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2010年4月号

ジュニパーネットワークス 代表取締役社長
細井洋一氏
映像サービス支える新技術を訴求
エンタープライズ市場でも攻勢へ

今のネットワークにはイノベーションが必要。
そこに価値を見出したからジュニパーに来た――。
昨年11月に就任した細井社長は、そう語る。
キャリア向け事業でシスコと肩を並べるに至った同社の“次の挑戦”
エンタープライズ市場開拓への戦略と意気込みを聞いた。

Profile

細井洋一氏
(ほそい・よういち)
1977年慶応大学法学部卒業、1979年Colby College経済学部卒業後、バイテル・ジャパン(現エクスパダイト)入社。1988年同社代表取締役社長、1992年日本サン・マイクロシステムズ(現サン・マイクロシステムズ)常務執行役員、2004年日本SSAグローバル代表取締役社長、06年9月ハイペリオン代表取締役社長(07年7月〜07年9月:統合に伴い、日本オラクルへ転籍)、07年9月エヌビディア(NVIDIA Corporation) 日本代表兼米国本社ヴァイスプレジデントを経て、09年11月ジュニパーネットワークス代表取締役社長に就任。現在に至る

経歴を拝見すると、前職はGPU(Graphics Processing Unit)メーカーのエヌビディア日本代表、それ以前もサン・マイクロシステムズなど、通信・ネットワーク業界以外の名前が並びます。

細井 ネットワーク業界との関わりのほうが実は深いのです。30年も前の大学を卒業したところから話を始める必要がありますが、バイテル・ジャパンというVANサービスを提供する会社に14年間いて、テレックスやFAX、eメールなどのビジネスに関わりました。
 当時の顧客には証券会社や船会社などがあったのですが、彼らが情報を売り物として、多くの人に瞬時に届けるために通信サービスを活用し始めた頃のことです。その頃から、ネットワークと通信の重要性を肌で感じていました。
 サン・マイクロに移ったのも、彼らの標榜する「The Network is The Computer」、コンピューターはネットにつながってこそ価値を持つという方向性がきっかけでした。

なるほど。ネットワーク業界を出発点に、そこからIT業界の経験を積んだということですね。

細井 エヌビディアでは、GPUのパワーに圧倒されたことが貴重な経験になりました。画像処理という1つの目的に特化したチップセットがどれほどの威力を持つのか。これを学んだことが、ジュニパーに来た理由にもつながっているのです。
 今や、PCだけでなく、スマートフォンやスマートブックといったモバイル端末にもGPUが搭載されてきています。省電力化と画像処理能力が追求されていくことで、映像はSDからHDになり、さらに今後は3Dの映像データがネットワーク上を駆け巡るようになります。テレビのIP化もこれに拍車をかけるでしょう。
 当然、ネットワークにはイノベーションが必要です。
 イノベーションが必要なところには当然、ビジネスの価値が生まれます。“ハイパフォーマンスなネットワーク”を実現することが、私がジュニパーに来た目的です。

新技術開発で競合を圧倒

そのお話にもつながりますが、社長就任の直前の10月にジュニパーは「THE NEW NETWORK」という新たな概念を打ち出しました。ビデオアプリケーションの普及によるトラフィックの激増、端末の多様化といった課題に応えるための戦略的なビジョンと言えるものです。それとともに新製品や新技術も発表されています。

細井 その意味でも、良い時期にジュニパーに来れたと思っています。
 ジュニパーの最大の特徴は、テクノロジーに対する貪欲さにあります。それが最も表れているのが、特定用途のために設計・製造される集積回路であるASIC(Application Specific Integrated Circuit)の開発です。高いパフォーマンスを実現するには、やはり、ある目的に向けて作り込まれたチップセットが必要です。
 10月に新たなチップセット「Junos One Trio」を発表しました。最大で2.6Tbpsのパケット転送能力を持ち、現行製品の2〜3倍になります。すでにエッジルーター「Juniper MXシリーズ」に搭載して市場投入しています。

シスコシステムズやアルカテル・ルーセントなどの他社もASICを開発して製品に搭載していますが、御社の特徴は何でしょうか。

細井 大きく異なる点は、ASICの良さをどのように機器に反映させるかという点と、製品化のスピードです。ASICと汎用チップそれぞれがどれだけの機能を担うかによって機器の特性は大きく違ってきます。
 我々の場合は、例えばメモリールックアップやパケットフォワーディングなど、ほとんどの領域を自社開発のASICが担っています。これによって製品のパフォーマンスに大きな違いが出るのです。
 この不況下にあっても、ジュニパーの研究開発投資は売上高比20%を上回っています。競合各社が20%未満であるにも関わらずです。それだけ、技術革新に貪欲であるということです。

オープン化する「Junos」

10月の発表では、ネットワークOSであるJunosソフトウェア群の製品ポートフォリオにも変化がありましたね。

細井 ネットワークにおける課題は、処理速度の高速化だけでは解消できません。ネットワークのトラフィックは2020年までに現在の17倍にも達するという調査結果があります。ソフトウェアや端末がどれほど進化しても、ネットワークインフラがしっかりしていなければ良質なサービスは提供できません。サービスプロバイダーはすでにそうしたジレンマに陥り始めています。
 解決策は、ハイパフォーマンスと、制御・管理の簡潔性です。ルーター/スイッチ、セキュリティ製品にJunos OSを共通して採用することで、これらを統一して管理・運用できるので効率性は大きく向上します。
 これに加えて、開発パートナーとの連携を深めるためにオープン化も進め、エコシステムの確立にも取り組んでいます。

具体的に、どのような取り組みをしているのでしょうか。

細井 ネットワークアプリケーションの開発・実行環境である「Junos Space」、それから、さまざまな端末・接続形態に対応する統合型のネットワーククライアント「Junos Pulse」をリリースしました。
 自社のアプリケーションに加えて、サードパーティのアプリケーションをJunos Spaceの上で動かすことも可能になります。現在、ネットワーク運用監視負荷を軽減するための3つのアプリケーションを提供していますが、今後かなりの勢いで新たなモジュールが登場してきます。
 Junos Pulseは、端末の接続と管理を容易にするクライアントソフトウェアです。家のPCから、会社のPCから、それからモバイルからと、ユーザーが利用する端末とネットワークの接続環境は多様化しており、つなぐたびにセキュリティを担保しつつ最適な環境を整えるのは大変な負荷を伴います。Pulseはアクセス管理やSSL-VPN、WAN高速化の設定を自動化するもので、これを動作させるだけで利用環境に最適な設定が自動的に行われます。
 このように進化したJunosプラットフォームと新チップセットによって、ハイパフォーマンスで運用負荷が低く、かつインテリジェントなネットワークが実現できます。これにより通信事業者の収益率改善に貢献しようというのが「THE NEW NETWORK」のビジョンです。

企業向けに技術力をアピール

では次に、今後の国内展開の方向性についてお聞きします。ジュニパー全体としてエンタープライズ市場の開拓に力を入れていますが、これをどのように進めていきますか。

(聞き手・太田智晴)
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