた進化を始め、
音声中心だったコミュニケーション基盤では
映像・データとの統合化の動きが加速する。
そうした変化に即し、次々と新たな戦略を打ち出す富士通。
企業ネットワーク事業の舵を取る川妻氏に、その戦略の一端を聞いた。

Profile

川妻庸男氏
(かわつま・つねお)
1954年生まれ。77年3月に東京工業大学・工学部機械物理工学科を卒業後、同年4月に富士通入社。95年6月同社クライアントサーバ推進本部技術支援統括部・オープン開発技術部長、2001年10月システムサポート本部システム技術統括部長、02年12月システムサポート本部長代理、03年6月ネットワークサービス事業本部長、06年6月経営執行役兼ネットワークサービス事業本部長などを経て、08年6月経営執行役常務(兼、サービスプロダクトビジネスグループ副グループ長(サービス・テクノロジー担当)、ネットワークサービス事業本部長)に就任。現在に至る

4月に新たな企業ネットワークサービス「FENICSIIユニバーサルコネクト」の提供を開始し、さらにユニファイドコミュニケーション分野においてシスコシステムズと提携するなど、次々と新たな取り組みを開始しています。それらの狙いにも関わりますが、まず御社では、企業ネットワークの将来像をどのように捉えているのでしょうか。

川妻 当社の企業向けネットワークサービスの基本方針は、2007年にスタートした中期計画から、まったく変わっていません。ひと言で言えば、回線の通信速度や料金といった要因が重視されていた従来の形態から、企業ネットワーク事業のビジネスモデルそのものを変化させていくということです。
 速度が何Mbpsだとか、回線が3GなのかWiMAXなのかといったことではなく、お客様の望むことが実現できるサービスであるかどうかということが重要です。08年度も、企業ネットワーク事業は当初計画以上の実績を上げることができました。これは、「回線ビジネス」から脱却したネットワークサービスを提供しようという我々の方針が、お客様にも受け入れられつつあるということでしょう。

FENICSIIのコンセプトとして、事業所などの場所ではなく、端末、つまり人とビジネスをつなぐネットワークサービスを提供するということを、以前から強調されていますね。

川妻 無線通信も含めて回線のスピードが向上し、価格も安くなり、さらにユーザーニーズの高度化・個別化に伴って、ネットワークに接続する端末もますます多様化していきます。この流れは、自然と進むものです。重要なのは、それに伴い、企業ネットワークの利用形態が進化していくということです。
 従来の企業ネットワークとは事業所などの場所をつなぐものであり、PCでそれを利用していました。しかし今後求められるのは、業務を遂行する現場を直接つなぎ、モバイル端末や業務毎の専用端末から利用できるようなネットワークです。
 そのためには、LAN/WAN、インターネット、モバイル網の垣根を無くし、場所や接続方法に関係なく安心安全に、しかも利便性を損なうことなく社内システムやデータセンターに接続できなければなりません。つまり、「誰が」「いつ」「どこで」「どの端末から」「何をするのか」によって、ユーザー毎に仮想ネットワークを構築する形態になります。
 従来のファイアウォールの単純なロジックではなく、企業のセキュリティポリシーによって制御する新たな仕組みが必要です。これを実現したのが、今回発表した「FENICSIIユニバーサルコネクト」です。

クラウド時代への布石

ユニバーサルコネクトは、従業員がモバイル端末を使って外出先から社内システムを使うシーンを想定したものですね。これを使うことで、ユーザーは具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。

川妻 利用者は、1つのID/パスワードにより、アクセス経路や端末種別を問わず、どこからでも社内システムに安全に接続できます。端末認証や生体認証も組み合わせることが可能です。
 ユーザー企業は、リモートアクセス環境を実現するために、アクセス毎に個別にネットワークを構築する必要がありません。
 ID/パスワード認証については、お客様自身がIDを自由に定義できるのが特徴です。従業員番号など、既存の管理体系をそのまま用いることもできます。端末認証をセットで用いた場合には、利用ログも取得できるので端末の稼働状況を容易に把握できるようにもなります。
 さらに、携帯電話からの業務システム利用をしやすくするため、PC向けのWebコンテンツを携帯ブラウザ向けに自動変換する「モバイルコンテンツ変換」の機能も用意しました。

接続方法や端末の違いを意識せずに社内のデータやアプリケーションが利用できるようになることで、ユーザー企業はクラウドコンピューティング環境にも移行しやすくなりますね。

川妻 ユニバーサルコネクトを利用することで、お客様自身のデータセンターや富士通のデータセンター、他社SaaSなどのクラウド環境と利用者を、安心安全につなぐことができます。当社のクラウド戦略においても鍵となるサービスだと言えるでしょう。

シスコとともにNo.1を獲る

4月にはもう1つ、戦略的な発表がありました。ユニファイドコミュニケーション(UC)分野におけるシスコとの提携です。シスコのUC製品を販売するとともに、富士通のテレフォニー製品等と連携する機器も開発していくということですが、まず提携に至った背景について聞かせてください。

