●7月1日に日立コミュニケーションテクノロジー(以下「日立コム」)を吸収合併し、情報通信グループの新体制が発足しました。まずは、この狙いから聞かせてください。
伊藤 2002年にキャリア向け事業を主とする日立製作所・通信事業部と、民需向けのPBX事業を主とする日立テレコムテクノロジーを統合し日立コムを設立した目的は、通信事業の機動力を向上させることでした。
今回、それを再び日立製作所に再統合したのは、社会インフラ事業により注力していこうとする日立全体の方針に基くものです。
電力やガス、水道、そして交通などとともに「通信」も、すでに企業活動や個人の生活に欠かせない重要な社会インフラの1つになっています。日立は、これまで積み重ねてきた社会インフラシステムに関する経験やノウハウを活かして「社会イノベーション事業」を強化する方針を打ち出しており、次世代ネットワーク(NGN)構築もその1つに位置付けています。
通信の分野で起こっている大きな変化、つまり従来の電話網からIPネットワークへの移行に対応するためには、日立製作所と日立コムの両者の力を融合させることが不可欠であり、NGNの発展に向けた取り組みをより強化するために通信ネットワーク部門を再統合しました。
●キャリア網のIP化に向けて、通信ネットワーク事業に求められる新たなニーズに対応するためということですね。
伊藤 そうです。サーバーやストレージ、ソフトウェア開発、仮想化などの日立製作所が持つ技術と、ソフト・ハードともに信頼性の高い製品を作り出してきた日立コムの技術を融合しなければ、NGN発展のシナリオは描けないと判断しました。
実際に通信キャリアからの要求も、日立製作所のネットワークソリューション事業部、日立コム、そしてアラクサラネットワークスの力を合わせなければ実現できないものへと変わってきています。
そのシナジー効果を発揮したネットワーク仮想化の一例が、これまでサービスごとに構築されてきたSDHやATMなどのレガシーネットーワークを回線エミュレーション機能によってIPネットワークに巻き取り、単一のトランスポートネットワークに統合するMPLS-TP技術です。この技術は、レガシー系設備と同等の信頼性を保ちながら、複数のサービスを1つの伝送装置で提供できるようにするものです。
MPLS-TPを採用した製品は、すでに国内の通信キャリアに導入されており、これをインフラとしてイーサネット専用線サービスが展開されています。
こうしたネットワーク仮想化への対応1つ取ってみても、製品開発力、営業・SE力の結集は欠かせません。これまでも、NGN事業を進めるうえでグループ内の連携、最適化は進めてきましたが、今回、会社の壁を取り払ったことで、より大きなシナジー効果が発揮できるでしょう。
NGN需要創出のシナリオ
●NGN事業の強化が今回の再編の狙いだということですが、具体的にどのような取り組みを進めていくのでしょうか。
伊藤 3つの柱で考えています。1つ目は当然ながら、新たな社会インフラとしてNGNを発展させていくための基盤となる製品とソリューションを通信キャリアに提供することです。それとともに、我々には数多くの法人のお客様がおり、NGNを活用してビジネススタイルを変革する新たなソリューションも生み出していかなければなりません。これが2つ目の柱です。
また、当社は家電メーカーでもあり、個人のライフスタイルの変化に対応した新たなサービスの創出も担うことができます。これが3つ目の柱です。
●NGNの普及を進めるうえで、新需要の創造は大きな課題です。
伊藤 キャリアの顧客である法人は、同時に、我々がICTソリューションを納めている顧客でもあります。また、電力・電機、都市開発システムなどの他事業グループや、オートモーティブシステムズなどのグループ会社の顧客でもあります。
そうした各グループが、例えば無線ネットワークを使ってクルマの情報を収集する次世代交通情報システム、あるいは供給者と消費者の間の電力伝送を効率化するスマートグリッドなど、ネットワークを活用した新たなソリューションの開発を進めています。つまり我々は、NGNの基盤を提供するのと同時に、ネットワークに対する顧客のニーズを把握し、それに基づきNGNの需要を作り出す側でもあるのです。
我々と顧客のそうした取り組みから、ネットワークへのニーズが落ちてきます。
当社では4月に、環境、エネルギー、次世代交通情報システムなどの展開に備え、グループのIT基盤を集約し、電力・電機事業の融合を推進するための組織「情報・電力・電機融合事業推進本部」を設置していますが、このように社内の他グループとの連携を強化することで、新たな需要を生み出していけると考えています。
●従来の体制とは、違った展開が望めるということですね。
伊藤 従来、日立コムは主要な顧客である通信キャリアに、彼らの要求に対応する製品やソリューションを提供していました。しかし今後は、ユーザー企業とともにNGNの需要を創出することがより重要になります。
日立が得意とする社会インフラ事業、例えば発電・送電、列車運行制御などの分野においては、サービスを提供するためのネットワークに高い品質が求められます。NGNの活用領域は、間違いなく拡大していくでしょう。
(聞き手・土谷宜弘)
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