●厳しい経済環境が続いていますが、ネットワークインテグレーション市場はどのような状況にありますか。
吉野 製造業を中心に投資が減少している状況は今も同じです。案件数は昨年度の下期と比べ、増えても減ってもいません。回復するのは今年度の下期ないしは来期と見ていましたから、その意味では予測通りです。
一方、今年度最大のリスク要因は価格競争だと理解していましたが、これについては想定を超えた事態が起きています。第2四半期以降、価格競争は非常に激化しました。
●どれくらい激しい値下げ競争が起こっているのですか。
吉野 お客様が予算化していた額を2〜3割下回るというのは一般的です。それが3〜4割カットになるのか、最悪のケースで半分かと5月頃には見ていました。ところが、他社の話ですが、2〜3割カットが逆転し、2〜3割で受注というケースが7〜9月の間に数件あったと聞いています。お客様もびっくりのはずです。
●7〜8割カットですか。それでは受注しても大赤字ですね。
吉野 利益面でいえば、明らかに赤字受注でしょう。我々の業態で最もコストが大きいのは人件費なのに、どうみても人件費をカバーすることはできません。緊急事態だから利益はさておき売上を伸ばすんだという論法でしょうが、困るのは業界自体が縮小しかねないこと。業界の健全な成長が損なわれれば、結果的にお客様も被害者になります。
運用管理者はコアか?
●大変な状況のようですが、ネットワン自体の業績は堅調ですね。第1四半期の連結決算も増収増益でした。7月には4つの事業戦略を発表し、今期の成長戦略を明確にしています。
吉野 事業戦略の1番目は「ネットワーク事業における差別化」です。ご承知の通り、ネットワンはネットワーク専業のインテグレーターとして今日まで来ました。そのため、お客様からはルーター/スイッチの物販とも見えてしまうのですね。新しいテクノロジーには先行者利益がありますが、最近は陳腐化も早く、それが得られるのは3年ぐらいです。だとすると、いつまでもお客様に製品をデリバリーするだけでは、売上は毎年下がっていきます。
では、どう差別化するのか。例えば、セキュリティが話題になって十数年が経ちます。ところが多くのインテグレーターはセキュリティのテクノロジーの話ばかりしていて、そのコンサルテーションや導入後の監査の話はしません。そこで1年前、ビジネスアシュアランスというセキュリティ監査の専門企業を設立しました。セキュリティ監査とネットワークインテグレーションが融合すれば、単なるインテグレーターにはない付加価値を提供できます。
●それはユニークな取り組みですね。事業戦略の2番目は「サービス事業の拡充」です。今後5年で全売上の50%までサービス事業の売上を高めるという目標を掲げています。
吉野 ユーザー企業のIT部門には運用管理者の方がいますが、これだけテクノロジーの複雑さが増していると、人もお金もどんどん膨らんでいきます。しかし今の時代、自社のコアビジネスに集中して投資したいですよね。だとすると「運用管理者はコアですかノンコアですか」と。そこで07年11月にエキスパートオ
ペレーションセンター(XOC)を新設し、LAN/WANのリモート運用管理サービスを提供してきましたが、ここをもっと拡張しようと、昨年度から今年度にかけて、ユニファイドコミュニケーション(UC)とセキュリティのメニューを加え、内容の充実を図っています。今後さらにデータセンター周りのサーバーやストレージのリモート監視も追加する計画です。
UCの案件数は倍近くに
●UCの話が出ましたが、「UC事業の促進」が事業戦略の3番目です。
吉野 ときどき誤解されるのですが、既設の電話システム自体を否定するつもりは一切ありません。そうではなく、「IPネットワークをすでに利用されているのであれば、そのさらなる有効活用をしませんか」というのが1点。「社員1人ひとりの生産性向上を考えたとき、今のコミュニケーションのやり方に問題はないですか」というのがもう1点です。
●国内PBXベンダーも以前からUCに注力していますが、なかなか思うように市場は立ち上がりません。
吉野 ある食品業界大手のお客様の案件で経験したことです。数億円規模の投資になりますから、今の電話システムと何が変わるのか、ROI(投資利益率)を数値で示さなければ経営陣は「イエス」と言いません。そこでお客様のIT部門と相談し、営業、研究開発、財務など5部門から5人ずつ選び、1週間の仕事のやり方――何のために時間を使っているかを全部アンケートに記入してもらいました。その結果から判明したのは、仕事時間の50%は何らかのコミュニケーションに費やしているという事実でした。例えば、メールや電話をしている時間、打ち合わせの時間、それに打ち合わせをするための時間調整に費やした時間などですね。
そして、その50%のうち何割に成果があったかというと、たった1割だったのです。つまり、残り9割は、電話したけど相手がいなかったなど、無駄な時間となっていた。実に仕事時間全体の45%を成果のない仕事に費やしていたわけです。
それで、そのお客様の平均給与からロスしているコストを計算し、UCでどれだけ改善できるかを数値化したら、1年で投資が回収できることが分かりました。役員会議は一発で通りましたよ。
●08年度のUCの案件数は、07年度に比べて4倍に増えたそうですが、今年度はこれまでどうですか。
吉野 上期の状況で言うと、案件数は08年度の倍近くに増えています。ソリューションとは「問題解決」という意味ですが、問題意識がない方に問題解決の提案をしても聞いてもらえません。したがって、案件数が増えているということは、コミュニケーションに関する危機意識は着実に広がっているのだと思います。ただ、この経済状況ですから全面導入は少なく、規模を抑えるケースが多いです。
(聞き手・土谷宜弘)
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