川妻 大きく2つの要因があります。
 1つは、お客様の将来のコミュニケーション環境を考えた場合、今のPBXだけを勧めていて良いのかということです。
 今年PBXを更新すれば、2020年より先まで使い続けることになります。その頃には、通信環境は劇的に変化しているはずです。例えば、モバイルの世界では4Gが実現されていて、1Gbpsの無線通信が可能になっています。その時、音声中心のコミュニケーション基盤で果たして十分でしょうか。我々メーカーには、お客様に統合コミュニケーションについて、しっかりと説明する責務があります。
 もちろん、PBXの持つ信頼性を求めるお客様もいらっしゃいます。誰もがUCを求めるわけではないことも理解しています。ですから、IP Pathfinderの開発・販売を止めるわけではありません。両方継続していきます。

PBXが無くなることはないということですね。

川妻 そうです。今のPBXの特徴のままで良いというお客様を、無理矢理UCに移行させるつもりはまったくありません。
 ただ、今後、企業のコミュニケーション基盤がどのように進化していくのか、UCの世界をお客様に話していく責任を我々は負っているということです。音声中心のPBXだけでは、不十分なのです。

もう1つの要因とは何でしょうか。

川妻 富士通とシスコが組むことで、UC市場を制覇できるのではないか。世界が今、そういう状況にあるということも背景にあります。
 UC市場というものは、まだ存在していません。現在は、「UC」という名で音声を売っているに過ぎないのです。これは、日本も欧米も同じです。
 では、UCを実現するのに最も適したネットワーク環境、モバイルの環境はどこにあるのか。言うまでもなく日本です。LTEがスタートすれば、国際標準の中で世界を先取りしていくことができます。
 1998年からSIの分野、ルーター・スイッチの開発などで提携を続けてきた両社には強い信頼関係があります。お互いの技術を融合させることで、まず日本でUC市場を作っていく。それから、グローバルでUC市場のトップシェアを狙っていくというのが、今回の提携の目的です。

従来のPBXシステムからUCに変わることで富士通、そして販売パートナーのビジネスはどのように変わるのでしょうか。

川妻 まず、お客様に大きなメリットを提供できます。
 大規模な環境においては、拠点ごとにPBXが置かれていますが、それらをすべて入れ替えていくには莫大なコストが掛かるでしょう。これを、コスト負担の少ない形でUC環境に移行していくことができます。
 富士通では、既存PBXとシスコUC製品との連携製品を用意します。これにより、センター拠点にCisco Unified Communications Serverを導入すれば、拠点側でも多機能電話機やPHS、スマートフォンからUCの機能が利用できます。償却が完了した時点で拠点のPBXは撤去し、本社のUCシステムに統合していくことも可能です。
 電話・FAXが中心のPBX環境から、会議システムやメール、グループウェアとの統合環境に移行することのメリットは、今さら言うまでもないでしょう。

パートナーにも変化を促す

ユーザーは、既存設備を最大限有効活用しながらUCに移行できるということですね。

川妻 そうです。お客様に効率的なマイグレーションパスを提示できます。さらに、我々とパートナーにとっては、PBXがUCに変わることでLAN側のビジネスを巻き取ることが可能になり、パイが大きく広がります。
 また、ビジネスの質も変わっていくことになります。
 従来、PBXの販売は売り切りモデルでした。IP化した時点で、メンテナンスで収益を上げるビジネスモデルは厳しくなってきています。
 しかしUCは、導入した後のビジネスが大きく広がります。モバイルの活用、Web会議やメールとの連携、テレプレゼンスの導入など、継続したビジネスがいくらでも展開できるのです。
 PBXの時代には、なかなか外の領域に出て行くことができませんでした。UCでは、サーバーの周りにコミュニケーション系のアプリケーションをたくさん置くことができるのです。
 富士通のパートナーには、通信とITの両方の組織を持っている方々がたくさんいますから、そうした幅の広いビジネスを一緒に展開していけるでしょう。もちろん、音声中心のパートナーの教育支援も一生懸命行っていきます。

FENICSUユニバーサルコネクトとUCで、製品ポートフォリオが出揃った感がありますね。

川妻 ネックは、ユニバーサルコネクトも略すとUCで、略語が同じになってしまったことですね(笑)。
 ただ、どちらも、どんどん複雑化するネットワーク環境を非常にシンプルにできるものです。お客様は導入しやすく、我々やパートナーも勧めやすい商品構成になりました。

2つのUCは、ともに企業ネットワークの将来像を示したものと捉えることもできます。

川妻 その通りです。
 その上、ネットワークの構築、運用管理の負担を軽減できるという点で、現在のお客様の経営環境にも合致しています。私は、この2つのUCを、実際に業務を遂行する人、そしてシステム部門にとっての「お助け機能」のようなものと考えています。
 経営の苦しい時期であることは間違いないので、新しいアプリケーションを開発したり、業務システムを大きく作り変えたりすることは難しいでしょう。ですが、我々が提案する2つのUCはともに、今使っているシステムをもっと楽に便利に使っていこうというものです。不況の時期に適した商品なのです。
 この二大商品をベースに、当社の企業ネットワーク事業は今年も大きく前進できると確信しています。
(聞き手・土谷宜弘)
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