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2010年1月号

OKI 代表取締役社長
川崎秀一氏
収益安定へ“ストック型”に転換
顧客視点を技術開発にも注入

「OKIのビジネスは未だにプロダクトアウトの発想。大事なのは、
お客様にどのような効用を与えるかだ」と川崎社長は語る。
事業運営体制の変革を掲げ、新中期経営計画を策定中の同社は、
どのような姿に生まれ変わろうとしているのか。
川崎社長に舵取りの方針を聞いた。

Profile

川崎秀一氏
(かわさき・ひでいち)
1947年1月10日生まれ。1970年3月早稲田大学法学部卒業後、同年4月沖電気工業入社。90年11月金融システム営業本部営業第三部長、92年4月秘書室長、99年4月NTT営業本部長、2000年4月ネットワークシステムカンパニーVP(バイス・プレジデント)、01年4月執行役員、04年4月常務執行役員ネットワークシステムカンパニープレジデント、05年4月営業推進本部長、同年6月常務取締役、08年4月情報通信グループ金融事業グループ長、09年4月副社長執行役員 代表取締役副社長を経て、6月代表取締役社長執行役員。現在に至る

6月に社長に就任されてから約半年が経過しました。通信業界の現状をどのように捉えていますか。

川崎 状況が大きく変わってきていると思っています。
 NGNの構築、移動体通信網の高速大容量化と、新たなインフラ構築のための大規模な設備投資がこれまで続いてきました。しかし、その新たなインフラもかなり整備されつつあります。光回線は2000万加入に近づき、モバイルの通信環境も大きく向上しています。
 今後も進化は続きますが、インフラ投資はある程度一巡したといえるでしょう。ですから、特にキャリア向けビジネスについては、この状況にどう適応していくかが重要になると考えています。

キャリア向けビジネスは大きな曲がり角に来ているわけですね。では、どのような展開を考えているのでしょうか。

川崎 まず、今後数年間の固定網に関しては、NGNと並存する既存サービスのインフラ設備を効率的に運用し、有効に活用しようというニーズが大きくなるはずです。
 このニーズに応えるには、これまで既存網を担ってきた我々のノウハウが必要です。派手さはありませんが、既存網の効率運用に貢献する部分で、地道なビジネスを着実に積み重ねていきます。
 そしてその先には、大きなチャンスがあります。一般電話回線や従来の光ネットワークなど、数千万加入にも及ぶ既存サービスインフラを新ネットワークに巻き取っていくマイグレーション事業が始まるからです。この非常に大きな市場で一定のポジションを占められるよう、技術開発を進めていきます。
 また、移動体通信の分野でもチャンスはあります。
 LTEへの移行により移動体通信網が高速大容量化すれば、より多くのデータ通信を活用したサービスが展開されるでしょう。そうすると、移動と固定の連携・融合に伴う相互接続がより重要になってきます。
 OKIはこの「つなぎ」の部分を担うセッションボーダーコントローラーで強みを持っており、これからチャンスが来ると見ています。

「材料だけではダメ」

大規模な設備投資が望めないという意味では、企業ネットワークも状況は同じです。

川崎 企業向けビジネスでは、高度化した新たなインフラをどのように利活用していくのかという視点が、さらに必要です。
 これまで長い間、NGNやワイヤレスブロードバンドによって目指すべき将来像が語られてきましたが、いよいよそれを具体的に実現していく段階に入ってきています。ネットワークを利活用するための提案が重要になるでしょう。
 我々には通信の技術やインフラ構築の経験があり、その一方で、お客様の業務における通信・ネットワーク利活用のノウハウも持っています。これを組み合わせて、ビジネスのやり方を変えていきます。
 インフラビジネスを長年やってきたOKIは、どうしても考え方がプロダクトアウトで「モノ中心」になってしまっています。料理で言えば、ネットワークや設備といったものはすべて「材料」に過ぎません。私は「材料を売るのではなく、その利活用によって法人のお客様の業務をどう変えていくのかという着眼点が、今後はもっと必要になる。お客様が食べたい料理を作って売れ」と言っています。

ソリューション提案の強化に力を入れるということですね。

川崎 重要なのは、シェアNo.1の分野をいくつも作ることです。
 例えばコンタクトセンターの分野では、当社の「CTstage」がトップシェアです。No.1になれば、業務に関連するより多くの情報がそこに集まり、ノウハウもアプリケーションも積み重ねられます。そして、それがまた新たな提案につながっていきます。他の分野でも、そうした正のスパイラルを作っていきたいのです。
 「ここでは負けない」という得意分野を作って欲しいということを、社員には伝えています。

提案型営業の強化は、通信系の販売店にとっても重要なテーマです。

川崎 販売店の方々は、OKIにとって大切な存在です。それは、エンドユーザーに確実に商品を売るということだけではありません。我々にお客様のニーズを伝えてくれる役割を持っているからです。
 そのためにも、お客様の変化にどう対応していくのか、販売店の方々にもさらに勉強していただきたいと思っています。
 これからは、PBXの延長線上で考えていてはお客様のニーズは解決できません。自分たちが持つ材料でどういう料理が提供できるのか、どうやったらお客様を喜ばせられるのか。それが提案できなければ、競争に勝ち抜いていくことは難しいのです。
 OKI自身が変わろうとしているように、販売店の方々にも変わっていただきたいですね。
 そのためには我々もできるだけのお手伝いをします。

サービス事業の比率を高める

さて、OKI全体の今後の方向性について伺います。9月に発表された3カ年の中期経営方針では、2013年3月期を目処に営業利益率5%達成を目標に掲げています。

川崎 半導体事業を切り離したことで(08年10月に分社化。株式の95%をロームに譲渡)、グループ全体の事業規模は縮小しましたが、収益構造は安定しました。これをさらに確実なものにすることが第1ステップになります。成長戦略も重要ですが、まずは足元をしっかり固めたうえで成長を目指すというのが方針です。

そのための取り組みとして「連結経営の変革」「生産拠点の再編成」が最優先に挙げられています。

川崎 OKIはこれまで分社化を進めてきました。市場そのものが拡大していた時代には、それが効果を発揮する面もありましたが、現在のような状況で確固たる収益基盤を作っていくには、やはりグループ全体の構造と役割を再度見つめ直すことが必要です。
 子会社に分散している技術を集め、グループ全体を事業セグメント単位で全体最適が図れるようにすることで、どこを強化すべきかも見えやすくなります。連結経営の変革を一番目に挙げたのは、そのためです。
 一気にはできませんが、今後3年間で課題を抽出しながら取り組んでいきます。

3番目に挙げられているのが「サービスビジネスの強化」です。

川崎 通信事業に限らず、メーカーのビジネスは今まで「モノを売ったらお終い」でした。収益安定のためにも、ストック型ビジネスの比率を高める必要性を強く感じています。
 ただし、これはメーカーとしての事情というだけではありません。お客様のニーズも確実に「所有から利用へ」と変わってきていますから、それに適応する形でサービスビジネスを育てていきたいと考えています。
 すでに現在我々が持っているリソースでも、さまざまなサービスが提供できるはずです。
 例えばネットワークインテグレーションについては、お客様が事業環境や通信インフラの変化に応じて最適な利活用ができるようなコンサルティングサービスの提供から行うことも考えられます。また、ルーター・スイッチなどの機器設備を月額利用料で提供するといった形もあり得るでしょう。

最後に、環境・省エネ関連などの「新規事業創出」があります。

川崎 OKIにはまだまだ埋もれている技術があります。現在は技術の棚卸をしている最中で、環境関連のほか、プリンターで培ったLEDの技術などにも期待しています。

UCも料理の一部

ところで、その経営方針発表会では、IP-PBX事業について「他ベンダーとのアライアンスも検討している」という発言がありました。

川崎 プロダクト事業というものは、ある一定のシェアを取らなければ成り立ちません。シェアを高める方策はいくつかありますが、アライアンスもその1つだということです。
 具体的に決まっていることはまだありませんが、開発・販売の両面で検討しています。

IP-PBXのOEM提供も選択肢にあるということですか。

川崎 当然、それも検討します。

通信分野については、今後どのような製品に注力していくのですか。

川崎 従来は中〜大規模市場を主なターゲットにしてきましたが、11月末にSOHO向けの新製品「IPstage 1000」を発売しました。小規模なクラスも積極的に狙っていきます。
 また、サービスビジネスについては、ビデオ会議システムの「Visual Nexus」も、売り切りだけでなくサービスモデルでもっと展開したいですね。中規模から小規模まで幅広く展開できるこの製品を、もっと上手く活用できないかと考えています。

企業ネットワークでは現在、ユニファイドコミュニケーション(UC)がキーワードになっています。OKIはいち早く取り組みを進めてきたわけですが、今後の展開は。

川崎 UCも材料に過ぎません。OKIのUCには、音声コミュニケーションからスタートしているという強みがあるのですから、その良さを業務変革にどう活かしていくのかという点にもっと着目する必要があります。
 まずはお客様の仕事を改善したという実際の例を地道に作っていきたいですね。
 材料ではなく、どういう料理を提供してお客様が満足を得られたか、という点にもっとフォーカスする体制に変わっていかなければいけません。

営業・技術の交流求む

開発体制、それから販売の面でも大きな変化が必要ですね。

川崎 繰り返しになりますが、技術開発においてもプロダクトアウトの体質を変えて、マーケットインの考え方にしていくことが必要です。「技術的に可能になったからUCを導入する」などということはありません。
 お客様は固定電話に携帯電話、PCを使っていて、音声とテキストのさまざまな情報を扱っています。通話先の状況に合わせて内線と携帯電話を自動的に切り替えられないかとか、あるいは外出先からプレゼン資料を使って社内会議に参加できないのかと、いろいろな不便を感じています。そこにどのようなソリューションが提案できて、どれくらいの市場が見込めるのか。そうした視点からの技術開発が必要でしょう。

川崎社長は営業の経験が長いですから、その分、もどかしさも感じられているのではないですか。

川崎 そうですね。営業にも「技術にもっと物を申すべき」だと伝えています。
 「なぜ売れないのか」を言わなければ改善はしません。双方のコミュニケーションがあって初めて、マーケットインの考え方になっていくはずですから。

(聞き手・土谷宜弘)

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